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王の剣  作者: ポロニア
2/10

第二話 「きみさえいれば」

 ――2――


 その頃、村では「竜の女王」の手下たちが大暴れをしていました。

 竜の女王は、人間が大嫌いです。女王の手下たちは、女王のごきげんを取るために、ときおり人間に嫌がらせをしていました。


「助けてくれー!」

「火が! 火が!」

「家が燃やされるー!」


 村人たちは口々に叫び、逃げ回ります。

 立って歩く大きなトカゲのような姿をした女王の手下たちは、手にした槍で逃げる村人たちを追い立てます。


「ひゃあっはっはー! 燃えろー!」

「燃やせ! 村に、家に火を点けろ!」


 村じゅうの家に火を放っていたトカゲ人間を、駆け付けたトーアが問答無用で投げ飛ばしました。


「な、なんだ、お前は! 俺た――」

「人間め! 俺たちを誰だと思っ――」


 トーアはトカゲ人間を一人、また一人、つかんでは投げ、投げてはつかんで、たちまちトカゲ人間たちをやっつけました。

 あらかたトカゲ人間たちを退治したトーアの前に、ひときわ背の高い、赤いウロコのトカゲ人間が立ちふさがりました。トカゲ人間の隊長です。


「貴様、人間にしては、なかなかやるじゃな――」


 トーアは、自分よりも体の大きなトカゲ隊長の顔を、左手でわしづかみにしました。


「いたっ、いたい! お前、人の話を最後ま――」


 トーアは、トカゲ隊長の顔を左手でつかんだまま、右こぶしを握りしめて言いました。


「悪者のいうことを、最後まで聞く気はない」


 トカゲ隊長はトーアに顔をつかまれたまま、「いてぇ、いてぇ! なんて馬鹿力だ」と暴れました。

 誰にでも優しいトーアですが、悪者にまで優しくするつもりはありません。

 ぶぅん! と、唸りをあげたトーアの握りこぶしが、トカゲ隊長を殴り飛ばしました。

 それを見た女王の手下たちは、悲鳴を上げて散り散りに逃げ出しました。

 

「あ! こら、俺を置いて行くな!」


 トカゲ隊長は、ヨロヨロ立ち上がると、うらめしい声で言いました。


「くそぅ! 貴様、覚えてお――」


 トーアが追いかけようとすると、トカゲ隊長は最後まで言い終えないうちに、一目散に逃げて行きました。

 やっと追いついたカーレが、「怪我は無い?」と、掃除が終わったときのように、パンパンと手を(はた)くトーアに心配そうに聞きました。


 家や物陰に隠れていた村人たちが戻ってきて、トーアとカーレを取り囲みました。

 カーレは、村人たちに感謝されると思って得意げです。ところが、


「トーア、余計なことをしてくれたな」

「女王の手下が仕返しにくるぞ。どうしてくれる」

「大人しくしていれば良かったんだ」

 

 村人たちは助けにきたトーアに感謝するどころか、なじり、ののしりました。

 カーレは、あんまりにも悔しくて悲しくて、ボロボロと涙をこぼしましたが、トーアは何も言わずに背を向けました。


「くやしいよ。かなしいよ。トーアが可哀そうだよ」


 家に帰る途中、トーアのぼさぼさ頭の上で、カーレはシクシク泣きました。


「良いんだ。俺は間違ったことをしたとは思っていない」

「でも、トーアが助けに行かなかったら、もっと酷いことになっていたよ」

「頼まれてやったことじゃない」


 二人は何も言わずに、トーアの家に向かって、とぼとぼと歩きました。そして、家のドアを開けようとした時にトーアが言いました。


「俺は、村を出ようと思う」

「えぇ? なんでトーアが村を出なくちゃいけないの!」

「竜の女王に会ってみようと思う」

「どうして? 女王は人間が大嫌いなんだよ」

「だからさ。女王に会って聞いてみたいんだ」


 トーアは家に入ると、さっそく旅支度を始めました。


「ねえ、トーア。わたしも一緒に行って良い?」


 だまって荷造りをするトーアに向かって、カーレが恐る恐る聞きました。


「好きにすればいい」


 トーアは、ナイフとランプを鞄に詰め込みながら、ぶっきらぼうに答えました。本当は嬉しかったのですが、照れ臭くて、わざと怖い声で言ったのです。

 旅のしたくを終えたトーアとカーレは、家を出て、村を後にしました。


「ねえ、トーア。竜の女王のいる場所は知っているの?」


 カーレの質問に、トーアは、もくもくと煙をはく火の山を指差しました。


「あそこに女王の城があるらしい」


 黒い煙が怖ろしげなドラゴンに見えて、カーレは、ちょっと怖いな、と思いましたが、歌を歌って元気を出すことにしました。

 

 怖くなんてないよ。

 きみが一緒だから。


 どこにだって行ける。

 きみが一緒だもの。


「それは妖精の歌か?」


 黒いアゲハ蝶みたいに、ひらひらと飛びながら歌うカーレに、トーアが聞きました。


「ううん。わたしが考えたの。続きも聞きたい?」

「あぁ、頼むよ」

「パンが無いならぁーお菓子を食べればいぃー」

「台無しだな」


 ヒゲもじゃトーアの顔が、もじゃもじゃ動きました。

 カーレには、トーアが笑ったのが分かりました。カーレは、とっても嬉しくなりました。

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