結束
「.....しかし....驚いたな....」
「....とにかく....この死体なんとかしようぜ」
「.........あぁ.....」
「.........................」
みんなの中に静寂が流れた。今起きたことへの恐怖、これから起きるであろうことへの不安、そして何よりもこのゲームに対する恐ろしさが彼らを包みこんで離さなかった。
ただ一人を除いては........。
「立つんだ成田、こんな所で泣いてても仕方ない。それに
お前らも、何ボサッと突っ立ってんだ。こんな死体ほっとけ
また、いつゾンビが襲ってくるか分からねぇ」
「.............................」
「..............なんだよ......これ」
口を開いたのは、雪だった。雪は坂野に近づいて坂野の肩を
掴んだ。
「なぁ!坂野大樹!一体何が起きてんだよここで!......
私はただお前を捕まえに来ただけなんだ。そしたら何で?
こんな酷いことを目の前で見なきゃいけない?
巨大な地下ドームだって、その中にいた、大勢のスーツを
着た人達だって、さっきモニターに写った金額だって、気持ち悪いゾンビだって......このゲームだって....
全部がおかしいだろ!!!」
雪の目には少し涙が溜まっていた。坂野はそっと雪の手を自分の肩から離すと、坂野がかっ切ったゾンビの首を手に持った。
「この顔を見ろ。お前らもだ」
坂野は首をみんなの方に向けた。ゾンビの顔は、目、口、鼻
どれも原型をとどめてなく、ぐちゃぐちゃで、皮膚は全体的に、剥けてしまっているのか赤みがかっていて、赤い液体が
ぽたぽたと、垂れていた。
その顔を見た誰もが恐怖で声も出なかった。
「お前ら、分かるか?俺たちは、1日中こんな奴等と戦わなきゃいけねぇんだ。.......怖いか?嫌か?ここから逃げたいか?こんなことやりたくないか?........分かるよ....
俺も一緒だ。でも成田も言っただろ?信じるしかないんだ。
今起こったこともこれから起こることも何もかも全部....」
みんなは、下を向いてしまった。雪の目から涙が漏れた。
坂野は持っているゾンビの首を投げ捨てた。
「.....俺は....人を三人殺した....」
坂野がゆっくり続けた。雪は顔を上げて、坂野を睨んだ。
「....そのせいで、そこの涙流しながら俺を睨んでる女の子に、追われていた。そんな時だった。急に俺の前に青木と言う男が現れた。最初そいつが言っていること一言一句が信じられなかったし、馬鹿げていると思った。......でも....俺はここに来た。......なぜだか分かるか?」
坂野は雪の顔を見ながら言った。
「........罪をすべて取り消すと言われたからだ」
雪の表情が驚きに変わった。
「......そんなこと!あり得る訳ないでしょ!」
「分かんねぇぞ!?もうすでにあり得ねぇことが起きてんじゃねぇか!」
「だけど.......」
雪は言葉を詰まらせた。
「お前ら!顔あげろっ!」
坂野の怒号が飛んだ。みんなは、驚いて顔をあげた。
「うつむいてたってしょうがねぇだろ!?俺達はここに来た時点でもう負けたんだ!ここで起きていることは全部地下の奴等に見られてるんだ!もう逃げられねぇ!......だったら
ここにいる俺達全員で力合わせるしかねぇじゃねぇか!?
奴等に負けたまんまでいれる訳ねぇじゃねぇか!......
せっかく見てくれてんだ......見せてやろう、こんなゲーム
馬鹿げているという所を......生きて...このゲームの存在を日本中に知らせてやろう.....日本政府がどれだけふざけているかを、日本中の金持ちがどれだけ人生をなめてるかを
日本中に知らせてやろうじゃねぇか!」
みんなは、坂野の顔を見つめた。少なからずみんなの心の中に坂野大樹という人間の逞しさに心が動いた。
「..........俺は....」
一人の男性が口を開いた。
「....俺は、つい最近まで傭兵をしてた。中東の方でな」
その男は、かなりゴツい体をしていて、頭は丸刈り、顔もかなり大きく、男の中の男という感じだった。
「.......戦場でも結構活躍したんだ.....だけど辞めちまった...背中に3発打たれてな....奇跡的に生きてたんだ..
なんとかこっち帰って来て傷治してよ...やられたまんまじゃ終われねぇからもう一度戻ろうとしたんだ。そんな時だよ
....俺の所に男が来たんだ...あなたの戦場への思いは分かりますって、もっと稼げる戦場がありますよってそいつが言うんだ....それで来てみたらこんなことになった....
こんな気持ち悪い奴等と戦うなんて聞いて無かったんだ。
だから....びっくりしてよ.....でも....俺はやるぜ....
そこの若僧がやるって言ってんのに俺がびびってる訳には
いかねぇだろ」
「........ありがとよ....オッサン...もうびびんなよ」
「おい若僧.....俺は大野隆明って言うんだ....すぐに1位になってやっから覚えとけ」
「そりゃあ頼もしいな」
「お前人を三人殺したって言ってたな」
「.........あぁ.....」
「俺は......100人だ!」
大野の目は、戦場の男の目に変わった。