記憶と家族
「華憐??」
「…………。」
「仁!!やめろ…。」
事情を知ってた理事長は、静かに首を振った。
それを察したのか、男性は驚きを隠せてなかった。
「……華…憐?」
「……すみません…。」
「いや…。本当な…のか?」
「はい。」
「そ…うか…。」
その男性は悲しそうに微笑んだ。
「…わたしには幼いときの記憶がありません…。」
そう…わたしには、幼いときの記憶がない。
両親はどんな人だったのか…住んでいた場所はどんな場所だったのか…
あるはずの幼いときの記憶がまったく……あるのは闇だけ…。
「そ…うなんだ…。」
「…はい。」
その男性は呆然としていた。
「まだ、戻らないか…。」
「…全然…なにも…。」
「焦ることはない。ゆっくりと思い出せばいいさ。」
「はい。」
わたしは理事長の優しさに自然と笑顔になった。
「…あのぉ…。」
チラッと男性の方を見てみると、黒いオーラが見えるぐらい落ち込んでいた。
「いい加減に、自己紹介ぐらいしろ。」
理事長は、呆れながら言った。
「…分かりました。改めて、高倉 仁です。」
「桜龍 華憐です。お願いします。」
高倉 仁さんか……ってか…ついさっき聞いたような…名前だが……
「ってか、俺が呼ばれたってことは、華憐は1ーAってことすか?理事長。」
「あぁ、そうだ。華憐、1ーAで担任は仁。分からないことがあったら、仁に聞けよ。」
「分かりました。」
「じゃあ、行こうか。」
先生はそう言うと、先に理事長室から出た。
「失礼します。」
「華憐。」
出ようとしたら、理事長に呼び止められた。
「なんですか?」
「その敬語やめてくれないか?一応、家族だろ?」
「わたしに家族って文字はありません。それに本当の家族ではありません。」
わたしは理事長の顔を見ながらキッパリと言った。
「……華憐…お前はまだ…私たちのことを家族と思ってないのか?」
「えぇ。引き取ってくださったことには感謝をします。親族であっても部外者です。それに…」
「それに…?」
「…いえ、なんでもありません。わたしは理事長のご家族にご迷惑はおかけしません。」
「……………。」
「それでは失礼します。」
「あぁ…。」
そう言い、理事長室を後にした。
そしたら、ドアのすぐそばに先生が立っていた。
「あ!すみません…。待たしてしまって…。」
「大丈夫。よし行くか。」
「はい。」
先生はニコッと微笑んで歩き始めたから、その後ろをついて行くことにした。
「あのさ……。さっきのことだけど…。」
「えっ…あ…記憶のことですか?」
急に話しかけられ、戸惑いながらもさっきの会話を思い出しながら、答えた。
「あぁ…本当か?」
「はい…。」
「そっか…。」
「……物心が付いた時には…すでに記憶はありませんでした…。どこに住んでいたのか。両親はどんな人なのか…。すべてが知りたい…。」
「ゆっくり思い出せばいいさ。オレに出来ることがあれば協力するからな!」
「ありがとうございます。」
先生が言ったことは単純だっだか、不思議と心が温かくなっていった。
それからすぐに教室に着いた。
「ここが1ーA。合図したら入ってくれ。」
「分かりました。」
そう言うと、先生は騒がしい教室の中に入っていった。
「センセェー!転校生が来るって本当ですかぁー?」
「マジか!パシりにしようぜ!!」
…かなり聞こえてんだけど…。ってか、誰がパシりなんかやるかバーカ。
ガンッ!!
「うっせぇぞ、てめぇら…。」
――――――シーン
さっきまで騒がしかった教室は静かになった。
「…………ワォ」
すげぇな…殺気バリバリだし…不良オーラ全開じゃん…ククッ
楽しそうなクラスだな……
わたしは、そんな先生の様子を見て、クスクスと笑ってしまった。
そしたら
――――――ゾクッ
「!!!!」
急に寒気がした。
まるで誰かに見られているような。
しかし、辺りを見渡しても誰もいなかった。
……人の気配はしない
だけど…とても胸騒ぎがする。
「なにもなければいいが…。」
あ、こっちを見てる…入れってことか。
―――――ガラッ
ドアを開けた瞬間、痛いくらいの視線が突き刺さった。
「…………。」
「華憐…自己紹介して…。」
先生の隣まで行くと、先生がわたしに聞こえるぐらいの小声で言った。
「あ、はい。」
とりあえず、名前言えばいいよね……。
「えっと……桜龍華憐です。よろしく。」
名前を名乗ったら、クラスのみんなが静かになった。
な、なんで静かになるの!?
わたし、なんか変なこと言った!?
わたしは内心で戸惑っていたら、
「女!?むちゃくちゃカワイイな!!」
「うそぉー!!超カワイイ!!」
ワッと一気に騒がしくなった。
…うるせぇ…心配したことが馬鹿らしい…。
ハァとため息をついた。
「お前ら、うるせぇぞ!!桜龍が困ってるだろうが!!」
そんなわたしを見てか、先生が助けてくれた。
「たく……。」
先生は呆れたようにため息をついた。
「先生、席は?」
「窓側の一番後ろ。」
「はーい。」
一番後ろか……。目立たないからラッキーだな♪
そんな事を思いながら、席にと向かった。
自分の席につき、カバンを置いて一段落ついた。
そして改めて辺りを見てみた。
…男子の方が多いな…頭はカラフルだし……。
こんなとこでやってけるかな…
わたしはふぅとため息をついた。
「桜龍、分からんことがあったら、隣の焔に聞け。」
「あ、はい…。」
………焔?どこかで聞いたような…。
「焔、教えてやれよ。」
「はいはい。分かってる。」
「テメェ…」
先生とのやり取りを見ながら隣をチラッと見てみた。
「…ゲッ…!」
そこにはさっき聞いた、生徒会書記の高倉焔が居た。
「お、よろしくな!!」
視線に気づいたか、人懐っこい笑みを浮かべていた。
「はぃ…よろしく…。」
わたしは偽の笑顔を作り、適当に挨拶を言った。
「ってか、久しぶりが正しいよな!」
そしたら突然、意味が分からないことを言い始めた。
「…はぁ??」
「覚えてねぇの?昔、お前の隣に住んでいたけど。」
「………へぇ…」
「へぇって、覚えてねぇのか!?」
「そこうるせぇ!!ナンパは後でしろ!!」
先生がそう言うと、静かだったクラスが騒がしくなった。
「ナンパなんかしてねぇ!!」
「あぁーうっせぇな。」
はぁっと先生はため息をついた。
「…………。」
わたしはそのやりとりを、横目で見ながら外を眺めた。
……わたしは…バケモノ………人と関わってはいけない…。
昔、決めたことを思い出しながら頭の中で呟いた。
「…わたしはバケモノ……。」
ポツリと言った言葉は空に吸い込まれていった…。
その時の様子を心配そうに見られてることに気づかずに…。
それから、あっという間にお昼休みになった。
「つ、疲れた……。」
休み時間になるたび、クラスメイトに、「どこに住んでたの?」「どうしてこの学校に来たの?」 と、質問責めにあった。
そのたびに、相ずちをするのに疲れ、ぐったりと机にうつぶせた。
ふぅ……ご飯食べないとな…
けど……。
顔を上げてみると、みんながお弁当を広げ嬉しそうに食べている。
「…………。」
居づらい……確かここ屋上あるよな…。
ガタッ
ここに居るのが辛く、屋上に行こうと立ち上がり教室を出た。
なんで…わたしには幼いときの記憶がないの……。
「はぁ……止めよ…」
わたしはこれ以上よけいなことを考えるのを止めた。
ガチャッ
ドアを開けた瞬間、目の前にきれいな青空が広がった。
「うぅーん…やっぱり気持ち…。」
フェンスの近くに座り、空を眺めていたら、だんだんと眠気がでてきた。
…眠い…この頃寝てないから……けど…寝ちゃうと………
わたしは太陽の暖かさに負け、そのまま寝てしまった。
それからどのくらい時間が経ったんだろう。
「……ん…」
目を覚まし、時間を見てみた。
「……ヤバ…。」
時刻は14時30分。
完璧授業は始まっていた。
「やっちまった……。」
初日は真面目にやろうと思ったのに……。
けど、今さら行ってもな…。
わたしは少し考え事をした。
「決めた。」
考えたすえ、授業が終わるまで戻らないことにした。