第四話 「伝説の勇者のような勇者」
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ドラゴンに壊された噴水の広場に人々が集まり、トーアを囲んでドラゴン退治のお祝いが始まりました。町の人たちは、壊れた建物の木材で作った焚き火を囲い、お酒を飲み、美味しいご馳走を食べて上機嫌です。
「トーアさん、あなたの勇敢な行動で、私どもの町が救われました」
町長が、トーアに感謝の気持ちを伝えました。町の人たちも、ドラゴンをやっつけたトーアを褒め称えました。
でも、トーアは、あんまり人から褒められたことが無いので、なんと答えて良いのか分からなくて、「はぁ、どうも」と、ヒゲをモゴモゴと動かすだけでした。
「そうだおー、トーアは強いんだおー」
カーレは、大好きなトーアが、たくさんの人に認められたのが嬉しくて、ふらりふらりと飛び回りました。まだ、酔っ払っているみたいです。
「しかし、何とも熊のように、むさくるしい男じゃないか」
「そうだそうだ! 床屋よ! 出番だぞ!」
町一番の腕利きの床屋が、トーアのモジャモジャの髪の毛を、ジョキジョキとハサミで切り落としました。モジャモジャのヒゲも、ゾリゾリとカミソリで剃り落としてしまいました。
するとどうでしょう! のっそりと立って歩く熊のようだったトーアが、見違えるほどに立派な青年になりました。たくましくて背が高く、きりりとした顔立ちのトーアに、町の娘たちは見とれています。
「なんて凛々しい青年なんだろう」
「まるで伝説の勇者のような若者じゃないか」
「そうだ! ドラゴン退治の勇者トーアだ!」
広場に集まった人々がトーアの名前を何度も呼び、何度も何度も拍手をして、トーアの勇気を称える歌を歌いました。
皆が酔っ払ってすっかり眠り込んでしまってから、トーアはカーレに聞きました。
「なあ、首から上がなんとも寒いのだが、これはこれで良いのだろうか」
なんともすっきりした頭を、ガシガシとかき回すトーアに、カーレは笑いながら答えました。
「それはそれで良いんじゃない? わたしは驚いちゃったけど、とってもカッコイイと思うよ」
カーレに、「とってもカッコイイ」と言われて、トーアは嬉しくなりました。町の人たちから褒められるよりも、ずっとずっと嬉しくなりました。
でも、カーレは、モジャモジャのトーアも良かったなぁ、と思いながら、トーアの短くなった髪の毛の上で横になりました。
朝になると、町長と町の人たちがトーアとカーレの前に集まりました。
そして、町長が、「勇者さま。どうかこれをお持ち下さい」と、町の宝物の銀の長剣と銀の鎧を、芝居かかった仕草でトーアに差し出しました。
トーアは、「はぁ、どうも」と、剣と鎧を受け取ろうとした途端に、町の娘たちがトーアの着ている服を脱がせにかかりました。
「ちょっと! トーアに何するのー!」
怒ったカーレが、娘たちの頭の上を飛び回りました。
しばらくして、娘たちがトーアから離れると、そこには銀の鎧に身を包み、銀の長剣をたずさえたトーアが立っていました。それこそ伝説の勇者のようなトーアの姿を、カーレはぼんやりと眺めました。
「トーアさん、いや、勇者さま。どうか、竜の女王を倒して平和を取り戻して下さい!」
興奮して早口でしゃべる町長に、トーアは、「竜の女王を倒しに行くのではなく、話を聞きに行くつもりです」と、どうにも上手く説明できなくて、いつものように、「はぁ、どうも」と、答えました。
それを聞いた大勢の人たちが、「勇者トーア! ドラゴン退治の英雄トーア!」と、何度も大きな声を上げて拍手をしました。
これにはカーレもビックリして、目をパチパチしてしまいました。トーアはきょろきょろしながら、「はぁ、どうも」と、何度も頭を下げました。
「ばんざーい! 勇者さま、ばんざーい!」
町を救った勇者とお供の妖精の姿が見えなくなるまで、町の人々は、「トーア! トーア!」と、声を上げ続けました。
町から遠く離れ、町の人たちの声も聞こえなくなってから、「なんだか、すごいことになっちゃったね」と、カーレが言いました。
トーアは、「はぁ、どうも」と、言いました。どうやら口ぐせになってしまったようです。二人は顔を見合わせて大笑いしました。
「ねえ、トーア。相談があるんだ」
カーレは、ずいぶんと、すっきりしたトーアの頭の上に乗りながら言いました。
トーアは、ずいぶんと、すっきりした顔をゴシゴシこすりながら、「なんだ?」と、低い声で言いました。
声だけは変わっていないなあ、と、カーレは安心しました。そして、「この先の森に、私の生まれた泉があるの。そこにはね、妖精の女王さまが住んでいるの」と、言いました。
「カーレ、俺が会いに行くのは妖精の女王じゃなくて、竜の女王だぞ」
と、トーアが不思議そうな顔をして言いました。
「ねえ、トーア。人の話は最後まで聞かないとダメだよ。大切なことは、最後に言うんだから」
と、カーレは空を飛びながら、腰に手をあてて言いました。
「妖精の女王さまはね、不思議な魔法を使えるんだ。わたし、女王さまに力を貸してもらおうと思っているの」
トーアは、少し考えてから、「俺がカーレを守るから大丈夫だ」と、言いました。
「あのね、トーア。わたしはね、トーアの役に立ちたいの」
真剣な顔をしたカーレを見て、トーアは、「はぁ、どうも」と、言いました。




