『箱庭』よりとある巫女の閑人閑話
はじめまして。
私は、レオノラと申します。
かつてはレオノラ・シグニアイト・ペンロープといいました。ペンロープ侯爵が次女であり、元はヒューペリオン公国の第二王子の婚約者でした。
私は、貴族の子息子女が集まる学園で、とある子爵令嬢――婚約者のお気に入りの【お姫様】――をないがしろにし続けた事が原因で婚約を破棄され、この『箱庭』に連れてこられました。
私はてっきり毒の盃を飲むものだとなんとなくぼんやりと考えていました。両親からは見捨てられ、兄や弟からも決別を言い渡され、何を言っても聞いてもらえなかった上、私の与り知らぬ所で様々な罪状が並べられたからもあります。
元々、貴族令嬢としての心構えがなっていないと言われつづけ勉強をがんばってきたつもりでしたが、空回りし続けていると言われ、「メイリー子爵令嬢のほうがよっぽど令嬢らしい」とすら言われ、信じていた友達も誰も助けてくれず、生きていても意味無いなと思ったからでありました。
そんな私が毒の盃どころか修道院行きにならず、『箱庭』と呼ばれる神殿の方へ連れてこられたのか。不思議に思っていると、そこに勤める者たちの長に当たる覡から「貴方は、ここで浮かばれない死者達の未練を聞く役目を担っていただきます」と説明されました。
私が暮らすこの国では、輪廻転生が信じられています。が、しかし、未練を持った人々は転生できずこの世に留まってしまうのです。故に未練を聞き、慰めるという役目を巫覡が隠された場所で行っているという事でした。
秘されているのは、元々未練を残し彷徨う魂は負の感情に引き付けられ転生できないという言い伝えがあり、それらが苦痛から負の連鎖を生み出すとも言い伝えられ人々に恐れられているからです。
それ故に、日々人々は祈りをささげていますが、その影で『箱庭』へと転生できない魂を集め、未練を聞き慰め続ける人々がいるのです。
元々、私は霊力が高く、そのせいで感受性も高かったようです。故にこの婚約破棄を切欠に「毒の盃を呷られるくらいなら」と私を巫女としてここに置く事になったそうです。
私は、軽率な行動を取りやすい、浅はかな人間だと自覚がありました。貴族令嬢としては致命的なので、必死に押さえ、強制し続けていました。本当の私は世俗的で凡人なんだという自覚がありました。
故に、様々な未練を聞いているうちに、まるで自分のことのように思えることもありました。魂と共に泣く事もありました。
その度に、「惹かれすぎてはいけない。君は生きている人間なのだから」と先輩たちに諭されました。生きている人間が、未練に引かれて共におちてしまってはいけない、と。
時に、未練を解消するためには行動を起こす必要もありました。可能な範囲で望みをかなえるため、外の世界とのつなぎを持つ密使に力を借り、買い物に行ってもらったり、物に宿らせて目的の場所まで連れて行ってもらったり、時には『ヨリシロ』という立場の巫覡の力を借りて宿って(監視つきではありますが)行動させたりもしました。私は外に出る事が許されない身です。外に出る必要があるときは、フォローしかできませんでした。
それでも、どうにか未練が解消されて昇っていく魂を見ると、心がすぅ、と軽くなるのです。私にも役に立てる事があるのだな、と思うと嬉しくなります。
17で『箱庭』に入り、もう20年になります。私は一生ここから出る事も無く、死ぬ日まで巫女として魂に寄り添って生きていく事でしょう。最初は辛く悲しいとしか思えぬ日々でしたが、こうして話を聞き共に泣いたり、怒ったり、考えたりしていくうちに、未練が消えて転生していく魂を見るうちに、こういう生き方が自分にあっている事に気付かされました。
今では、私が無罪だったとかそういう話は興味がありません。世間と隔絶されたままの私に大切なのは、役目を果たすということですから。
さぁ、貴方の未練をお聞かせください。
私は自分のできる最大限の力を持って、貴方の未練解消のお手伝いをいたします。
(終)
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。




