表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/46

ストレス

金曜日のディナータイムの8時前に、OLさんが一人できた。

「店長っ、とりあえず白ワイン持ってきて。ボトルでね」

ボトル?!ワインのボトルを一人で1本飲むというのだろうか。

「グラスワインもありますよ」

リョウタもさすがに、グラスワインを薦めた。

「ボトルで飲めるわよ。今日は、飲みたい気分なのよ。いいから、持ってきて」


このお客様は、ランチタイムに、たまに来る近所の会社のOLさんだ。一人で来るなんて、珍しい。こんな時間まで残業だったのだろうか。


「店長、何歳?」

「30歳です」

「年下かあ。年下なのに、もう結婚してるんだもんね」

OLさんは、やけにリョウタに、絡んできた。

「私は32歳。独身。独身だからって、今日も押し付けられて残業よ。結婚してないからって、子供いないってだけで、残業は当然みたいに、押し付けられてさ。やってらんないわよっ」

なんだかOL時代の私を見てるようだった。

「若い子だって、結婚してなくても、彼氏いるから、定時で帰るのが当然みたいでさ。先輩の私が、残業してるというのに、平気で帰っていくのよ。どーせ私は彼もいなくて暇ですよ」

ますます、私を見てるようだ。私は、そのOLさんの気持ちが痛いほど、解った。

「店長、チーズ盛り合わせと、アスパラベーコンのパスタをお願い。喋ったら、お腹すいた」

OLさんは、ワインをぐいぐい飲んだ。


「50歳のお局ババアなんてさ。ズルいのよ。面倒くさい仕事は全部わたしに、させて、良いとこ取りよ。上司には、いかにも自分がやりましたみたいに報告してさ。やってねーだろが。全部私が、やったつーの。ババアのくせに、上司の前では、ぶりっこしやがって。気持ちわりーいんだよ」

そうとうストレスがたまってるようだ。この田舎では結婚早いから、32歳で独身だと、そうとう言われてるだろうな。地元の人だろうか。実家住まいなら、親にも、結婚、結婚と言われてるのでは、ないだろうか。



「若いのも、ババアもむかつく。同じくらいの年だって、結婚してるから、話合わないし。だれーも、話が合う人なんて私にはいませんっ」

ワインボトルをもう半分以上空けていた。


「飲んでばかりじゃなく、少し食べたほうがいいですよ。」

そう言って、リョウタは、注文されたパスタとチーズを持っていった。

「ありがとう。こんな私に、店長優しいのね」

確かに、心が荒んでる時は、店員の営業用の優しさでも、染みるものである。

OLさんは、パスタを食べ始めた。

「お、美味しい・・」

今度は、泣き出した。なんだか私は、このOLさんが他人事ではなく思えた。



リョウタが、OLさんにナプキンを差し出した。

「店長・・ありがとう」

「なんか、うちの女房見てるみたいで」

「へっ。シェフが?」

「うちの女房、結婚前、OLだったんですよ」

「そうなの?」

「そういう辛いときは、美味しいもん食べて、発散させたほうがいいですよ」


「店長、私の場合、毎回だから、太るわよ」

そう言って、OLさんは、笑った。


「デザートにどうぞ。疲れてるときは、甘いもの欲しくなりますから」

私は、残ったスイートポテトを出した。


「大丈夫ですよ。甘さ控えめにしてますから」

「ありがとうございます」

そうして、OLさんは、また泣いた。


30歳過ぎると、体力的にもきつくなる。中間的な立場での人間関係にも悩み、仕事の量も多くなる。それに独身だと、押し付けられたりすることも多いだろう。こんな田舎じゃ、そうそう発散場所もないだろう。私は、都会にいたので、発散場所や独身の友達もいたが、彼女は、もしかして、私より辛い思いをしてるのかもしれない。




家に帰ってから、風呂上がりのリョウタが言った。

「今日のOLさん、そうとうストレスたまってるな」

「うん。なんだか、可哀想になった」

「居酒屋じゃないから、どこまで発散できるかは、知れないけど、うちに来て、少しでも、癒しになったらいいけど」

「そうだね」

リョウタが言ったように、美味しいものを食べて、ストレス発散になるときもある。

うちの店が、そんな店になってくれたらいいな。




ランチタイム1時半過ぎたときに、外のメニュー看板をずっと見ているお子さんを抱っこしたお母さんがいた。

「京子、あのお客様、外のメニュー看板15分は見てるぞ。そうとう悩んでるのかな」

「勧誘するみたいで、入ってくださいとも、言えないしね」


パスタが食べたい。外で、パスタなんて、出産してから食べてない。ピザもある。食べたい。食べたい。

でも、子連れじゃ、周りに嫌がられるかも。落ち着いて食べた気がしないしな。

それに、こういうパスタの店は、小さい子ども連れは、ダメだよね。

でも、パスタが食べたいー。このモッツァレラのトマトソースパスタ食べたい。

この時間のランチだと、混む時間過ぎてるし、大丈夫かな。断られてもいいから、入るだけ入ってみようかな。



「いらっしゃいませ」

外で、悩んでたお客様は、店に入ってきた。

「子連れなんですけど、大丈夫ですか」

「大丈夫ですよ。お席に、ご案内します」

リョウタをお子さんを抱っこしたお客様を案内した。


「モッツァレラのパスタソースのパスタと、アイスティーお願いします」

子連れのお客様は、もう、すでに注文が決まっていたようだ。

「かしこまりました。よかったら、お子様をおろされたら、いかがですか」

おそろく1歳は過ぎてる息子さんだと、思うのだが、周りに気を使ってか、そのお母さんは、お子様を抱っこしたままだった。

「でも、おろすと、動き回るので、他のお客さんの迷惑なりますので、いいです」


「リョウタ、裏にベビーチェアあるから、持ってきて座ってもらったら」

私は、そのお母さんが、気を使ってるのが、わかり、可哀想になって、言った。


そうして、リョウタは、ベビーチェアを持ってきた。

「安定感あるので、座らせて、大丈夫ですよ」

「ありがとうございます」


ベビーチェアに、座らせると、お子さんは、おとなしく座っていた。

リョウタが、モッツァレラのトマトソースパスタを持っていくと、お母さんは、

「美味しいー。こんな美味しいパスタ、久しぶりに食べた」

と、感動しながら食べていた。

「まんまー」

お子さんも、食べたいように、お母さんが食べてるのを見て、喋った。

1歳児となると、パスタは、まだ早いだろうか。それは、その家庭の都合があるから、難しい。

「まんまー」

「ママ食べてるから、ちょっとだけ待っててね」

お母さんは、そう子供にいい聞かせてた。

「お子さん、何歳ですか」

私は思わず、ホールにでていって、聞いた。

「1歳2ヵ月です」

「じゃあ、パンケーキをお出ししますか?」

「でも。メニューに、ないんじゃ」

「大丈夫ですよ。すぐ作りますから」


そうして、パンケーキを作ってだした。

「クリームは、つけないほうがいいと思いまして、飾りなくて、すいません」


「いいえ。気遣いありがとうございます。シェフは、お子さんいるんですか」

「はい。3歳の子供がおります」

「だから、すごい私に気を使って頂いて、ほんと、すいません。嬉しいです」

お子さんは、よほどお腹すいてたのか、パンケーキを手づかみで、食べていた。



食事が終わって、また抱っこして、お客様は、レジにきた。

「ありがとうございした。子連れは、嫌がられんじゃないかと、外で、悩んでたんですけど、入ってよかったです。」

「うちは、子連れ大丈夫ですよ。よろしかったら、また来てください」

リョウタは、言った。

「あっ。パンケーキの分も払います」

「パンケーキは、メニューにないものなので、御代は、いいです」

「でもー」

「じゃあ、また、来てください」


子連れのお客様は、何度も頭を下げて帰っていった。




独身も既婚も、色々悩みがある。ストレスがある。


私も独身時代の自分を忘れずに、母になった自分を過信せずに、そうして、お客様に接していこう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ