ジム。
リョウタを無理矢理誘って、ジムの体験入学に、行った。
「インストラクターの川崎です。よろしくお願いします」
まるで、体操選手のような締まった体で、爽やかな先生だ。年は24歳らしい。
早速、リョウタの機嫌が悪い。
ランニングマシンのやり方を教えてもらってると、川崎先生が
「笹原さんの旦那さん、なんかオレを睨んでるような気がします」
と、私にボソッと、言った。
「いつもだから、気にしなくていいですよ」
気にしなくていいと言ったが、睨まれてるほうは、いい気分はしないだろう。
「なんか、あの川崎ってインストラクターさ、教えるふりして、やたら京子の体触ってなかったか?腰なんて、めちゃ触ってた」
体験入学終えて、家に帰ると、リョウタが言った。
「仕事でしょう。24歳の人が、40歳のオバサンの体触ったからって、嬉しくもないでしょう」
「そんなことないさ。仕事と称して、触りまくりだよ」
「リョウタの考えすぎよ。一日やっただけで、体が締まった感じするから、会員申し込もうかな」
「オレは、やんねーからな。だから、京子もダメだ。あんなセクハラインストラクターいるとこ、行かせない」
そんなこと言ったて、市の施設のジムだから、料金も他より安いし、これから、胸も尻も垂れていく年齢だから、運動したほうがいいよね。リョウタが何と言おうと、申し込んでしまえば、こっちのものよ。
ディナータイムに、初めてのお客様と思える50歳前後の女性が一人で来た。
「スパークリングワイン下さい。瓶で。」
また、ワインをボトルで一人で飲むお客様が現れた。ということは、相当ストレスが溜まってるのだろうか。
リョウタが、スパークリングワインを持っていくと
「あら。店員さん、いい男ね。ワイン注いでよ」
「かしこまりました」
リョウタがワインをグラスに注いだ。
「大学生の娘が、お母さんのナポリタンは、美味しくないから、ここの店のナポリタンを、見習いなさいと言うから、家出ついでに、きて見たのよ」
家出!?主婦が家出したくなるようなことが、家庭であったのだろうか。
「家出ですか?ご家族心配してるかもしれませんから、ここにいること連絡した方がいいですよ」
リョウタが、お客様に言った。
「連絡したら、家出にならないでしょう」
確かに、連絡したら家出にならない。
「せっかく来たんだから、たまにはナポリタンじゃないパスタ食べたいわね。このアスパラベーコン食べたい。けど、娘が、ここのナポリタン見習えというくらいだから、ナポリタンも食べてみたいわね」
主婦のお客様は、かなり迷ってるようだった。
「それでは、ハーフハーフに致しますか」
リョウタが、迷ってるお客様を見かねて言った。
「出来るの?」
「シェフに、そうするように言いますから」
リョウタが、そう言うと、お客様は、キッチンの方を見た。
「二人でやってるの?」
「はい。妻と二人でやってます。忙しいときは、妻の母と父が手伝ってくれます」
「えー。仕事も、家も奥さんと一緒じゃ嫌にならない?」
「楽しいですよ」
「ふーん。今だけよ。あと20年もすれば、私みたいに、会話もない夫婦になって、一緒にいるの嫌になるわよ」
そして、お客様は、家出のいきさつを語り始めた。
高橋祥子さん。48歳。隣の市から、やってきたそうだ。
52歳の旦那さんが、会社の23歳の女性社員とメールをしてるのが発覚した。自分とは、メールしても、返信をよこさないくせにという言い分。そして、高校生の息子さんに、お弁当が、不味いから、もう作らなくていいと言われ、ショックを受けている。そして、大学生の娘さんに、お母さんの作るナポリタンは美味しくないから、この店のナポリタンを見習いなさいと言われて、またショックを受けたらしい。
高橋祥子さんは、スーパーのパートをしてるらしい。自分も働いてるのだから、朝は忙しいから、お弁当は、冷凍食品ばかり詰めていたと言う。子供も旦那さんも、何も手伝ってくれないのに、文句ばかり言われて、嫌になって、パート帰りに、そのまま家出したらしい。明日はパートも休みだし、今日は家には帰らないと言う。
いくらなんでも、家族も心配してるのではないだろうか。
「見て。誰もメールも、電話もよこさないわよ。私のことなんか心配してないのよ」
結局、家族を心配させたいための家出に思える。
「アスパラベーコンパスタ美味しい。この味、家じゃ作れないわね。ナポリタンは、どうかしら?」
そういうって高橋祥子さんは、ナポリタンを食べた。
「うん。美味しい。懐かしい味。この懐かしさが私には出せないのよね。」
どうやら、パスタに満足して頂いたようである。
しかし、スパークリングワインを1本空けて、高橋祥子さんは、閉店時間だというのに、酔っぱらいイビキをかいて寝てしまった。
「お客様、起きてください。家に帰らないと」
「うるさいわねー。帰らないわよっ」
これはダメだ。どうしたもんだろうか。
次の日。お昼。
「ここは、どこ?」
高橋祥子さんが目を覚ました。
昨夜、起きない高橋祥子さんをリョウタと、家まで運んだのである。
「あっ。起きました?二日酔い大丈夫ですか?」
母親が、リビングに起きてきた高橋祥子さんに言った。
「すいませんが、こちらは、誰のお宅でしょうか」
「昨夜、娘のパスタ屋にいらっしゃったみたいで、高橋さんが寝てしまったので、娘と婿が、連れてきたんですよ。娘と婿は、お店に行ってしまいましたが」
「ああ。パスタ屋の」
高橋祥子さんは、思い出したようだ。
「今、昼御飯の仕度しますので、座ってください」
高橋祥子さんは、ダイニングテーブルの椅子に座った。
「おばちゃん、だあれ?」
「可愛いー。お孫さんですか?」
「はい。孫です」
高橋祥子さんは、恭ちゃんを見て言った。
「おばちゃんは、高橋と言います」
「ママと友達?」
「ママのお店に来たの」
「ふーん。」
母親が昼御飯をテーブルに並べた。
「どうぞ。召し上がってください」
「何から何まで。すいません」
高橋祥子さんは、すまなそうに、頭を下げた。
「あれ。ボク。お弁当なの」
高橋祥子さんは、恭ちゃんがお弁当を開けたのを見て言った。
「来年、幼稚園だから、練習にと、娘が作っていくんですよ」
「美味しそうなお弁当ね」
「おばちゃん、卵焼きあげるっ」
「いいの?」
「ボク、二つあるから、いいよ」
高橋祥子さんは、私が作った卵焼きを食べた。
「美味しいー。私が作る卵焼きと、全然違う。」
高橋祥子さんは、卵焼きに感激していた。
「ボク、ママの卵焼き大好きっ」
「私もいけなかったんですよね。パートしてるからって、息子のお弁当を手抜きして、冷凍食品で、済ませて。ここの娘さんだって、お店やってるから忙しいのに、こんな美味しいお弁当作っていくんですものね。うちの娘が言うように、見習わなきゃね」
高橋祥子さんは、自分にも至らないところがあったと反省した。
「子供は大きくなれば、文句もいうようにもなりますよ。育ててやったのにと、親としては腹立つんですが、いつまでも、親の言うとおりには、いかないですよね。子供は成長してるんですから」
母親が、高橋祥子さんに、言った。
「ありがとうございました。家に帰ります。娘さんと、お婿さんにも、お礼を言ってて下さい。」
「おばちゃん。バイバイー」
「恭ちゃんも。ありがとう」
頭を下げて、高橋祥子さんは、帰って行った。
でも、恭ちゃんも、いつか、母親の私を煙たがる日がくるのかもしれない。
休みの日に、一人でジムに行った。私は、やる気満々で、3ヶ月分の会員料金を支払った。
「笹原さん。申込みありがとうございます。頑張りましょうね」
今日も爽やかに、インストラクターの川崎先生が言った。
でも、リョウタが言ったように、川崎先生は、やたら私の体を触る気がした。仕事だから、気のせいだよね。
トレーニングを終えて、ロビーで水分補給してると、川崎先生がきた。
「笹原さん。お疲れさまでした。私も今日は、終わりなので、お茶でも飲んでいきませんか」
えっ。いきなり誘われた。
「ごめんなさい。息子と主人が待ってますので」
そう断ると。
ドンッ。いきなり壁ドンをされた。
「笹原さん。ご主人と別れて、オレと付き合って下さい」
なんだこの人?
「何言ってるんですか。無理ですー。だいいち、私と先生じゃ、年が16歳も離れてるんですよ。」
「かまいませんよ。オレは、若い女に興味ないんです。なぜなら、オレは、熟女好きだから」
熟女っー?!
「ただいま」
「おかえり。ジムどうだ続きそうか?」
リョウタが帰ってきた私に言った。
「辞めてきた」
「はっ。辞めてきたって、料金3ヶ月分払ったんじゃねーの」
「すんごい、やる気なくしたー」
「三日坊主より、ひでーな。」
リョウタは、すぐ辞めた私に呆れてた。
だって、熟女好きって。なんなの。
私が熟女だって言うの?!
熟女って、成熟した、熟した女ってことでしょう。
新鮮味が、ないと、いうことでしょう。
確かに私は若くは、ないが、熟女って、年なの!?
ちきしょーっ。




