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そういえば最近、幸恵おばあちゃんが、店に来てない。それは、来る来ないは、お客様の自由だが、幸恵おばあちゃんは、80歳過ぎてて、独り暮らしなので、ちょっと気になった。病気になったりしてないといいのだが。
「幸恵おばあちゃん、最近来てないよな」
リョウタも、気にしてたのか言い出した。
「私も気になった。寝込んだりしてないといんだけど」
「オレ、休憩時間に行ってみるよ。お義母さん、幸恵おばあちゃんの家、わかりますか」
「確か、そこの信号曲がったとこよ。名字は、鈴木じゃないかな」
そうして、リョウタは、休憩時間に、幸恵おばあちゃんの家に行った。
インターホンを押しても、しばらく応答がなかった。
リョウタが、諦めて帰ろうとしたら、玄関の戸が開いた。
「お兄ちゃん、来てくれたのか」
幸恵おばあちゃんが出てきた。
「幸恵おばあちゃん、最近、お店に来ないから、具合悪いんじゃないかと思って来たんですよ」
幸恵おばあちゃんは、腰を辛そうに押さえていた。
「お兄ちゃん、ありがとうね。庭で転んで、腰を悪くしたんだよ。少しは良くなったんだけど、お兄ちゃんのうどん屋まで、行くのは、まだ辛くてな」
うどん屋とは、うちのパスタ屋のことを言っている。
「ご飯は食べてるんですか。買い物はどうしてるんですか」
「たまに、息子の嫁さんが来てくれるんで、そん時に、買い物はしてもらってる。ご飯くらいは、あるもので食べてる」
息子の嫁さんが、たまに来てるって、どのくらいの頻度で、来てるのだろう。幸恵おばあちゃんには、娘さんもいるらしいのだが、遠いところに、お嫁に行ったらしく、滅多に来ないらしい。
腰痛で、思うように歩けないのに、独り暮らしでは、不便だろう。
今日は、とりあえす、幸恵おばあちゃんの好きな水菜と大根おろしのパスタをリョウタに、届けてもらった。
お店が終わって、家に帰ってから、両親とリョウタと、話をした。
「息子さんも、隣の市に住んでるから、毎日は来ないじゃないか」
幸恵おばあちゃんの息子さんは、私の父親より、年下だ。おそらく、58歳くらいだろう。孫も成人して、家を出てるので、滅多に幸恵おばあちゃんの家に来ないらしい。
「洗濯だってあるし、ヘルパーさん頼むしかないのかしら」
母親が言った。ヘルパーも相性があるから、なかなか慣れるまで、難しい。
市役所で、独り暮らしのお年寄りの家に、たまに訪問したりしてるが、頻繁ではない。
とりあえず、店休日の水曜日に、煮物や、おにぎりや、あと日持ちしそうなものを作って、リョウタに幸恵おばあちゃんに、持って行ってもらった。
「お兄ちゃん。また来てくれたんか」
玄関の戸を開けると、リョウタが来て、幸恵おばあちゃんは、嬉しそうだった。
「お兄ちゃんの息子さんか?」
幸恵おばあちゃんは、一緒に連れて行った恭ちゃんを見て言った。
「お兄ちゃんに、そっくりじゃ」
「ボク、パパそっくり」
幸恵おばあちゃんは、恭ちゃんも来てくれて、本当に嬉しそうだった。
「汚くて、ごめんなさいよ」
幸恵おばあちゃんの家に上がると、少しは散らかっていたが、お嫁さんが、来たときに、片付けるのが、ある程度は整理はされていた。
「おばあちゃん、これ煮物とか。女房が作ったんだ」
「おお、ありがとう。奥さんもお店が忙しいのに、悪かったな。礼を言っててな」
「腰、まだ痛いんですか」
「大分良いけど、前みたいには、どこまでも歩けないだろうな」
杖をついたとしても、長い距離を歩くのは大変だろう。
「病院は、どうやって行ってるんですか」
「病院、送迎がある病院だから、迎えに来てくれるんよ」
そこは、田舎で老人が多いこともあり、そういう病院もあるだろう。
「おばあちゃん、バイバイ」
「恭ちゃん、また来てな」
リョウタと恭ちゃんが帰ると、幸恵おばあちゃんは、寂しそうだった。
リョウタと恭ちゃんが、見えなくなるまで、幸恵おばあちゃんは、玄関で見送っていた。
そういえば、頻繁に来ている花江も、ここ一週間も見てない。忙しいのかな。あとでLINEしてみよう。
そうすると、店の休憩時間に、花江が来た。
「京子、私、もう自由がなくなるかもしれない」
花江は思い詰めたように言った。
「旦那のお母さんが、入院したの。でも、退院しても、介護が必要かもしれない。そうしたら、私が介護をすることになるかもしれない」
「えっ、だって花江の旦那さん、次男でしょう。お姑さん、長男と一緒に暮らしてるんでしょう。お義姉さんが介護しないの?」
「お義姉さん、仕事してるから、仕事を辞めたくないって、断固拒否してるの。専業主婦の私がやったらいいって、お義姉さんが、私に言うのよー」
それは、お義姉さんの都合だろう。それを離れて暮らしてる花江に、押し付けるのは、どうだろうね。
「もう、私には自由がない。ヨガ教室も辞めなきゃいけないかも。京子の店にも、今までみたいに来れないかも。私からパスタとピザを取り上げるなんてーー」
そういって、花江は、号泣した。
「まだ、お姑さんが退院してみなきゃ分からないじゃないの。介護いらないくらい回復するかもしれないし。もし、花江が店に来れなくなったとしても、パスタとピザは、作って届けるから大丈夫よ」
私は、泣いている花江を慰めた。
「京子、ありがとうー」
私の親も60歳を過ぎた。いつ介護になっても、不思議ではない。他人事ではない話だ。親の介護になったら、店を続けるのは難しいかもしれない。リョウタのご両親のことだって、知らんぷりは出来ない。
二週間後の土曜日。ランチタイムに、幸恵おばあちゃんが、息子さんと一緒に店に来た。
「息子に連れて来てもらった。息子も、うどん好きだし。」
「おばあちゃん、息子さんと一緒で、良かったね」
リョウタが、言った。
「お兄ちゃん、これ少しだけど、色々世話になったお礼じゃ。恭ちゃんにも、食べさしてな」
そういって、幸恵おばあちゃんは、高級なメロンを持ってきてくれた。
でも、これからも、息子さんが、店に幸恵おばあちゃんを連れてきてくれるみたいで、良かった。
そして、続いて、花江が来た。
「京子、来たわよー」
花江のお姑さんは、リハビリすれば、歩けるらしく、日常生活に支障ないくらい回復するみたいなので、とりあえず、付きっきりの介護は、ないみたいだ。
誰だって、介護は、されたくはない。自分で動きたい。
でも、誰だって、支えは必要なのかもしれない。




