パスタ屋。
店休日の日曜日。
「京子ー」
「まって。恭ちゃんを着替えさせてから」
「京子ー」
「まって。恭ちゃんトイレって言うから」
「京子」
「まって。恭ちゃんがー」
「何回も呼んでんだろーが。なんだよ。恭ちゃん、恭ちゃんって」
リョウタが、キレだした。
「しょうがないでしょう。恭ちゃんが優先は当然でしょう」
「もういいっ」
そう言って、リョウタは、ふて腐れて、布団かぶってしまった。
「パパ、どうしたの?」
「パパ、すねちゃったの。ほっときましょう。恭ちゃん、下に行こう」
「うんっ」
ほっとくなよ。構えよ。
京子は、恭が、産まれてからは、店以外の時は、恭中心になってる。諦めていた子供ができたから、可愛い気持ちはわかるが、異常な可愛がりかただ。休みの日は、一日、恭に、ベッタリである。
「あら。リョウタくんは?」
二階から降りていくと母親が言った。
「なんか、すねちゃった」
「京子が、恭ちゃんばかり、構うからでしょう」
「当たり前でしょう。お店が休みの時しか恭ちゃんといられないんだから。リョウタは、お店でも一緒なのよ」
リョウタが、我が儘すぎるのよ。30歳にもなっても、かまってちゃん。は、変わらない。
「そんなこと言ったって、リョウタくんは、知らない土地に婿に来てくれたのよ。京子しかいないんだから」
「そんなことないわよ。たまにバンドの練習やライブで、都会に行ってるじゃない。車で、一時間で、都会に行けるんだから、寂しくないわよ」
「いいから。恭ちゃんは、私が見てるから、たまには、二人で出掛けて来なさい」
母親は、なにかとリョウタをかばう。そりゃ、私の両親とも、上手くやってるし、リョウタには、悪いとも思ってるけど、恭ちゃんとは、お店があるから、ずっと一緒にいれないから、休みの日くらいは、一緒にいたい。
「いやよ。休みの日は、恭ちゃんといたい」
「ボク、ママといるー。ママいっちゃ嫌だ」
恭ちゃんが、泣き出した。
「じゃあ、午後から、ショッピングセンターで、アンパンマンショーやるらしいから、三人で見てきたら?」
母親がおれて言った。
「ボク、アンパンマン見たいー」
恭ちゃんと、リョウタのいる二階に行った。
「パパー。アンパンマン行こう」
恭ちゃんが、ふてくされて寝ているリョウタの上に乗っかった。
「アンパンマン?」
「アンパンマン来るんだって。パパ行こう」
リョウタは、起き出して、恭ちゃんの話を聞いた。
「そこのショッピングセンターで、午後からアンパンマンショーやるんだって」
私はリョウタに説明した。
そして、三人でアンパンマンショーに行くことになった。
アンパンマンショーに行って、一緒にアンパンマンとドキンちゃんと、写真を撮った。恭ちゃんは、嬉しそうに、はしゃいでいた。
「ボク、もっとアンパンマンと、居たかった」
三人で、ファミレスで、ご飯を食べてるときに、恭ちゃんが言った。
「じゃあ。今度、アンパンマンミュージアムに行くか?」
「うんっ。行くー。」
リョウタが、都会にあるアンパンマンミュージアムに、連れてってくれるらしい。
リョウタは、普通に良いパパなんだけど、私が、あまり恭ちゃんばかりに付きっきりになると、拗ねる時がある。気を付けては、いるけど、母親が子供といたいのは、仕方ないことである。
月曜日。お店の開店前に、リョウタのお父さんが配達に来た。
「京子さん、良いチーズ入ったから、持ってきたよ」
「えっ、このチーズ、この辺じゃ、絶対買えないですよ。お義父さん、ありがとうございます」
リョウタのお父さんは、食品の流通の会社を経営してる。お店で、使う野菜は、採れたてが、いいので、近所の専業農家と契約してるが、この辺では、買えない調味料や、チーズ、ウィンナーなどは、リョウタのお父さんの会社で仕入れしている。だから、リョウタのお父さんは、週1回のペースで配達にくる。隣の県なので、1時間半くらいかかるのだが、孫の恭ちゃん見たさもあって、やってくる。
「じゃあ。京子さんの家に寄って、恭ちゃん見て帰るから」
「はい。ありがとうございます」
リョウタのお父さんは、私の両親とも仲良くしてるので、私がいないときでも、恭ちゃんを見に家に寄る。私の父親も、私が実家に戻ってきた時に定年退職になったので、家にいる。
私が、恭ちゃんを産む前は、お店が忙しいときは、両親も手伝ってくれたのだが、恭ちゃんが産まれてから、恭ちゃんに寂しい思いをさせないためにも、家で、恭ちゃんのことをお願いしてる。
ディナータイムの開店とともに、幸恵おばあちゃんが、やってきた。
「お兄ちゃん、いつもの大根おろしのうどんね」
お兄ちゃんとは、リョウタのことである。大根おろしのうどんとは、大根おろしが乗ってる和風パスタのことである。
幸恵おばあちゃんは、お店の近所に住んでるらしい。たぶん80歳は、過ぎてるが、独り暮らしである。だから、たまに、店にきて、パスタを食べて行く。
「店長ー。疲れたよー」
今度は、私が卒業した高校に行ってるハンドボール部の女の子達、三人組が来た。
「今、部活帰り?」
リョウタが、高校生の女の子達に聞いた。
「そうなの。今日も先輩に、しごかれましたー。お腹すいたー」
女の子達は、高校一年生で、ハンドボール部の先輩が厳しくて、大変みたいだ。私が通ってた時から、ハンドボール部は、強豪で、先輩後輩が厳しい部だった。それは、今も変わらないらしい。
「ピザ、三人で、一枚は、足りなくない?もう一枚頼もうよ」
充分、三人で、足りる大きさだと思うが、食べ盛りの彼女らには、足りないらしい。
「店長ー。ベーコンとアスパラのパスタと、昔風ナポリタンと、カルボナーラと、ミックスピザと、チーズ色々ピザをお願いしまーす」
彼女らも、なかなか食いぷりっが、いいので、花江のように、売り上げに貢献してもらっている。
こんだけ食べても、家に帰って、夕飯を食べるらしい。
今度は、また私の高校の後輩の咲ちゃんが来た。
「咲せんぱーい。おつかれさまですっ」
ハンドボール部の女の子達が、咲ちゃんに挨拶した。
「咲ちゃん、今日は一人?」
リョウタが咲ちゃんに聞いた。
「大会、近いので、私だけ残って練習してたんです。お腹が、すいて、家まで、我慢できない。」
咲ちゃんは、陸上部で、砲丸投げの選手である。なかなかの期待されてる選手らしい。陸上部の仲間と来るときもあるし、一人でも、食べに来る女の子である。
「店長ー。モッツァレラのトマトソースパスタと、明太子パスタ。一つじゃ足りなくて家に帰れない。」
もちろん、咲ちゃんも、家に帰って夕飯食べるらしい。
「後輩たち。ババロア食べる?」
私は、ハンドボール部三人と、咲ちゃんに言った。
「今。デザートの試作してるんだけど、食べて感想言ってくれないかな」
「食べます。食べます。感想まかせておいて下さい」
この子達なら、適格な感想聞けそうだ。
「もうちょっと濃厚さが、欲しいかな」
「私は、もう少し甘さが控えめでもいいー」
「もう少し固くてもいい」
「生クリームをたっぷりつけてほしい」
なるほどね。とても参考になった。後輩達に、聞いてよかった。
オーダーストップ、ギリギリに兄が来た。
「京子。なんか、食わしてよ」
「兄さん、家で食べなくていいの?お義姉さんが、仕度してるんじゃないの?」
「遅く帰ると、用意してないんだよ。自分で、カップラーメンか、お茶漬け食うしかないんだよ」
それまた、大変だ。お義姉さんも、二人も、子供いるから、大変なのかな。
「お義兄さん、いらっしゃいませ」
リョウタが、兄に挨拶した。
「リョウタ君。車買ったの?良い車乗ってるねー」
「はい。買いました」
「あの車、高いんじゃないの?凄いね」
「お義父さんに、買ってもらったんで」
リョウター。なんで、そんなこと兄さんに言うのよ。そんな買ってもらったことは、黙っててよー。バカ正直なんだから。
「へえー。そうなんだ」
兄さんの顔色が変わったのを私は見逃さなかった。
やはり、兄さんは、その足で実家に行ったらしい。
「父さん、どういうことだよ。リョウタくんに、車買ってやったそうじゃないか。長男のオレを、差し置いて、婿に車買ってやるなんて、ないだろうが。あの車、軽く300万は、するぞ」
「あれは、リョウタくんが働いたお金で、買った車だ」
「リョウタくんは、お父さんに買ってもらったと言ったぞ」
「リョウタくんが、毎月、生活費として私達に、入れてくれたお金を貯金してたお金で、買った車だ」
「そんなの生活費入れるの当然だろ。婿なんだから」
「おまえと同居してた時は、おまえは、一円も生活費入れてなかったくせに、ツベコベ言うな。京子には、何もしてやらなかったが、おまえには、家を継いでくれると思って、随分、お金をかけた。マイホーム建てる時だって、頭金を出してやったじゃないか。」
「それは、そうだけど。何も婿に、金をだしてやることないだろ」
「嫁に頭が上がらなくて、長男なのに、家を出ていったお前が、言うな。リョウタくんは、知らない土地に婿に来てくれたんだぞ。車くらい、なんだ。家を出ていったオマエが、口出すな」
いくら家を出ていった兄でも、長男という意識はあるみたいで、リョウタを婿にもらったのは面白くないみたいだ。
そんなこんなで、平穏無事には、行かないものです。