表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エンジェル・ペイント  作者: 沙夜菜
■Go together now
3/25

第2章

ピンポーン

 月曜の朝、俺はしぶしぶ水野家のインターホンを押した。

 すっぽかすという手も、もちろんあった。しかし、俺がインターホンを押すまで窓からの母さんの痛すぎる視線があったのだから、押さないわけにはいかない。そして、押したからには一緒に行かないわけにはいかない。

「はい」

 玄関から、水野さんが顔を出した。

「あ、いや、その、娘さんを迎えに────親が、行けって言うものですから。・・・・・・もし迷惑じゃなければだけど」

「迎えに来た」と伝えて、あわてて「親が」と付け加える。自主的に来たわけではない、ということを伝えるためだ。

「あ、ちょっと待ってて、呼んでくるから」

水野さんが一度奥に引っ込む。────と、中から水野さん・・・・・・お母さんそっくりの綺麗な顔立ちの女の子が出てきた。

「水野、美湖みこです」

か細い声でそう言って、小さく頭を下げる。

────極度の人見知り。

「あ、足立あだち光陽こうようです」

 俺も頭を下げて、唾を飲み込んだ。

「い、行こっか」

そう言って水野さん・・・・・・お母さんの方を見ると、微笑んで言う。

「ありがとう、よろしくお願いします」

 もう一度、俺は軽く頭を下げて美湖・・・・・・という名の少女にうなずいた。

その人も小さくうなずいて、お母さんに「行ってきます」と言う。それを確認して、俺は学校の方へと歩き出した。

 ずっと、美湖、さんはうつむいている。

「人見知り?」

と聞いてみると、顔を赤くしてうなずいた。

 道中、工藤さん家の「凶暴な犬」に吠えたてられて美湖さんは小さく声をあげた。

「そいつ、1週間ぐらいは吠えるけど、噛みはしないから」

と言うと、「1週間っ?」とまたしても声を上げる。

 しばらく歩いて、俺はあることを思い出して美湖さんを振りむいた。

「そこ、こけないように気をつけ・・・・・・」

言い終わる前に手が出た。今まさにこけかけていた美湖さんの腕を掴む。

「気をつけて」

改めて言った俺に、美湖さんは小さくうなずく。

「あり・・・・・・がとう」

「そこ、なぜかは分かんないけど、今までに何回もこけた人いるんだ」

 美湖さんが、俺の言葉に初めて笑った。

俺もつられて笑う。

「あ、そうだ、えっと。・・・・・・足立君て、何組?」

相変わらずの小さい声で美湖さんが聞いてきた。

「俺は3組。あと、光陽って呼んでくれていい・・・・・・っていうか、呼んでくれた方がいい。呼びにくかったら光でもいいけど」

俺の言葉に、美湖さんが「よかった」と笑う。

「私も、3組って言われて。でも、光・・・・・・がいるなら、ちょっと安心かも。なら、私のことも美湖って呼んで」

 はじめて、美湖がこちらと目を合わせた。やっと目を合わせてくれて、だんだん口数が増えている気がして、俺はなぜか嬉しくなった。 人の笑っている顔を見て嬉しくなるなんて、14年生きてきて初めてのことである。

「光────!」

後ろから大声で呼ばれて、美湖がそっと窺うように後ろを見る。俺は振り向かなくても誰だかは分かったので、無視して歩き続けた。

「無視するなよ」

 俺の背中に軽くげんこつを入れて、そいつが言う。

「ほら、やっぱしゅんだろ。振り向かなくたって分かるのに、いちいち振り向けって言われても。しかも、毎朝毎朝そんな大声で呼ぶなって、何回言えば分かる」

俺が言い終わる前に、瞬は美湖を見、俺を見、囁いた。

「彼女?」

 その言葉に、思わずこけそうになって瞬を睨む。

「俺的に、結構長い付き合いだと思うんだけどさ、それでもまだ俺にそんなものが出来るって、お前本気で思うのか?」

「思わない」

────自分からねておいて、即答されたらそれはそれで何かムカつく。・・・・・・なんとも身勝手な。

 ふいに、美湖のクスっと笑う声がして瞬と俺は同時に振り向いた。

それに気付いて、美湖が「仲いいんだね」と言ってくる。

「うん、まぁ────幼なじみだから」

と、瞬が返した。

「小1って、幼なじみなのか?」

「分かんね」

「知らないのに言ったのかよ」

 さっきからずっと、俺たちのやり取りをどこか面白そうに美湖が聞いている。

「あ・・・・・・名前、言ってなかったか。俺は瞬。苗字は、永井ながいね。瞬って呼んでもらっていいから」

「あ、そっか。私は水野 美湖。私のことも、美湖って呼んで」

 その言葉に、瞬かちらっとこっちを見て、苦笑して首を横に振る。なんだか、意味ありげで気に入らない。

「ほら、早く行くぞ」

 と、俺はそっけなく行って再び歩き出した。瞬が駆けてきてから、ずっと止まっていたのだ。

おかげで、今日は学校に着いたのが少し遅い。

 学校付近に来ると、同じ制服の奴らが一度は振り替える。

 見たことがない人、つまり美湖がいるのと、美湖の顔立ちが綺麗すぎるからだろう。

 美湖を職員室の前に連れて行って、「先に教室行ってるから」と瞬と2人で歩き始める。

「うん、ありがとう」

と、背後から声がかかった。今日で2回目の「ありがとう」だ。でも、今回はつっかえていない。

 何か返す代わりに小さくうなずいて、俺は瞬と階段を駆け上がった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ