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王の剣  作者: ポロニア
7/10

第七話 「おおぞらをさんぽ」

 ――7――


 東の空が明るくなり始めたころ、トーアは物音を聞いた気がして目を覚ましました。カーレは、まだ、すやすやと気持ち良さそうに眠っています。

 トーアは、カーレを起こさないように、「誰だ」と、小さい声で言いました。


「トーアよ。起きてくれ」


 声の主は、なんと赤いウロコのトカゲ隊長でした。

 トーアは、ばっ、と、飛び起きて、いつでも戦えるように身がまえました。カーレも、はっ、と目を覚まして、慌てて立ち上がります。

 こぶしを握り締めたトーアを見て、トカゲ隊長は手に持っていた槍を、自分の足元に置きました。


「トーアよ、女王様がお前に会いたいとおっしゃっている。頼む、一緒に来てくれないか」


 そう言って、トカゲ隊長は深々と頭を下げました。


「トーア、わたしは絶対に罠だと思うよ」


 カーレは腰に手を当てて、トカゲ隊長をにらみつけましたが、トカゲ隊長は頭を下げたまま動こうともしません。

 その姿をみたトーアは、「分かった。行こう」と、低い声でトカゲ隊長に言いました。

 それを聞いたトカゲ隊長は頭を上げて、「では、外で待っている」と言って、洞窟の外に出て行きました。


「ちょっと、トーア! 本気なの?」


 カーレは大きな声でトーアに聞きました。いくらなんでも怪しいと、カーレは思いました。


「どのみち女王に会うんだ。断る理由は無い」


 トーアは、そう言って洞窟の外に出ました。外はすでに夜が明けて、太陽が昇り始めたばかりでした。

 洞窟のすぐそばでは、大きな羽をたたんだワイバーンとトカゲ隊長が待っていました。ワイバーンの顔には、やけどの跡があったので、昨日の夕方にカーレが火の玉でやっつけた奴だな、とトーアは思いました。


「さあ、乗ってくれ。女王様の城まで案内しよう」


 トカゲ隊長は、ワイバーンの首につかまりながら言いました。トーアは何も言わないで、ワイバーンの背中に乗りました。


「おい、元黒妖精。お前はどうすんだ?」


 トカゲ隊長が、荷物を持って後からついて来たカーレに向かって聞きました。

 カーレは、「元とか言うな! カーレって呼べ!」と、言ってワイバーンに乗り込み、トーアの背中にしがみつきました。

 トカゲ隊長は、カーレの顔を見てニヤリと笑ってから、ワイバーンの首を二回、叩きました。大きな羽が二回羽ばたくと、トーアたちを乗せてワイバーンが空に飛び立ちました。

 ワイバーンは、大きな羽で風をつかまえてグングンと高い空へ昇っていきます。ワイバーンの羽が、朝の冷たい風を切ってビュウビュウと音をたてました。


「久しぶりに空を飛んだ! なんて良い気持ち!」

 

 カーレは明るくなり始めた東の空を見ながら言いました。


 トカゲ隊長が、「ふはは、元黒妖精よ。お前はこんなに高く飛んだことは無いだろう」と、トーアの背に抱きついて、はしゃぐカーレに向かって言いました。


「うるっさいな! 元って言うな! まぁ、こんなに高く飛んだことはないけどさ」


 カーレはふてくされて言い返しました。トーアは、自分を真ん中にはさんでケンカをするトカゲ隊長とカーレをみて笑いました。

 トカゲ隊長とカーレは、しばらくにらみ合っていましたが、そのうち笑い出しました。

 三人を乗せたワイバーンは、だまって羽を動かし、高く高く飛びました。

 トーアは笑いながら、先ほどまで寝ていた洞穴のあたりを見下ろしました。もう、洞穴なんて見えません。

 人間の町が遠くに小さく見えました。トーアの生まれ育った村は、もっと小さく見えました。

 トーアは不思議に思いました。竜の女王は、どうして人間なんてちっぽけな生き物を嫌うのだろう。


「さあ、もうすぐだ」


 トカゲ隊長が大きな声で言いました。

 もうもうと煙を上げる火の山は、ところどころに真っ赤な溶岩が吹き出しています。ワイバーンの背に乗って飛んできたから良いものの、下から登っていたら大変だったな、とトーアは思いました。

 ついに火の山の頂上、竜の女王の城が見えてきました。

す女王の城は、とても質素な作りでしたが、白くて美しい建物でした。

 ワイバーンは城の上をグルグルと輪をえがいて、バルコニーに着陸しました。


「お前も人間が嫌いなのか」


 ワイバーンの背から降りながら、トーアはトカゲ隊長に聞きました。


「俺は女王様が大好きなんだ。女王様のためなら何だってするさ」


 トカゲ隊長は悲しそうな顔をして、トーアに言いました。


「かわいそうな女王様の話を聞いてくれ。どうか、この通りだ」


 何度も何度も頭を下げるトカゲ隊長の目から、ぽつりと涙が一滴だけこぼれました。バルコニーの床に落ちた涙の一滴を、カーレは不思議な気持ちで眺めました。

 トーアは、「ああ、分かった」と、だけ言いました。

 トカゲ隊長はバルコニーから城の中に続く扉の前に立って、大きな声で言いました。


「女王様! 女王様! トーアを連れてまいりました!」


 大きな扉が音も立てずにゆっくりと開き、扉の向こうからは、「はいりなさい」と、女の人の声が聞こえました。


「さあ、行って女王様の願いを聞いてくれ」


 トカゲ隊長は腕で涙をぬぐいながら言いました。カーレは、「またね」とトカゲ隊長に言いました。

 扉の向こうはとても広くて、大きな絵や彫刻で飾り立てられていましたが、がらんとして何だかさびしい場所でした。

 一段高くなったところに、大きくて立派な椅子がありました。その椅子のとなりには、黄金の剣が、むきだしのまま床に突き刺さっていました。

 何であんなところに剣が刺さっているのだろうと不思議に思って、トーアは一段高くなったところに足をかけました。


「無礼者。わきまえよ」


 女の子の(かん)高い声に、トーアは思わず足を戻しました。声が聞こえたのは椅子の方からです。

 トーアは椅子の正面に立ちました。そこには、青白い顔をした女の子が、大きな椅子に埋まるように座り、するどい目つきでトーアの顔を見下ろしていました。

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