ハロウィンですね。
『明日、ハロウィンだよねー。』
唐突に彼女から送られてきたメールに驚く、葉。
確かに明日は10月31日。
ハロウィンである。
だが、先程まで話していたのは全く違う内容だった。
塾で疲れたと言っていたのはもうどうでもいいのだろうか?
『そうだけど、どうかしたのか?』
葉は、思わず首を傾げつつもそう送ると、由羽からは
『んー?確認しただけー。』
と、やたらと語尾が伸びた解答。
「ゆう…おもしろがってる?」
まるでいたずらっ子のするような笑みを浮かべた彼女の顔が浮かんだ。
何をしようとしているのだろうか…。
ところが。
次に届いたメールは、彼の予想を遥かに上回る物だった。
『あ、私もう寝るね。』
……彼女の言わんとしていることは全く分からなかった。
『もう、寝るのか…?』
〈俺はまだ寝るつもりはない〉という気持ちを暗に伝えたつもりだった。
甘えたな由羽は、どちらかが睡魔に襲われるまで、寝ようと提案してこない。
「そうじゃなきゃ、ようくんとロクにメールできないじゃない。
日中は学校で、休日も会えないこと多いのに。」
と、頬を膨らませながら、ふてくされたかのように抗議してきた由羽の顔が思い出された。
だが、今日の彼女はというと。
『どうせ、明日はデートだし、いいじゃない。
じゃあ、おやすみなさい。』
「……冷たい。」
だが、仕方がない。
もう寝てしまうのならば、急がなければ。
『おやすみ、ゆう。』
慌てていつもどおりのメールを送ったが、内心穏やかではなかった。
彼女の行動の意味はさっぱり分からない。
俺は彼女に飽きられてしまったのか…?
「眠れねぇ…。」
葉は仕方なく、英語の問題集を開いたのだった……。
そして、翌日。
「遅い。」
「ごめん。」
はじめのものは由羽のセリフ。
もう一つは葉のセリフだ。
「デートに遅れるのが許されるのは、彼女さんだけなんだよ?」
結構、理不尽な一般論を持ち出して抗議する由羽。
困り果てた様子の葉。
「ごめん。……機嫌直して、カラオケ行こう?」
結局、もやもやしたものがどうしてもとれず、寝不足だった葉は、寝坊して電車を逃してしまったのだった。
「二時間も待たせないでよ、ばか。どこかの歌みたいになっちゃう。」
拗ねたふりをしながら、それでも、ひさしぶりのデートがよっぽど嬉しかったのか……
由羽はさっさと葉の手を取った。
拗ねていたのが嘘のように顔を葉の腕にスリ寄せて猫のようにして甘えた。
葉も甘えられて、悪い気はしない様子。
周りからすれば、十分バカップルに見える行動である。
本人たちは……気がついていても止めない。
因みに
「ただでさえ、あまり会えないんだから、これぐらいいいじゃない!」
というのが、由羽の言い分である。
だから、こうもベッタリ……というわけではなく、殆どは由羽の性格によるものだが。
「そういえば、どうしてカラオケにしたんだ?」
そう。カラオケに行こうと提案したのは由羽だった。
はたして、葉の言葉に由羽はニヤリとした。
「ハロウィンだからだよ!ほら、ハロウィン割引!」
「あぁ、なるほど。」
と、納得した様子の葉。
由羽は何か企んでいる様子。
……と、まぁ。こんな感じでカラオケ店に入ります。
すっかり受付などにもなれて、スムーズに部屋まで。
「さて……ようくん?」
「ん?」
「trick or treatだよ!」
由羽は、体当たりともいえる勢いで抱きついた。
つまり、はじめからそのつもりだったらしい。
そんな彼女を受け止めた彼は、バックをごそごそと漁った。
「はい、アメ。」
彼女の手に握らされたのは一つの飴玉。
つまり、treatである。
「……つまんない!」
つまり、由羽はイタズラをしたいだけだったようだ。
「なぁ、ゆう?イタズラを選んだとして、何をするつもりだったんだ?」
素朴な疑問であった。
由羽は「んー……?」と考えるような素振りを見せた後に
「考えてなかった。」
あっけらかんと言い放った。
つまりは、イベント事をやりたかっただけのようだ。
「なぁ、ゆう。」
「ん?何?」
「trick or treat……?」
そして葉は、由羽の手をつかみ………
「…ら。中村、問二の答え。」
隣の席の鳴宮の声だ。
「先生に指されてるぞ。112ページの問二。」
「へ? え、あ、−5±√2です。」
突然、現実に引き戻されたので、頭が若干ついてきていなかった。
仕方がないので、一応確認を取る。
「鳴宮くん。今、このページで間違ってない?」
「あぁ。あってるよ。中村、お前また小説でも書いてたのか?」
「あははー、つい。」
笑ってごまかしていると、チャイムが鳴った。
授業は終わりだ、とみんな自由行動を始める。
「羽依は、小説家めざしてるんだもんねー。」
と、茶化すように言ってきたのは前の席のともちゃん。
「あくまでも趣味だし、大した物は書けないけどね。」
と、自嘲気味に笑うと、私は筆箱についたキーホルダーを指でつついた。
彼氏とお揃いのそれは、空中でぶらぶらと揺れていた。
「せっかくのハロウィンなのに……。どうして平日なんだろう!」
リアルでのハロウィンは金曜日。
実際のデートは翌日の土曜日な羽依。
「明日もハロウィン有効かな?」
つまり、やりたかったことを小説の中で、キャラクター達にやらせていたのである。
キャラクターの名前も自身の【羽依】と言う名前から【羽】をとって、【由羽】。
そして、彼の名前は…
「あーあ。柚葉くんに会いたいなー…。」
もはや、読みはあっておらず、漢字だけの引用であった。
〈……もし、このノートに書いたのを投稿サイトにあげたらどうなるだろう?〉
柚葉自身はそのサイトに投稿したりしていないが、羽依が読んで欲しいと言えば読んでくれるだろう。
羽依は、にやにやする口元を押さえながら、執筆の続きに取りかかったのだった。
ハロウィンものが書きたかっただけなんです!
何故にこうなったし……。