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最初の男。

開店前に、専業農家の湯川のオジサンが、野菜持ってきた。

「あれ。今日は、駿くんは、どうしたんですか」

最近は、駿くんが、配達に来てた。

「駿、今日忙しくてさ。それと、京子ちゃんとリョウタくんに、頼みあってよ」

改まって、なんだろう。

「実は、駿、来月、結婚することになってさ。あんた達2人に、披露宴に来て欲しいんだけど。息子の恭ちゃんに、新郎新婦に、子供が花束渡すとこあるんだけど、新婦に花束渡す役を、恭ちゃんに頼めないかな」

駿くんが、結婚なんて、地元に帰って来たばかりなのに、もう結婚?!

「でも、うちの息子でいんですか。湯川さんの親戚にも小さいお子さん沢山いるんじゃないですか」

「それなんだよ。親戚の子供に頼むと、あそこに頼んで、うちの孫に頼まないなんて。って感じで、親戚同士で揉めるから、うちの仕事関係の息子さんに頼んだとなれば、親戚も納得すると思うのよ。だから恭ちゃんに頼むよ」

昔からの専業農家で、本家、分家みたいなのあるみたいだし、親族はかなり多いと思うが、そういう面倒くささがあるんだろうな。

「うちの恭ちゃんに務まるか、分からないですけど、そういうことでしたら、いいですよ」

「ありがとっ。助かるよ」


駿くんは、東京で、付き合ってた彼女と結婚するらしい。駿くんは、実家に帰るときに、田舎の専業農家の嫁になるのは嫌だろうと、彼女に別れを言ったらしいが、彼女は、追いかけてきたらしい。

「なんせ都会のお嬢さんだから、農家の嫁なんか、務まるかどうかと思ったんだけど、駿を諦められなくて、追いかけてきたからよー。まあ、やるだけやらせてみるよ」

でも、湯川のオジサンは、お嫁さんまで来て、嬉しそうだった。


しかし、かなり大きな専業農家なので、盛大な披露宴に、なりそうだ。跡継ぎ長男の披露宴とあって、近所も呼ぶだろうし、親族だけでも、100人は軽く呼ぶだろう。オジサンの仕事関係も呼ぶだろし、そして、友人みたいな。おそらく、招待客500人には、なるのではないだろうか。


私とリョウタは、結婚式だけしかしてない。私が若くないので、披露宴は、断固拒否した。式もしたくなかったが、リョウタが、ウェイディングドレス姿が、どうしても見たいというので、式だけをした。


でも、駿くんは、専業農家の息子さんだから、披露宴しないわけには、行かないだろうな。



ということで、来月は、裕太くん、慶子、駿くんの披露宴に、親子三人で、招待されている。来月は、忙しくなりそうだ。



日曜日に、リョウタと恭ちゃんと三人で、ショッピングセンターに行った。

ゲームセンターで、恭ちゃんを、カバの乗り物に乗せてたので、リョウタに頼んで、私は、食品売り場に、買い物に行った。


前から来た男性が、私を見て、立ち止まっていた。誰だろ。知ってる人だろうか。年は、同世代に見える。身長が高く、ガッシリした体型だ。同級生ではいない。

「京子先輩?」

「オレ、内田健人。覚えてる?」

私は、その名前を聞いて、固まった。そして、動揺する。

「け、け、健人くん、東京にいたんじゃ・・」

「今、仕事で、名古屋にいる。今、遅い夏休みと、有給取って、帰省してるんだ。母親が入院してさ。それにしても、京子先輩は、変わらないな。若いままだ。すぐ、分かったよ」

健人は、高校の1個下の後輩だった。同じ美術部だった。健人は、高校時代の面影はなく、身長も体重も増えたようだ。

でも、早く、この場から立ち去りたい。リョウタに知られたら、ヤバイ。


「なんすか。アンタ?」

リョウタが、恭ちゃんを連れてきた。私は、動揺せずには、いられなかった。

「京子先輩の弟さん?あれ、弟さん、いたっけ?」

健人は、リョウタを弟と思ったらしい。

「誰が弟だ?旦那だよ」

「へー。若いイケメンの旦那さんだね」

リョウタが、動揺してる私を見た。

「オレ、内田健人と言います。京子先輩の高校ん時の後輩です。」

お願いだ。それ以上は言わないで欲しいーーー。


「おじちゃん、ママと喋らないで、僕のママなんだからー」

恭ちゃんは、また泣きそうになった。

「ごめんごめん。おじちゃんと、ママは、学校が同じだったんだよ。ボク、パパそっくりだね。」

健人は、恭ちゃんの目線まで、かがんだ。

「ボク、パパそっくり」

「可愛いね。何歳?」

「3歳」

「おじちゃんの息子は、5歳なんだよ」

健人は、結婚して、子供もいるらしい。健人だって、39歳だもんね。結婚してても、おかしくない。

「じゃあ、京子先輩。」

そう言って、健人は、行った。



健人とは、高校の時、付き合っていた。そして、私が初めて、付き合った人で、初めての男である。

私が3年の時、付き合い始めたが、私が卒業して、大学行ったために、別れた。

ただの元カレじゃない。リョウタが、健人が私の初めての男と知ったら、また拗ねる。もしかして、マサトの時より、タチ悪く拗ねるかもしれない。



「なんなのアイツ?昼に会った内田健人って奴。ただの後輩じゃないみたいだな。」

風呂あがりに、リョウタがソファで、言い始めた。

「ただの後輩に決まってるじゃないー」

やっぱり、勘ぐってる。

「でも、京子かなり動揺してたみたいだな。目が虚ろだったぞ」

「そ、そんなことないわよ」


「言わないなら、慶子さんに聞こうかなー」

そう言って、リョウタは、スマホを手に取った。

「やめてよっ。慶子は、体が大事な時期なのよ。くだらないことに巻き込まないでー」

私は、思わずリョウタから、スマホを取り上げた。

「何?巻き込むって?アイツと、そんな面倒くさい関係なんだ?」

ヤバイ。墓穴を掘ってしまった。

「黙ってないで、言えよ」

「嫌よ。言ったら、何日もネチネチ言うくせに。リョウタだって、聞かれたくないことあるでしょう」

「ないよ。京子、オレの元カノ全部知ってるだろう」

「全部知らないわよ。私と付き合う前の元カノのことは、知らないわよ」

「オレ、マジに付き合ったのは、京子が初めてだから。その前の女は、付き合ったうちに入んない」

それを言われると、健人のこと、ますます言えない。動揺したから、バレバレだ。



まさか恭ちゃんの前で、花江に、元カレのこと話せないので、母親が恭ちゃんと、出掛けてるうちに、出てきた。リョウタは、バンドの練習に行ってる。

「初めての男と、再会ねー。どう、カッコ良かった?」

花江が聞いてきた。

「普通に年相応のオジサン」

「なんだガッカリ。カッコよくなってたら、また燃えあがったかもしれないのにねー」

「花江、からかわないでよ。リョウタに初めての男だって知れたら、大変なんだから」

「でも言っても大丈夫じゃないの。その元カレ、今は、ただのオジサンなんでしょう。いくら初めての男でも、リョウタくんに、勝てるわけがないよ」

そうだけど、リョウタって、そういう小さいことに、嫉妬するから、面倒くさいんだよね。ずーっと、機嫌悪いし、ネチネチせめるし。男のこと以外は、あっさりして、気にしないタイプなんだけどね。

「初めての男かー。私は、高2の夏だったな。同じクラスの一樹くん。どーしてるかな。一樹と結婚してれば、あんなオッサンと結婚することなっかたのになー」


私は、高3秋だった。健人に両親は共稼ぎで、昼いなかったので、健人の部屋だった。初めての男は、忘れないって言うけど、リョウタが濃すぎて、すっかり忘れてた。


花江と別れてから、ホームセンターに行った。

「京子先輩、また会ったねー」

げっ。健人と、また会ってしまった。

「京子先輩、オレに久しぶりに会って、ガッカリしただろ?」

「そんなことないよ。」

「オレ、高校ん時より、20キロくらい太った。髪も最近、薄くなってきてるし。すっかり、オジサンだよ」

「年相応だよ。」

なんとも言いようがない。

「京子先輩、なんで変わらないんだよ。若くて、綺麗なままだ。いっそのこと、太って、老けて、すっかりオバサンになっててくれたら、良かったのに。そうしたら、オレはガッカリして、もう京子先輩のこと思い出さないのに。綺麗なままなんて、酷いよ」


本心かは、どうかは、分からないが、それを言われても、困る。


「オレ、京子先輩のこと、ずっと忘れられなかった。だから、大学も東京に行った。遠くに行けば、忘れると思ったから。でも、忘れなかった。28歳の時、今の女房と会って、30歳のとき、結婚したんだ」

なんだかんだ言っても、私より早く結婚したではないか。結局、男って、皆そうだ。調子のいい時だけ、元カノ思い出してさ。利用だよね。


「京子先輩の旦那さんさ。すごい京子先輩のこと好きなんだね。ずっとオレを睨んでた。嫉妬したんだね。オレは女房は5歳下だから、嫉妬しないな。親父の心みたいで、そういう感情なくなったよ」


ふんっ。結局、若い女と結婚してるのかよっ。


「明日、名古屋に帰る。京子先輩、会えて良かった。じゃあ、元気で」



健人との再会は、こうして終わった。何もあるわけがない。私は、リョウタと、恭ちゃんのことで、頭がいっぱいだ。




家に帰ると、リョウタが帰ってきてた。

「スタジオの近くで、偶然、慶子さんに会って聞いたぞ。内田健人のこと。京子の初めての彼氏ー」

ったく。慶子も言わないでよー。


「ということは、初めての男?」

「うん。」

「初めての男って、忘れられないもんなんだろ」

「もう、忘れてたよ」

リョウタは、ちょっと拗ねたように、ソファに寝転がった。



「リョウタが、最後の男だよ」



リョウタは、嬉しそうに、微笑った。


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