表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/46

songs

リョウタのバンド「Avid crown」が、地元の市民まつりに出ることになった。

毎年、年齢層が高く、若者が来ないので、今年は、若者の動員も増やしたくて、私の同級生である三塚くんが、市民まつりの実行委員のために、頼まれたのである。

本当は、名の知れたお笑い芸人を呼びたいのだろうが、予算がなくて、名の知れてないリョウタのバンドをオファーしたのである。だもんで、交通費くらいは出してもらえるが、ノーギャラである。

例えノーギャラでも、リョウタのバンドが、野外でやるなんて、そうそう無いことなので、リョウタは、ふたつ返事だった。


「市民まつりで、何曲やることになったの?」

私は、三塚くんと市民まつりの打合せから、帰ってきたリョウタに聞いた。

「5曲かな」

「えっ。5曲もやるの?」

この地元じゃ名の知れてないリョウタのバンドが、5曲もやるなんて、少々無謀だ。

「なん?オレらのバンドが5曲じゃ多いって言いたいのか」

どう考えても多いだろう。リョウタのバンド以外の催しものは、民謡に、よさこい踊りに、フラダンスとか、そんなとこだ。だから、毎年、見にくる人は、老人が多い。それをいきなり、今年は若者を増やしたいといっても、リョウタのバンドで、若者を呼べるものでもない。

「何の曲やるの?」

「オリジナル2曲と」

「えっ、オリジナル曲やるの?!」

オリジナル曲なんて、この田舎の地元で、誰が知ってるというのか。

「なん?オリジナルやっちゃ悪いの?」

「そーじゃなくて、観客が知ってる曲もやったほうがいいかなーと思って」

「あとUVERworldのコピーと、TOTALFATのコピー」

「えっ、UVERworldなんて、難しくない?」

「なん?オレらには、無理だと言いたいの?」

だから、若者が来ればいいけど、老人ばかりだったら、UVERworld演ったって、分からないではないだろうか。

「あんさ。なんか、京子、さっきから、オレらのバンドをバカにしてるみたいだけど、京子、恭を産んでから、オレらのライブに来てないから、わかんないだけで、ボーカルの裕太は、すげー盛り上げかた上手くなって、オレらのライブ、評判いんだよ」


「でもさ、観客は、若者ばかりじゃないんだから、みんなが知ってる曲も演ったほうが、いんじゃないかな」

「たとえば?」

「坂本九さんの曲とか。あと、無難に、ふるさと、とか」

「ふーん。考えてみるわ」



私の出身校の高校で。

「パスタ屋のイケメン店長のバンドが市民まつりに出るらしいーよ」

「えっ。イケメン店長が出るのお。見たい。見たい。今年は市民まつり行こうよ」

「じゃあ、行こう」

ハンドボール部で、常連客の三人組が話してる。

「咲先輩、知ってるかな」

「あとで、教えに行こうよ」



ディナータイムの開店とともに、幸恵おばあちゃんが来た。

「お兄ちゃん、市民まつりに出るんだって?」

「はい。バンドで、出ます」

幸恵おばあちゃんは、誰からか聞いたのか、リョウタが市民まつりに出ることを知っていた。

「その日は、息子家族が、来るから、連れてってもらうから」

「ぜひ、来てください」

と、リョウタは、喜んで言ってたが、幸恵おばあちゃんが、リョウタのバンドを聴いたら、どう思うだろう。



今度は、陸上部の咲ちゃんが来た。

「店長、市民まつりに、出るそうですね。部活終わったら行きます」

「ありがとー。楽しみにしててね」

リョウタ、そんな期待させること言っていいのかね。

「店長ー。茄子のトマトソースパスタと、茄子のピザをお願いします」

咲ちゃん、今日は茄子づくめだ。

「あと、デザートのシフォンケーキも」

大会近いらしく、ますます食欲旺盛だ。



市民まつりが、今度の日曜日なので、店休の水曜日の今日は、リョウタは、都会にバンド練習に行った。追い込みなので、いつもより長く練習してくるらしい。



そんなわけで、私はリョウタが居ないことだし、恭ちゃんを連れて、花江とランチに行った。

「リョウタくん、市民まつり出るんでしょう。見にいくわね」

「ありがとう。でも、あんまり期待しないでね」

「でも、毎年、民謡に、よさこいだから、たまには、若いバンドもいいわよね」

「三塚くんに、若者の動員増やしたいからって、リョウタのバンド呼ばれたけど、リョウタのバンドで、若者来るかしら?」

「でも、みんなパスタ屋のイケメン店長出るなら、行くって言ってるわよ」

そんなに期待されても困る。リョウタのバンドの演奏聴いて、ガッカリしないといいけど。



市民まつりは、明日だ。私は不安がいっぱいだった。

「明日のライブ、京子のシドチェーン借りていい?」

「いいよ」

シドチェーンとは、シルバーの南京錠のネックレスだ。

「明日は、パンクファッションにしようと思って」

「いんじゃない」

「なんで、女の京子が、シドチェーン持ってんの?」

私は、セックス・ピストルズのシドが好きだ。だから、シドチェーンを持っている。シドは、もう、いないけど、シドが身につけてるものが欲しくて、若い時に買った。それから、ずっと持っている。

「でも、シドチェーンって、彼にプレゼントするものじゃないのかな。独占する意味で」

そういう話も聞くということだが。

「へえー。じゃあ、オレずっと着けてようかな。京子に、独占されたい」

「着けなくても、もう、独占してるでしょう」

リョウタは、嬉しそうに笑った。


リョウタのこういう笑顔は変わらない。婿なんだから、独占してるでしょう。しかも、こんな田舎に連れてきてるし。


恭ちゃんは、隣で可愛い顔して寝てるが、私は明日のことを思うと不安だった。




市民まつり当日。

素晴らしいくらい快晴だった。野外のステージには最高の日である。民謡が始まっている。観客数は、200人いってない。しかも、老人が多い。老人会の団体のようだ。そして、その家族といった感じだ。幸恵おばあちゃんも、息子さん家族で、来ていた。

リョウタのバンドは、中盤の2時からで、よさこいの次だ。よさこいで、盛り上がり、一気に観客が減るかもしれない。

あー心配だ。若者はくるのだろうか。


とうとう、リョウタのバンドの番だ。私と恭ちゃんと、両親は一番前で、陣取っていた。私は、観客数や観客層が気になって、怖くて、後ろを振り返れなかった。

リョウタのバンドが出てきた。

一曲めのオリジナル曲を終え、ボーカルの裕太くんのMCが始まった。

「はじめまして。Avid crownでーす。野外気持ちいいねー」

まずまずのMCだ。

「今日は、ギターのリョウタが、この町に住んでいて、オレらのバンドを呼んでもらえたので、来ましたー」

そうすると観客から声があがった。

「店長ー。」

ハンドボール部の三人組が来ていた。

「店長ー。カッコいいー」

陸上部の咲ちゃんが、陸上部を引き連れて来ていた。

「リョウタくん、来たわよー」

花江が、ヨガ教室の仲間を引き連れて来ていた。

「パパー」

恭ちゃんも、ステージのリョウタを見つけて、喜んでいた。


「おじいちゃんも、おばあちゃんも、若者も、みんな最後まで、楽しんで行って下さい」

裕太くんは、そう言って、二曲目に入った。


二曲目は、新曲なのか私の知らない曲だった。でも、今までにない良い曲だった。

UVERworldとTOTALFATのコピーをすると、若者は、盛り上がっていた。


「最後の曲になります。」

裕太くんが、そう言うと、「えー」という歓声があがった。


「みなさんが知ってる曲だと思います。坂本九さんの『上を向いて歩こう』、みなさんも歌って下さい」


リョウタがアコギにギターを変えた。

裕太くんは、歌が上手くなった。そして、リョウタの言ってたとおり、盛り上げかたも上手くなっていた。ちょっと見下して悪かったな。


Avid crownの『上を向いて歩こう』を聴いて、おじいちゃん、おばあちゃん達が、口づさんでいた。

昔を思い出して、泣いてるお年寄りもいた。

気づけば、観客全員で合唱していた。

振り向くと、観客は、1000人を超えていた。


数少ないAvid crownのファンも都会から、わざわざ見に来ていた。Avid crownと対バンしたバンドのメンバーも大勢来ていてた。

観客は、若者で半分埋めていた。



Avid crownの演奏が終わり、アンコールが鳴った。

「次の催しものもあるので、時間の都合上、アンコールは、できませんので、ご了承ください」

と、司会者が出てきて言った。


盛り上がったことを良いことに、リョウタのバンドは、ステージを終わってから、CDの手売りを始めた。

その手売りに、学生が群がった。リョウタが、調子にのらないといいけど。



市民まつりが終わったあと、リョウタのバンドのメンバーと、私の家で打ち上げをした。

「野外、最高ー。もう1回やりてー」

「あんな盛り上がると思わなかったな」

メンバーは、それぞれライブの感想を言ってた。



とにかく、無事に市民まつりでのライブが終わって良かった。

私は、心配で心配で、眠れなかったくらいだ。



なにかと、心配が絶えず、若い婿をもらうのも大変です。










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ