BABY
市の施設にジムが出来るらしい。私も40歳なので、運動はしたほうがいいだろう。
「リョウタ、ジム出来たら一緒に行こうよ。一人だと挫折するし」
「ジム?若いインストラクターいたら、京子、騒ぐから、ダメ」
確かに、鍛えてる若いイケメンのインストラクターだったら、緊張する。でも、若いインストラクターだったら、励みにもなる。
「大丈夫だよ。休みの日行こうよ」
「っていうか。京子、そんな暇あるの?料理教室もあるんだろ」
そうだった。婦人会の会長に言われたのである。前回やった若いお嫁さんの料理教室が、好評で、定期的にやってほしいという要望があり、月に1回のペースでもいいので、料理教室を定期的に、やってほしいとお願いされたのだった。
料理教室も店が休みの日にすることになるので、休みも何かと忙しくなる。
だったら、ジムは無理かなー。
店の休憩時間に、リョウタがホームセンターに行った。
リョウタが、買い物を終わって、ホームセンターから出てくると、駐車場に、うずくまってる女性がいた。
「どうしたんですか」
リョウタが女性に声をかけた。
「お腹が痛くて・・」
リョウタが、女性のはバッグを見ると、マタニティマークがあった。妊娠してるのか。お腹は、あまり目立たないから、安定期までは、いってないかもしれない。お腹が痛いということは、流産の可能性があるかもしれない。
「産婦人科は、どこの病院ですか」
「◯◯総合病院です」
◯◯総合病院は、ここから近い。救急車呼ぶより、車で連れていったほうが早いかもしれない。
「動けますか」
「はい。なんとか動けます」
リョウタの車の後ろの座席に、女性を乗せると、リョウタは、◯◯総合病院に、電話をした。
「そちらの産婦人科を受診されてる妊婦さんが、お腹が痛がってるので、今、連れていきます。はい。では、救急入り口にいきます。」
リョウタは、車を走らせ、総合病院に向かった。
総合病院の救急入り口に向かうと、医師と看護師が待機してた。
「大丈夫ですか。病院つきましたからね」
車の後ろのドアを開けて、看護師が言った。
妊婦さんは、担架で、運ばれていった。
リョウタが、車を駐車場において、病院の中に入ると、看護師がきて、
「旦那さん、処置が早かったので、お腹の赤ちゃんは、大丈夫ですよ」
看護師は、リョウタを旦那と間違えていた。
「オレ、通りすがりの者なんで、旦那さんじゃないです」
「あっ。そうですか。じゃあ、旦那さんに連絡した方がいいわね」
看護師が言った。
「じゃあ、オレ、仕事あるんで、戻ります」
「ありがとう。お名前は?」
「あっ。いいです」
そう言って、リョウタは、病院をあとにした。
ディナータイムの開店時間に、リョウタは、20分遅れてきた。
リョウタから、LINEをもらってたので、事情は分かっていた。
「京子、ごめんな。一人で大変だったろ」
「ううん。混まなかったから大丈夫だよ。それより妊婦さん、大丈夫だったの?」
「うん。お腹の赤ちゃん大丈夫みたいだ。」
「良かったー」
閉店しようと、リョウタが外の看板をしまおうとしてた時の40歳過ぎの男性が来た。
「ここの店長さんですか」
その男性は、リョウタに言った。
「はい。そうですが」
そうすると、男性は腰をおろしたと思ったら、土下座をした。
「ありがとうございますっ。あなたのおかげで、子供が助かりました。本当に、ありがとうございます。感謝しきれませんっ」
男性は、頭を地面に、こすりつける勢いで頭を下げていた。
「えっ。」
リョウタは、あまりにも突然の土下座で、呆気にとられていた。
「リョウタ、中に入って頂いたら?」
私は、言った。
男性が頭を上げると
「和明の妹の京子ちゃん?」
私の名前を言った。
「拓也先輩?」
男性は、兄の同級生だった。
拓也先輩に、店に入ってもらって、落ち着いてもらうことにした。
「京子ちゃんのご主人だったとは。若い看護師さんが、ご主人のことを、パスタ屋の店長さんだと言ってたので、お礼を言いたくて、伺いました」
拓也先輩は、だした紅茶を飲むと、落ち着いて話し出した。
「結婚して10年で、やっと出来た子供なんです。妻も38歳で、若くないので、妊娠を知ったときは、大喜びで。」
私の兄と同級生なのだから、拓也先輩は、42歳だ。
「病院の先生に言われたんです。あと少し病院に連れてくるのが、遅れたら、赤ちゃんは危なかったと。通りすがりなら、苦しんでる妻を知らんぷりした人もいたと思います。でも、店長さんは見捨てなかった。だから、もう、店長さんに、感謝しきれませんっ」
拓也先輩は、涙ぐみながら、語った。結婚10年で、初めての子供なら、どんなに嬉しいことだろう。
「これ、少しですが、ガソリン代と思って、受け取ってください」
拓也先輩は、封筒に入ったお金をリョウタに渡した。
少しとは、言ったが、封筒は、厚みがあった。少しではない気がした。
「すいません。これは、受け取れません」
リョウタは、封筒を拓也先輩に、返した。
「うちにも3歳の子供がいるので。当たり前のことをしただけです」
「でも、それじゃあ、私の気持ちが済まないので」
拓也先輩は、封筒をまたリョウタに渡そうとした。
「お気持ちだけ頂きますから」
そういって、リョウタは、頑固として受け取らなかった。
拓也先輩は、諦めきれないようだったが、深く頭を下げて、帰っていった。
市役所。
「笹原さん、お客様ですよ」
兄が働いてる市役所に、兄を訪ねて来た人がいた。
「おー、拓也じゃないか。久しぶり。どうしたんだ?」
「実は、この間、京子ちゃんの旦那さんに、妻と子供を助けてもらったんだが、お礼を渡しても受け取らないんだよ。でも、どうしてもお礼をしたくて、お前に相談に来た」
拓也先輩は、兄に、事情を話した。
「金は受け取らないんじゃないか。リョウタくんも、同じ思いしてるから、やはりリョウタくんにとっては、当然のことなんだよ」
「同じ思いって?」
「京子も、親もオレには、言ってないから、オレは、知らないことになってるんたが、京子、都会にいた時、リョウタくんの子供を流産してるんだよ。家で両親が喋ってるのをたまたま聞いてしまったから、知った。だから、リョウタくんは、そんな思いもあって、拓也の奥さんと子供を助けたかったんじゃないかな」
「京子ちゃん、流産したんだ・・。なら一層、お礼がしたい。そんな思いをしてるリョウタさんが、通りすがりでの妻を助けてくれたんだから」
「だったらさ、京子とリョウタくんの息子の恭ちゃんに、何かあげたら?子供にだったら、あいつらも喜ぶと思うよ。確か、恭ちゃんは、アンパンマン好きだったはず」
兄は拓也先輩に、アドバイスした。
「そうだな。ありがとう。和明に相談して良かったよ」
拓也先輩は、嬉しそうに帰っていった。
店を閉めて、家に帰ってくると
「リョウタくん。拓也くんが、恭ちゃんにって、これ置いていったわよ」
母親が、言った。
拓也先輩が、夕方、家に来たそうだ。
「聞いたよ。リョウタくん、拓也くんの奥さんを助けたんだってね。そのお礼に、恭ちゃんにもってきたみたいよ」
「お礼なんて、良かったのに」
「パパー。早く開けてー」
恭ちゃんに持ってきたのだから、開けないわけにもいかない。
「わあー。パパと同じだー」
箱を開けると、アンパンマンのギターだった。
恭ちゃんは、アンパンマンのギターを持って、嬉しくて、はしゃいでいた。
「これじゃあ、返せないな」
リョウタが、恭ちゃんの喜びようを見て言った。
「リョウタ、頂きましょうよ」
「そうだな」
でも、私達は、拓也先輩の赤ちゃんが無事に産まれてきてくれれば、それが最高のお礼だった。




