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待つ者
その夜は酷い空襲だった。町中にサイレンが鳴り響き、頭は割れんばかりに痛んだ。
「こっちよ!走って!」
石に躓いた子供に目を留めて、引き摺る様に抱き起こすとそのまま手を引いて走る。他人のことなど、本当は気遣う余裕などない。微かに胸を掠めた良心、と言うよりは、只、無意識にそうしたというだけだった。
近くの防空壕は気色悪い程の人溜まりで、それでも追い返される前に何とか体を捻込んだ。
絶望感、喪失感、虚無感──そんなものが渦巻いて見える様なそこで、只、必死に堪える。そう、堪えるのだ。
何に堪えているのだろうか。何故、堪えねばならないのだろうか。人でさえない兵器にいつか身を潰され、または、一瞬にして意識を飛ばされ。そうして、得体の知れない何かに怯えて。私の生は、ある日突然、終わってしまうのだろうか。
「……大丈夫、だ、よ」
途切れ途切れに呟かれた声に、思わず振り向いた。
繋いだままの小さな手は小刻みに震え、それでいて、私の手を力強く握って。その目は、前だけを見ていた。
この子も、誰かを待っているのだろうか。ふと、そんなことを思って、遠く赴いて行った人に、思いを馳せる。
爆音がして、視線を投げれば、闇に赤く燃える空が、陽炎の様に見えた気がした。




