敵と味方
「早く出てこ~~いゾンビ~~」
坂野、大野、雪の三人は、足場の悪い森の奥へ、奥へと入っていった。
「オッサン、あんたさっきまでびびって動けなかったじゃねぇか」
「さっきは、初めて見たからな、でももう大丈夫だ!あんなもん傷だらけの兵士だと思えばなんのこたぁねぇ!俺は戦場でそんな奴を何人もみてんだ!」
「それは、それで気持ち悪いけどな」
坂野や大野と違い、雪は明らかに恐怖に打ちひしがれていた。一言も喋らず、ずっと下を向いて歩き時々何にもない所で
つまずいて転びそうになった。その度に坂野が雪の体を何とか支えて助けるが雪は何も言わずまた黙々と歩きだした。
坂野と大野も雪を元気づけるため他愛もない会話をしてみるがまったく反応がなかった。坂野はしびれを切らし、それまで一人、端を歩いていた雪を自分と大野の間に来るよう引っ張った。雪は驚いて坂野の顔を見た。
「なっなに?急に」
「なに?お前馬鹿か?ハイキングしてんじゃねぇんだぞ?なにずっと下向いて歩いてんだよ、もしそこの草むらから出て来たらお前死んでるぞ」
「.....あなたに心配される筋合いはないわ.....」
「なんだと!?」
「おい、やめろ!」
大野が二人の間に入った。
「こんな所で言い争ってる場合じゃないだろ?いつゾンビが
出てくるか分かんないのに........それに刑事さんも、常に気をつけてくれよ、今のあんたは、はっきり言って邪魔でしかないんだ」
「...........邪魔......?......」
雪は大野の顔を睨んだ。
「どうしてそんなこと言われなきゃならないの?別に私だってこんな所来たくて来た訳じゃないのよ!」
雪は坂野の腕を無理矢理掴んで大野に言った。
「第一この男がこんな所に来なければ私だってこんなゲームに巻き込まれることはなかったの!私はただこの人殺しを捕まえたいだけなのよ!」
「わっ、分かったよ......悪かったよ....」
大野はなだめるように言った。
「別に大野さんが悪い訳じゃありませんから」
雪は冷たく言い放つと、坂野の腕を乱暴に払い、歩きだした。
大野は苦笑いしながら坂野の顔を見た。坂野は歩きだした雪をじっと見つめていた。
「きゃああああああああーーーー」
突然雪の叫び声が聞こえた。二人は全速力で雪のそばに駆け寄った。すると目の前に現れた雪の姿に坂野は驚いた。
そこにはうずくまって血を流し、顔をあげるのが精一杯の状態の雪が倒れていた。
「おい!大丈夫かよ!生きてんのか?」
坂野は斧を置き、側に座り込むと雪の体を抱き上げた。雪は微かに息をしており、なんとか命をつないでいた。
「おい!兄ちゃん気をつけろ!まだ敵がどこにいるか分からん!」
大野は二人を守るように斧を構えて立っていた。
「あっ!」
坂野が声をあげた瞬間、大野が悲鳴をあげた。
「ぐわぁっ!」
その声と共に大野の手から斧が滑り落ちた。そして、大野の腕から血しぶきがあがった。
「オッサン!」
「俺は大丈夫だ!兄ちゃん!それよりその刑事さんを守るんだ!」
「......守るったって....」
「バカ野郎!刑事さんの傷痕をよく見ろ!」
坂野は慌てて、雪の体を見た。雪は左胸を押さえており、そこからドロドロと血が流れているのが分かった。坂野はそっと雪の手を外した。するとそこには細い、棒状の小さな物体が突き刺さっていた。
「....これは....矢...?」
「......そうだ.....俺はかすっただけだが、刑事さんはもろに食らった。早く抜いてやれ.....」
「....分かった!」
坂野が雪の胸に刺さった矢に手をかけた時、雪が喋りだした。
「.....私のことは....いいから....早く倒して...武器を...届けないと....」
「そんなこと言ったって.....」
「私は大丈夫!」
強がりだということは分かっていた。例えここで雪を助けたとしてもすべてが終わればまた敵同士になる。こう考えてる内にもゾンビはいつ攻撃してくるか分からない。だったら自分の命を優先するべきだ.......いや、自ら約束したじゃないか、生きてみんなで帰ろうと。女一人守れないで何言ってるんだ俺は。このまま見殺しにしてしまえば負けたことになる。このままじゃダメだ....このままじゃ....
「うわぁぁぁぁ!!!!!」
坂野は雪の胸に刺さった矢を強引に引き抜いた。
「うっ」
雪は意識を失い、目を瞑りそのまま動かなくなった。坂野は
引き抜いた矢を捨てて、雪のズボンのポケットに手を入れた。そして、拳銃を取り出すと、それを持って立ち上がった。
「.....オッサン......まだできるか....?」
大野は、血が流れている腕を押さえたまま、立っていた。
「ああ....当たり前だ....こんなもん痛くも痒くもない」
大野は傷ついた方の腕で斧を拾いあげ、軽く素振りをした。
「ほら.....何でもない...」
大野はニコッと笑ってみせた。
「とりあえずオッサン、援護頼むぜ...」
そう言うやいなや、坂野は雪の体を担ぎ上げた。その瞬間先程まで雪が横になっていた場所に新しい矢が飛んできて、地面に突き刺さった。
坂野は矢が飛んできた方向に銃を構えると、2発撃った。
すると撃った方向にドサッとゾンビが倒れる音がした。
「オッサン!」
坂野がそう叫ぶと、同時に今度は反対側の茂みから新たなゾンビが飛び出てきて、手に持った包丁で、坂野に襲いかかった。完全に坂野の死角から襲いかかったが、すんでのところでゾンビの体が真っ二つに割れ、包丁が地面に落ちた。
「ギリギリだったじゃねぇかオッサン」
「.....ったくお前は...もうちょっと説明しろよ!俺がもしもう一体いるのに気がつかなかったらお前死んでたぞ?」
「援護頼むって言ったじゃねぇか」
坂野は雪を一度おろし、背中に背負い直すと、手に持った拳銃を自分のポケットにしまい、来た道を戻り始めた。
「オッサン、そこの包丁と、弓矢、ちゃんと拾っとけよ」
「おい!俺怪我してんだぞ!」
「知らねぇよ!それよりそろそろゲームが始まってから、三時間が経つ。早くモニターのところ行こうぜ!」
そう言って坂野は雪を背負ったまま歩きだした。大野は仕方なく武器の回収に向かった。
しばらくすると武器の回収を終えた大野が坂野に追いついた。
「しかしよ、よく気づいたな、もう一体潜んでるなんて」
「あ~それか、まぁ、簡単だよ」
「簡単?」
「そう。ゾンビ、あんたを撃った後しばらく撃ってこなかったろ?矢一本で人を殺すのはなかなか難しいからな。何発か撃つ必要がある。でもそんなことしなかった。なぜだか分かるか?自分の任務が完了したからだ。だからこいつは、ただ自分に気をひかせる為に撃ったんだと思った。そう考えれば後は簡単だ。必ず確実に俺達を仕留めようとする奴が出てくると思ったんだ。だから何か行動を起こせば必ずそいつが出てくる。そう思ったから俺はこいつを担ぎ上げ、逃げる準備をしてるように見せかけた。そしたら案の定出てきたじゃねぇか」
「......そいつを俺に叩かせたと.....」
「....そういうことだ....」
「やっぱやるなぁ....お前」
「......毎日が戦いだったからな...あんたみたいな戦場とは違うけど...」
「...あぁ....そっか....お前追われてたんだよなぁ...
背中の奴に....」
二人の間に静寂が流れた。雪は目を閉じたままぐったりと坂野の背中におぶさっていた。
「おい!どうなってんだ!」
大野が叫んだ。
ちょうど三時間がたった。目の前には大きなモニターそして
その場には坂野と大野そしてまだ意識がない雪。そして、たった6人の仲間。坂野と大野、それから雪を抜いて、21人いたはずの仲間がたった6人しかいない。それに6人が6人共
服がドロドロに汚れており、見えている肌には隙間なく傷がつけられている。太田の姿もない。
全員息が荒く、立っているのがやっとでとても目に当てられない様子だった。
「なぁ...教えてくれ...お前ら...何が起きたんだ...」