birthday
ディナータイムの7時頃、常連の私の高校の後輩のハンドボール部の二人がやってきた。いつもは、三人組なのだが、今日は一人は休んだのだろうか。
「シェフ、お願いがあります」
ハンドボール部の高校生二人は、私に改まって言った。
「今度の金曜日は、有紀の誕生日なんです。有紀は、母子家庭で、お母さんと二人暮らしなんですけど、有紀のお母さんは、昼夜、掛け持ちで、働いてて、有紀の誕生日の日も、仕事でいないと思うんです。だから、私達で、有紀の誕生日祝ってやりたいんです。でも、私達も、おこづかいが、あまりないので。だから、シェフ、有紀のバースデーケーキを安く、作ってくれませんか」
有紀ちゃんとは、今日来てない三人組の一人だ。
有紀ちゃんは、両親が3歳の時に離婚し、それから、ずっとお母さんと、二人で暮らしてるらしい。
有紀ちゃんのお母さんは、有紀ちゃんを大学に行かせてやりたくて、昼は電子部品の工場で、働き、夜は、24時間のファミレスで、働いてる。でも、有紀ちゃんは、特にやりたいこともないので、お母さんを昼夜働かせてまで、大学に行くのを躊躇ってるらしい。
「わかった。私に、まかせといて」
「ありがとうございます。シェフ」
ハンドボール部の高校生の二人は喜んでいた。
有紀ちゃんには、サプライズで、金曜日に、普通に部活帰りにパスタ食べに行こうということにして、うちの店に連れてくるらしい。
これは、盛り上げ隊の花江にも、協力してもらうことにしよう。
おそらく、有紀ちゃんのお母さんは、私と年が、違わないだろう。同世代では、ないだろうか。私と、同世代が、昼夜働くなんて、並大抵のことではない。体力的にもキツイだろう。
女手ひとつで、娘を大学に行かせたいとは、立派なお母さんだ。
「やっぱり、私は恵まれてるんだね」
お風呂上がりに、ソファで、リョウタに言った。
「そうしたら、オレだってそうだよ。両親揃ってるし、好き放題やったし」
私は行きたい大学じゃなかったけど、行ってみれば楽しかったし、いくら私の両親が、長男の兄ばかりに、肩入れしてたが、大学も行かせてもらって、ピアノも習わせてもらって、恵まれたんだよね。
今だって、両親の協力があるからこそ、小さい恭ちゃんを見てもらって、やりたかった店をやれてる。
両親を恨んだり、うるさく感じたことも、あった。
本音を言えば、今もうるさく思うこともあるが、感謝しなければならないのかもしれない。
金曜日のディナータイム。
「京子、来たわよー」
花江が、ヨガ教室の仲間と、娘さんを連れてきた。
「花江、今日は、よろしく頼むわよ」
「まかせといてっ」
リョウタのバンドのメンバーも、来てくれた。
リョウタの専門学校の同級生の翼くんも、地元の友達を連れてきてくれた。
私の高校の後輩であり、ハンドボール部の子達の先輩でもある、砲丸投げの全国優勝者の咲ちゃんも、来てくれた。
ハンドボール部の高校生は、今日の主役の有紀ちゃんを連れて、6時に来る予定である。
「有紀ー。お腹すいたから、パスタ屋行こうよ」
「うん。久しぶりに行こう。」
ハンドボール部の二人は、有紀ちゃんを誘いだしに成功したようだ。
ハンドボール部の三人が店についた。
「あれっ。今日、貸し切りになってるよ。じゃあ、今日ダメじゃん
」
有紀ちゃんが、本日、貸し切りの貼り紙に気づいて言った。
「私達は、大丈夫だよ」
ハンドボール部の二人は、そう言って、店に入ったので、有紀ちゃんも、ためらったが、入った。
「いらっしゃいませ」
リョウタが、ハンドボール部の三人を席に案内した。
「何にする?」
「ピザも食べたいねー。」
ハンドボール部の二人は、いつものように、普通に食べに来たように、装った。
リョウタが、頼まれたパスタをピザを運んで行き、戻ってきた時に、店内の電気は、消えた。
「何?停電?」
有紀ちゃんは、不安そうだった。
リョウタが、ロクソクがついたケーキを有紀ちゃんのテーブルに、運んだ。
花江が、立ち上がり、
「皆さんっ、ご一緒に。せーのっ」
リョウタのバンドで、演奏し、お客さん全員で、ハッピーバースデーを歌った。
♪ハッピーバースデー、有紀ちゃんー♪
有紀ちゃんは、何がおこったのか分からないように、驚いていた。
「ほらっ、有紀、早くケーキのろうそくを消してー」
有紀ちゃんは、我にかえったように、ロクソクの火を消した。
「有紀ちゃん。おめでとうー」
「16歳おめでとうー」
そう言って、お客さん全員が、拍手をした。
「ありがとうございます。わたし、こんな大勢に、誕生日を祝ってもらったの産まれて初めてです」
そう言って、有紀ちゃんは、嬉しくて泣いた。
私が作ったバースデーケーキも、有紀ちゃんは、美味しいと言ってくれて、食べてくれた。
高校時代の友情が、社会にでても、いつまで、続くかは、分からない。離れたり、結婚したり、子供できたりで、縁遠くなる場合もある。
でも、高校時代の思い出は、消えない。だから、今、彼女達は、忘れない良い思い出を作ってもいいだろう。
次の週の夜。
「いらっしゃいませ」
「笹原京子さんいますか」
40代と思われる女性が私を訪ねてきた。
「私、中村有紀の母です」
その女性は、有紀ちゃんのお母さんだった。
「先日は、有紀の誕生日をお店で祝ってくれたそうで、ありがとうございます。有紀、すごい喜んで、私に写メ見せてくれたんです。その中に、ケーキも作ってくれたお店のシェフさんと撮った写メを見て、笹原京子ちゃんと気づきまして。私、中村由香です」
「由香先輩ですか」
有紀ちゃんのお母さんは、私の高校の先輩だった。2個上の先輩で、同じ美術部で、美術部の部長だった。
「京子ちゃん、ありがとう。私、いつも仕事で有紀に、寂しい思いをさせてたのは、分かってたんだけど、有紀を大学に入れるためには仕方ないと言いきかせて働いてたんです。有紀が、いつも行く美味しいパスタ屋さんがあるという話を聞いてたんですけど、まさか京子ちゃんの店だったとは」
有紀ちゃんのお母さん、由香先輩は、明るく活発で、絵も上手く後輩の面倒見が良い先輩で、憧れの先輩だった。
由香先輩は、地元に残り、21歳で結婚したそうだ。有紀ちゃんを産んでから、旦那さんが浮気を重ね、借金もしてまて、浮気相手に貢ぐようになり、有紀ちゃんが3歳の時に離婚したらしい。
明るく活発で、綺麗だった高校生の時の由香先輩とは、違い、今の由香先輩は、髪は、短くショートにし、化粧っ気もなく、ガリガリに痩せていた。
こんなに変わり果てるとは、どんなに一人で頑張って、子供を育てたのだろう。
「京子ちゃんは、変わらないね。他人に、優しくて、思いやりがあって、みんなに好かれた。まさか、娘にまで、優しくしてくれて、お世話になるなんて。ありがとう。娘は、ほんとに喜んで、一生の思い出になったと言ってる。感謝してます」
由香先輩は、何度も頭を下げて帰って行った。
でも、私は、由香先輩に、恩返しが出来たようで、嬉しかった。
私が高校1年の時、なかなか上手く絵が描けなくて、悩んでたときに、由香先輩に、励まされ、色々アドバイスをしてくれた。
人って、何がきかっけで、縁があるか分からない。世の中は思ったより狭い。私も、これからも、お客様に、心こめて、おもてなしをしよう。
後日。
有紀ちゃんは、管理栄養士になるために、大学を受験すると決めたそうだ。




