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第二話

 

「単刀直入に言おう。魔獣が現れた」


 このルギー冒険者ギルドのギルド長、アイゼン・アスタイトは、フォイデルがギルド長室の来客用の椅子に座るや否やそう切りだした


 唐突で前置きも無く、少し指定の時間を超過していることへの文句も無いことに、若干面食らっていたフォイデルは。慌ててアイゼンに聞き直す。


「魔獣が!? モンスターの見間違いではないのか?」

「見間違いではない。理解できないならもう一度言おう、魔獣が現れた」



 モンスターと魔獣。この世界にはモンスターと魔獣の間には明確な差がある。


 モンスターとは一般的に、犬や猫、豚や牛等を始めとした人間が飼育・管理が及んでいる生物を除く野生生物の総称であり、

 魔獣とは、何らかの作用により凶暴化したモンスターの事を指し、その危険性や特質性から、一部では悪魔の化身とも呼ばれ恐れられている生き物である。



「しかし魔獣はつい数週間前に発見され討伐されたばかりだぞ?」


 モンスターから突然変異して生まれる魔獣だが、変化する前(モンスター)変化した後( 魔獣 )では大きく性質が異なっている。その特長として出現周期などが挙げられる。

 モンスターは種族によって差はあるものの、子が生まれ、成長し親となって子をつくり死んでいくのに一定の周期や規則が存在している。

 しかし魔獣の場合は突発的に発生し、その周期が不規則になる。例えば一体目を発見し討伐してから、次に二体目の魔獣が発見されるまでに少なくとも約数ヶ月から数年もの時間を有するといった様に。


 その為、フォイデルはまだ魔獣が出現する時期ではないと判断したのだ。



「分かっているさ。だがこれを見てみると良い、二級監察官が鑑定した結果だ。信用性は十二分にあると思うが?」


 フォイデルの前に紙束が置かれる。『先日の魔獣ハニー・ラビットの鑑定報告書』という題名から、アイゼンの言っている出現した魔獣の検体報告書だろう。

 フォイデルはそれを手に取って、パラパラと捲り内容を確認する。


「確かに……」


 書類には、モンスターには無く魔獣にしか存在し無いと言われている魔石の摘出と確認により、このハニー・ラビットは魔獣であると断言されていた。


「それだけじゃない、ハニーラビットの魔獣がもう一体。ギルゴディアスの魔獣が一体。コボルトの魔獣が2体。そして全て出現場所が違っているときたんだ」

「魔獣が5体だと!? 出現場所付近の村町は大丈夫なのか?」

「ああ、幸いにして出現場所は全てバラバラでね、幸か不幸かおかげで各ギルドの冒険者やギルド職員で事なきをえれた」


  負傷者が数人、死者は2人出てしまったがな。アイゼンは小声でそう付け加えた。


「そう…か……」

「死傷者には申し訳ないが、フォイデル。私達に死者の冥福を祈る様な時間はない。事は一刻を争うものだからな」

「もしかすると俺を呼んだ理由はそれに関係しているのか?」

「そうだ。お前にも察しはついているのではないか? 魔獣が発生する周期の亢進化、魔獣の大量発生、更には凶暴性も上がっている。これ等の事象から推測される事実は恐らくだが……」


 そこでアイゼンは口を閉ざしてしまう。

 まるで口にするのを恐れる様に、あるいは口に出すのを憚る様に。


 その静寂を破ったのはフォイデルであった。

 

「……魔王がまた現れたってことか……」


  魔王。


 モンスターが何らかの要因で凶暴化した魔獣が、更に狂暴化・特質化を遂げることにより、魔獣を遥かに上回る危険性となったものを魔王と言う。

 魔王は同種の魔獣の数十から数百体分程の強さがあるとており、3年前にゴブリンというモンスターの中でも最弱の種族が魔獣を経て魔王になった事例では、たった一体で幾つもの街や都市を破壊した事からも、やはり魔王という存在が恐ろしい物だと分かる。


「魔王の出現は既に各国のギルドを通じて国の中枢にも伝わっている。だが残念な事に信用できないのか幾つかの国は魔王の出現を否定しているらしい……」

「そりゃそうだろうな。ゴブリンの魔王が出現したのがつい3年前だぞ?」

「正確には2年と10ヶ月前なんだが」

「細かい事はどうでも良いんだよ」


 アイゼンの修正をフォイデルは憮然とした顔で一蹴する。


「通常、魔王の出現する周期は数百年に一度と言われている。それなのに百年以内に、それもたった3年で新たに魔王が出現したなんてにわかには信用できないに決まってるさ」

「確かに」


 アイゼンはおどけた顔で肩を竦める。


「さて、少々現状報告が長引いてしまったが……フォイデル、本題と行こうじゃないか」

「やっとか……。で、何で俺を呼んだんだ?それも緊急召集令状等と御大層な謳い文句をつけてだ。まさか魔王出現が嘘だと言っている国に、魔王出現の証明をしてこいとかではないよな?」


 ハハハと自分が言った冗談でアイゼンと笑い合ったフォイデルは、目の前に座っている男の(アイゼン)目が全く笑っていない事に気がついてしまう


「おいおい……嘘だよな?」

「そのまさか、だ」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!俺に政治的な駆け引きなぞ到底出来筈がない事をお前は分かっているのか!?」

「落ち着いてくれフォイデル。お前に行政は向いていないという事は私にとっても百も承知さ。」



 だからお前にはもっと適当な仕事を任せようと思う。そう言ってアイゼンは今日一番の笑顔でフォイデルに笑いかけてくる。




「フォイデル・エルフマン。君にやって貰いたいのは魔王の証明ではなく、魔王の『観測』だ」






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