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エンジェル・ペイント  作者: 沙夜菜
■Go together now
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第7章

「なんだ、どこも散らかって・・・・・・ないんじゃ、ない?」

 部屋に入るなりそう言った美湖は、目が机に止まった瞬間、言葉につまった。

「で、えーっと。昨日・・・・・・今日か、父さんに見せたから結構出しやすい・・・・・・」

とつぶやきつつ、当時のスケッチブックを引っ張り出す。ついでなので、今までの絵を─────ただの画用紙や、落書き含め全部─────床にぶちまけた。

「すごい、いっぱい・・・・・・」

目を────もはや「らんらん」と輝かせながら、一番古い日付のものから見ていく。

「これ、小5の時の?」

その問いにうなずくと、「今の私より上手いな」とつぶやいた。

「嘘、美湖っていかにも『絵がうまい』って顔してるじゃん」

と俺が言うと、フッと笑って何それ、と言う。

 喋ってる間にも美湖は絵を見る手を止めずに、やがて小6のときの、父さんの絵に目を留めた。

「これ、お父さん?」

「うん、そう」

ふーんとうなずいて、「朝、何時くらいに仕事行ってるの?」と聞いてくる。いきなり何をと思いつつ、「8時くらいだと思う。たまに一緒になるし」と答えると、いたずらっぽく笑って「比べちゃお」と言った。

───────どこまで探ったら気が済むんだコイツは!

 昨日の無口でおとなしい美湖が既に懐かしいものとなっている。

「そこまで来ると犯罪行為になるぞ」

と言ってみると、「大丈夫、捕まった時は全部を光のせいに・・・・・・」となんとも涼しい顔で言った。なんという、ここまで目鼻立ち整った女の子がそんなこと言ったら、警察など何も疑わずに俺を悪者扱いするではないか。

「そんな不安そうな顔しないでよ」

 美湖の声が少しだけ細くなる。あ、昨日のが帰ってきた。

「え、別にそんな顔してたっけ」

「してたよ」

 そこまで言って、またうつむいてスケッチブックをめくりだす。

「人、少ないね」

と言われるので、「風景の方が好きだから」と答えた。

 そのあとも度々こちらを振り返りながら、絵を見て、古いスケッチブックがどんどん美湖の隣につみあがって行く。

 そのまま、何分過ぎたかは分からない。昨日父さんが見てた時のように緊張した。

「・・・・・・これ、天使?」

ふいに美湖が口を開いた。

 昨日の夜、描いたものだ。─────もうそこまで見たのか。

「そう、天使」

「どっかで見たことある顔・・・・・・」

 美湖のつぶやきが聞こえて、俺は身を硬くした。気付かなくていい、本当、気付かないで。

「鏡、ある?」

いやだから気付かないでって。 そう思いつつも、貸さない言いわけも見つからずそこらに落ちてた手鏡を差し出した。

「うーん・・・・・・似てるような似てないような。これ、誰モデル?」

「特に誰でもないけど」

「いつ描いたの?」

「そんなに探らなくても」

「いつって」

 妙な迫力だけはあるんだな、こいつ。

「・・・・・・昨日の、夜」

「窓で手振った時?」

「・・・・・・うん、そのあとすぐから」

絶対、ばれた。いや、でもばれたって言ってもそれを意識したわけではない。

「気のせい、かな」

ふいに、そう言う。俺は、安堵の息をついた。いつしか手汗がじっとりとついている。

「何が?」

念のため聞いてみると、美湖は恥ずかしそうに笑って言った。

「いや、どことなく私っぽいなって思ったんだけど。自意識過剰だよね、ごめんね」

 謝らなくていい、事実、俺だってそう思ったんだから。

 いっそそう言ってしまおうかと思ったが、なんとなく、やめておいた。

「どうする、これで一通り絵は終わったんだけど。・・・・・・美湖も美湖で、疲れただろ」

おそらく2000枚くらいあるだろう絵を一つ一つ見ていったのでは、コンクールの審査員気分を味わったのかと思われる。

「別に、楽しかったし疲れたってこともない」

─────すげぇ。

率直に、そう感じた。

 その時、突然携帯が鳴って美湖がビクッと肩を震わせた。その様子に笑いながら携帯を広げてみると、母さんからのメールで「遅くなる」とあった。母さんもか。と息をついて、メールの続きを読んでみると晩ご飯は自分で作れ、と。

「なんだったの?」

 美湖が聞いてきた。

「母さんが、遅くなるから飯自分で作れってさ」

そう言って携帯をベッドの上に投げ出すと、「作れるの?」とまたも質問を重ねてくる。

「冷凍を適当に」

 美湖は、ちょっと待っててと言い残して家を飛び出して行った。

「これ、どうするんだよ」

残された俺は床に散乱した絵を見てつぶやく。

「まぁ、美湖も片付け場所なんか知らないしな」

続けて独り言。そのまま裏に書いてある日付を見ながら、順番に重ねていった。

 何分経ったかは分からないが、また美湖がピンポンも飛ばして部屋に走って戻ってきて、言う。

「晩ご飯、私ん家来る?」

「─────へ?」

間抜けな声が出て、美湖が困った表情をする。

「迷惑かな?」

「いや、全然そんなこともないんだけどさ、こっちこそ迷惑じゃない?」

 だって。美湖とはこの2日で結構仲良くなったと思うが、お母さんとは大した関わりもないし、今日の────晩ご飯の準備の時間に────夕方、いきなり言われても材料的な問題でやっぱり・・・・・・迷惑だろう。

「ううん、全然。お母さんぜひって言ってたから」

「・・・・・・じゃあ、お邪魔しようかな」

 思えば、1人で冷凍食品をもそもそ食べると言うのも悲しい話だろう。それに、なんといっても、冷凍食品というのはお弁当のおかずの1品に入れるものではなかったのか。

「うん、じゃあ家で待ってるから」

 そう言ってまた部屋を飛び出していき───突然、顔を出した。

「あ、絵・・・・・・ごめんね、片付けるの忘れてて」

俺が言い返す間もなく、また階段を駆け下りていった。

 俺も着替えようとタンスを開けて、しばらく悩んだ後、結局手前の方にあったのを着て美湖の家に緊張しながら向かった。


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