シングル
恭ちゃんが寝てから、リョウタと寝室のソファで、くつろいでると、慶子から電話が着た。
「京子、私、妊娠した。一人で産むつもり」
えっー。妊娠っ。一人で産むって、もしかして不倫?
「相手は、結婚してる人なの?」
「ううん。でも、年下だから、迷惑かけたくないから、妊娠したこと言わないつもり。」
年下っー。もしかして、大学生だったりして。
「相手の人は、何歳なの?」
「32歳」
8歳下かあ。リョウタよりは、上である。
「あの時の京子の気持ちが、よく解った。彼の負担になりたくないの」
慶子は、妊娠3ヶ月だそうだ。
年下の彼とは仕事で知り合ったが、付き合ってるのか、付き合ってないのか、微妙な関係だそうだ。
慶子は、バツイチでもあり、40歳でもあることで、妊娠を知った際に、絶対産むって決めたらしい。
だから、8歳年下の彼に、妊娠したことを打ち明けて、おろしてほしいと言われたらと、不安もあるが、彼になんと言われようと、産む気持ちは、変わらないので、だったら、最初から言わないほうがいい。
おろしてほしいと言われ、彼に失望もしたくもないし、
結婚して、産んでほしいと言われても、彼に我慢して、無理を言わせたくないらしい。
実家の親にも言わないで、産むつもりらしい。
慶子は、離婚したことを、親にグズグズ言われてるらしい。
だから、今度も、年下の彼と無理に結婚して、また離婚したらという不安もあるみたいだ。
一人で産むって、そんな簡単なことじゃない気がする。
仕事は、休職するのだろうか。
でも、年下の彼に、結婚で負担をかけたくないという気持ちは、痛いほど、解る。
リョウタと結婚した私が、今の慶子に、何かを言っても、上から目線に、感じられないだろうか。
自分が結婚して、子供を産んだからと言って、慶子にアドバイスできる立場なのだろうか。
でも、いつも、冷静で、強気で、負けない慶子が、ちょっと情緒不安定になっていたのが、気になったので、今度の日曜日に、慶子に会いに行くことにした。
「オレだったら、妊娠したこと言われないのは、キツイな。相手の男の気持ちはわからないけどさ。どういう気持ちで、慶子さんと付き合ってるのか、わかんないけどね。でも、知らないで、実は子供いたっていうのは、ショックだよ」
リョウタは、私との慶子との電話を聞いていたので、言った。
日曜日は、私一人で、慶子に会いに行くつもりだが、慶子が、恭ちゃんに会いたいというので、リョウタと恭ちゃんと、三人で、慶子がいる都会に行くことになった。
慶子のマンションに行くと、慶子は、恭ちゃんを見て、「可愛い」と、感動してた。自分が母になることを実感したのだろうか。
「彼には、言ったの?」
「言ってない」
それにしても、お腹が大きくなったら、隠せるものでもない。
「色々不安で。言って、嫌な顔されたら、どうしようとか。彼は初婚だから、バツイチと結婚したくないとか、本当は若い子と結婚したかったとか、彼の両親に反対されるとか。彼に言おうとしても、悪いようにしか考えられない。でも、私、どうしても産みたいの」
そう言って、慶子は、不安がこみあげてきたのか、泣いた。
「おばちゃん、泣かないで。」
恭ちゃんは、ハンカチを慶子に渡した。
ハンカチは、リョウタが恭ちゃんに、渡したものだった。
「ありがとう。恭ちゃん」
誰だって、本当は、幸せな結婚がしたい。
全ての人が裕福で、親に反対もされず、周囲に祝福される結婚ばかりじゃない。
仕方なく結婚する人だっている。反対される人だっている。
私は、リョウタと結婚できたのは夢のようだ。諦めていた結婚が出来たのだから。でも、私がそうだからって、慶子に、押し付けたくもない。
そう思って、慶子に、何も言えないでいた。
「彼に言わないのは、慶子さんの自己満足だよ。妊娠したのだから、彼にも責任あることだから、言うべきだよ。それに、彼が慶子さんを真面目に想っていたら、言われないのはショックだよ。年上の彼女に言われないのは、年下だから、頼りにされてないのかって、そんくらいの存在なのかって、ショックだ。彼の気持ちは、聞いてみないと分からないよ。勝手に決めつけるもんじゃない」
リョウタが言った。
「オレも、同棲してた時、京子に、大事なこと、言われないのは、ショックだった。オレのことを想って言わないのは解ったけど、頼りにされてないんだなって思った」
私が流産した時のことを言ってるのだろうか。
「リョウタくん。ありがとう。彼に言うことにする。」
慶子の彼は、どんな反応をするのか分からない。でも、いくら年下でも、32歳は、子供ではない。大人の年齢である。
慶子のマンションを出てから、都会に来たので、アンパンマンミュージアムに行くことにした。
日曜日だったので、アンパンマンミュージアムは、すごい混んでいた。でも、恭ちゃんが、とても喜んでいた。
アンパンマンも、ドキンちゃんも、バイキンマンもいた。
「恭ちゃん。有くんと、莉菜ちゃんに、パンを買っていこうか」
「うんっ」
アンパンマンのパン工場に行った。
「莉菜ちゃんに、メロンパンナちゃんがいいかな。有くんは、カレーパンマンかな」
お土産のパンを選んだ。
「おじいちゃんと、おばあちゃんには、食パンマンだよ」
恭ちゃんは、両親が食パンが好きなのを知っていた。
こうして、親子三人で、来ているなんて、私には、幸せだった。
年下だから、別れを何度も考えたリョウタと、今、一緒にいる。
リョウタとの子供もいる。
リョウタも、これくらいのことで、幸せだと感じてくれてるだろうか。
「リョウタ。私、トイレ行ってくる。恭ちゃんをお願い」
そう言って、私はトイレに行った。
リョウタと恭ちゃんの前に、二人の子供を連れた男性が立ち止まった。
「もしかして、リョウタくん?」
「あっ、武川さん?」
リョウタに声かけたのは、10年前、私とリョウタがアルバイトしてたレストランで、一緒にアルバイトしてたフリーターの武川さんだった。
「リョウタくんの子供?リョウタくんに、そっくりだ」
「はい。」
武川さんは、恭ちゃんを見て言った。
「もしかして、京子さんと結婚したの?」
「はい。」
「そう。良かった。あの後、リョウタくん、バイト辞めたから、気にしてたんだ。オレ、随分、リョウタくんに、酷いこと言ったし」
「いいですよ。オレも、かなり生意気だったし。武川さんは、行政書士は、受かったんですか」
「リョウタくん辞めてから、その年に受かって、オレもバイト辞めたんだ。で、二年前に独立した」
「すごいですね」
武川さんは、8年前に結婚して、小学生と幼稚園の子供がいた。
私がトイレから戻ってくると、リョウタと武川さんは、話をしていた。
「京子さん?全然変わってないなー。あの頃のままだ」
武川さんが私に気づいて言った。
「またまた。いくらなんでも。それは無理ありますって。私、40歳ですよ」
「ほんとですよ。うちの女房より若い」
武川さんは、私とリョウタを、あの頃を思い出したように、懐かしそうに見てた。
武川さんと、別れてからリョウタが、言った。
「オレと、武川さん、険悪の仲だったんだよ。会う度にケンカ。殴りあいのケンカしたこともあった。懐かしいな。」
「えー。そうだったの?知らなかった」
「今思えば、オレ、かなり生意気だったな」
生意気で、無邪気で、憎めなくて、そんな20歳のリョウタだった。
「リョウタ。私と結婚してくれて、ありがとう」
「なんで京子が礼を言うんだよ。それは、オレが言うことだよ」
リョウタと恭ちゃんと、三人で手を繋いで、帰った。
後日、慶子から、電話があった。
彼に妊娠のことを言ったそうだ。彼は、子供ができたことを喜んでくれたそうだ。彼の親も、孫ができたと大喜びらしい。
結婚式には、私とリョウタと恭ちゃんも、呼んでくれるらしい。




