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エンジェル・ペイント  作者: 沙夜菜
■Go together now
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第6章

今日の朝も、俺は美湖の家のインターホンを押した。

「今日は・・・・・・えっと、美術室行くんだっけ」

俺が言うと、美湖が嬉しそうにうなずく。

「・・・・・・そんなに見たいの?」

と聞くと、またもうなずいて言った。

「光っていつから絵描いてるの」

 ───────まさか、その当時のから見たいとか言いださないだろうな。

そんな不安に駆られながらも、「真面目に描いてたのは多分、小5くらいだと思うけど」と答える。

─────と。

「見せてよ」

「・・・・・・」

一瞬の沈黙。

「多分、期待裏切るからやめた方が美湖のためだと思うんだけど」

と言うと、「じゃあ、期待してないって言っとく」と返ってきた。ちょっと待て、「言っとく」ということは内心では期待してるということではないか。

────やめろ。

「いや、本当に」

俺があわてたのを見透かしたように、美湖がいたずらっぽく笑った。

「今日、家いい?」

 なんでこうなる。

「散らかってるから、また今度な」

具体的な日にちを言わずにはぐらかそうとすると、「今度っていつ?」と突いてくる。

「今度は今度」

「いつになったら片付くの?」

「無期限」

「ていうか、そんなに散らかってるの?」

 一晩で妙に強くなりやがって、コイツ。

 心の中で毒ずきながら、今日母さんに家にいたっけとか考えてみる。いや、今日は父母共仕事だったはずだ。おまけに、父さんは遅くなると言っていた。

「・・・・・・絵、見るだけだからな」

ボソッと呟くように答えると、今まで見て一番嬉しそうな顔で大きくうなずいた。

 美湖の交渉の間に、あの犬のところは通り過ぎていた。

そして瞬と合流して、また「美術室で......」という話題がぶり返される。

 

 「楽しみじゃない」ことがあると、時計の針は異様なほど速く動くものだ。

気付けばもう放課後だった。今日は瞬のクラスの方が終わるのが早かったらしく、3組に顔を出してくる。

「美術室、どこ?」

美湖が聞いた。

「こっちー」

瞬が言って歩き出すが、「鍵、いらねぇの?」という俺の言葉に立ち止まった。

「先生、どこだろ」

と瞬が首をかしげる。

「先生に言ったらダメって言われないかな」

美湖が恐る恐る口を開いた。

「うーん・・・・・・他の先生ならダメだろうけど、多分アレなら大丈夫」

俺は自分で言ってうなずいた。うん、物分かりいいし。・・・・・・改めて考えると、かなりなめてるな、俺。 ・・・・・・いや、これはなめられる態度をとる先生が悪い。俺は、悪くない、はず。

 1人で納得して、1人でうなずく俺を美湖が面白そうな顔で見ていた。なんだか、やたらといらないところを見られている気がするのは気のせいか。

「てことでさ、鍵借りに行こう」

気を取り直すようにそう言い、美湖を引っ張るかのようにして職員室に行く。

 案の定、先生は「ちゃんと返せよ」と言っただけであっさり貸してくれた。

 美術室に近づくごとに、美湖の目が見て分かるくらいに輝いていく。そんなに楽しみか、そんなに期待するもんでもないぞ、とそっと俺はため息をついた。

「すごい・・・・・・」

 美術室に足を入れるなり、美湖がつぶやく。何がと思うが、美湖(いわ)く「雰囲気が」らしい。

「これが、俺のな。で、こっちが光の」

 そう言ってる間にも瞬が棚から袋を出し、美湖に渡す。早速美湖は1枚1枚見始めるわけだが、自分の絵を自分の前で見られるのは苦手─────ハッキリ言うと、反応が「恐ろしい」─────なので、さりげなく離れて他の奴の作品を見てみたりする。もう仕組みも考えも聞いた作品を見て、「どうなってんだコレ、すげぇ」とかつぶやいたりして。

「やっぱり、2人ともすごいよ。上手いって」

 ふいに、美湖が顔を上げた。そして周りを見回し、もう一度いう。

「でも、ほかの人のもすごいよね。うん、美術部はすごいんだ」

美湖の出した結論に、思わず瞬を顔を見合わせて苦笑する。

 そんなこともないぞ、と横目でめったに顔を出さない1年の、部屋の隅に押しこまれるように置いてある作品を捉えて思う。

 そのあとも、先輩の作品とかを見て下校時間まで過ごしたあと、鍵を返しに行って家路についた。

瞬と別れ、しばらく黙って歩いていた時、ふいに美湖が口を開く。

「家、本当にいいの?」

 美術室であれだけ興奮していたので、もしかしたら忘れたかな、忘れてたらいいな、と密かに期待してみたのだが、甘かった。でも、一度いいと言ったのにここで断るわけにもいかず、うなずく。

 美湖の目は、家に近づくごとに見て分かるくらいに光を増していった。

─────さっき以上に。

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