苦情。
休みの日に、スーパーに行ったら、花江と会って、立ち話をしていた。
「店長を呼びなさいよっ」
レジの方で、女性の叫び声が聞こえた。花江と行って見ると、50代くらいの女性がレジの店員に怒っていた。
スーパーの店長が来ると
「いったい、どういう指導してるのよっ。この店員、お釣り間違ったのに、指摘したら、謝りもしないで、投げ捨てるように、お釣りをよこしたのよっ」
ヒステリックに女性は、言った。店長は、平謝りしていたが、女性の怒りは治まらないようだった。
「この店員は、いつも態度悪いわよ。いらっしゃいませも言わないのよ。いらっしゃいませ、ありがとうございましたは、接客の最低限の基本でしょう。そんなことも、教えてないのっ」
女性の声は、店内中に響きわたった。
確かに、あのレジの店員は、いつも無愛想である。態度も悪い。だから、私は、あのレジの店員のレジに並ばない。それにしても、クレームを言った女性の形相といい、口調といい、すざましかった。店内中が、震え上がった状態だった。
「あの人、立花さんと言って、私の娘と同じ学校の娘さんがいるから、知ってるんだけど、旦那さんが、あの大手の〇〇会社なんだけど、1年前に、本社から、ここの営業所に、飛ばされたらしいのよ。だから、立花さんの奥さんは、こんな田舎の営業所で、かなり不満みたいで、ストレス溜まってるのか、どの店に行っても、いつもヒスリックに、クレームいれるらしいわよ。要するに、クレーマーってとこね。」
それにしても、怖すぎる。
名前は、立花富貴恵さん。53歳。有名私立のお嬢様大学卒業らしい。
それでは、こんな田舎では、不満かもしれない。
「うちの店には、来たことないけど、もし来たら、対応できるかなー」
「リョウタくん、イケメンだから大丈夫だよ。ああいうマダムは、イケメンに甘いわよ」
リョウタが大丈夫でも、料理に文句言われたら、どうすればいいのだろうか。料理の味なんて、人の好みだから、不満出るかもしれない。
あー怖いー。でも、接客業が、恐れてはいけない。
平日のランチタイム。
「いらっしゃいませ」
「こんなところに、パスタ屋があったのね。今まで、気づかなかったわ」
「5年前にオープン致しました」
そう言って、リョウタが席に案内したお客様は、なんと、あの立花富貴恵さまだった。早速、マダムがいらっしゃいました。私は、キッチンで、しばし凍りづいていた。
そういった矢先、立花様に、水をリョウタが、持っていって、グラスを置こうとしたとき、立花様の手とグラスが、ぶつかり、テーブルに水がこぼれてしまった。
青ざめる私。リョウタは、どう対応するか。
「大変申し訳ございません。お客様、お召し物は大丈夫でしょうか」
「大丈夫よ。濡れてないわ。私が手を出したから、ごめんなさいね」
良かった。怒ってないー。リョウタ、まずまずの対応だ。
「よろしかったら、隣のテーブルに移動して頂けますでしょうか。こちらのテーブルでは、完全に乾くまで、お待たせしてしまいますので」
「わかったわ」
立花様は、素直に隣の席に移動した。
立花様のオーダーをとったリョウタがキッチンにきた。
「あのお客様は、慎重に、丁寧にね。怒らせないようにね」
「はいよー」
リョウタが、立花様のテーブルに行った。
「先程は、失礼致しました。お詫びといっては、申し訳ございませんが、こちら水菜のサラダです。よろしかったら、前菜に、お召し上がりください」
サラダと、デザートにするか悩んだが、デザートだと、「太らす気?」「血糖値上げる気?」と、怒らす場合があるので、キノコ色々パスタを頼まれてたので、ヘルシー志向かもしれないので、サラダにした。
「ありがとうー。私、水菜好きなのよ」
喜んでくれたみたいで、よかったー。リョウタの接客もなかなかだ。やはり、一時的でも、ホストを目指しただけはある。あの笑顔は、マダムキラーだ。
次は、パスタの味がお気に召すかが、問題である。
「パスタ美味しい。塩加減も丁度良いわ。キノコも、その辺のスーパーの安いキノコって感じじゃない」
良かったー。パスタも気に入っって頂けたようだ。
「ありがとうございます。キノコは、私の父の会社から仕入れてまして、隣の県の会社なのですが、キノコの名産地ということもありまして、パスタに合ったキノコを仕入れることができます」
「もしかして、〇〇県?あそこは、松茸も、いいのが採れるらしいしね」
「はい。そうです。お客様、お詳しいですね」
「私、キノコに目が なくてね。オーナーは、若いけど、あなた?」
「いえ。私は、店長です。オーナーは、妻で、シェフをしております」
「シェフが、オーナーなのね。呼んでくださる?」
ぎえーー。私を呼んでるー。 やはり、なにか、ご不満があったのだろうか。
「本日は、ご来店ありがとうございます。私、オーナーシェフの笹原と申します」
「パスタとても美味しかったです。この辺のお店には期待してなかったけど、この店は、サービスも素晴らしいわね。店長さんも、完璧の接客とまではいわないけど、笑顔が素敵だし、何よりも、お客様に、誠意を持って接客してるのが、伝わります。この街に来て、初めて、満足した店です」
意外にも立花様に、お褒めの言葉を頂いた。
「ありがとうございます。これからも誠意を持って、接客をするように努めて参ります」
そういうことで、無事、立花様は満足して頂いて、お帰りになりました。
どっと疲れたーーー。こんなに緊張が走ったのは、店をオープンしてから、初めてである。
でも、リョウタは、余裕だった。さすが、マダムキラーである。
接客は、色んなお客様がいるので、どの対応が正しいのかは、難しい。
至らない点があっても、その後のフォローで、補うこともできる場合もある。
やはり、無愛想より、笑顔がいい。
でも、完全なる作り笑顔で、お客様に、不快な気分にさせる場合もある。
お客様がいて、店が成り立つ。
感謝と誠意、それだけじゃ何か足りないのかも知れない。
それは、これからも、お客様に教わる毎日である。




