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エンジェル・ペイント  作者: 沙夜菜
■Go together sometime
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第19章

『・・・・・・光ってば』

 うっすら目を開けると、少しばかりむくれた顔の少女が覗きこんでいた。

『去年来たんだから、すぐ気付いてもいいものを』

と、こっちが話す前に文句をつけてくる美湖に苦笑して、「ごめんって」と謝る言葉─────「言葉」なわけで特に謝罪の気持ちもなく─────を言うと、『まぁいいけどさ』と言う。

『絵は?出来てる?』

 結局は挨拶も抜きに聞いてきた美湖に、そこは気にするところじゃないと自分に言い聞かせつつ答える。

「うん、結構増えてるよ。だって去年、美湖がかなり悲しそうな顔してたから」

『見せて』

俺がまだ言い終わらないうちから美湖の返事。そう来るとは分かっていたので、予め机に出しておいたスケッチブックに手を伸ばす。

『わぁ、これどこ?』

 1枚1枚に美湖は歓声を上げて、そのたびに俺はそこでの思い出話を聞かせる形になっていた。自分が行っていない、というか行けなかった事をそんな楽しげに話していいものかと迷ったが、美湖が気にするな、むしろその方がいいというので、「楽しげに」とはいかずとも、普通に話すことにする。

「これ、校外学習の時のやつ。すごいだろ、中学は市内しか無理だったけど、高校は県内いけるんだから。直に見て描きたかったけど、時間も決まってるし班の奴らもいるのに絵の道具持っていくわけにもいかないしさ。だから隠してカメラ持って行って─────」

『それ、知ってるよ。修学旅行の時もそうだったじゃん。・・・・・・良かった、修学旅行はギリギリ行けて』

 美湖にしれっとした顔で指摘されて、「あぁそうか」と思い出す。

「綺麗だったよな、あの海。この辺りじゃ、そんなもの見えないしさ」

俺の言葉に美湖もうなずいて、楽しげに笑った。

『水が透けて魚見えるって、よっぽど綺麗じゃないと無理だよね。青い海ってまさにアレ』

 そのあとも、家族で行ったところや瞬と尚平と行ったところなど、いろいろな話をしていく。

もちろん、尚平の紹介を終わらせてからだ。

「『もう友達作るのも無理かも』と思っていたところに、自分の友達を紹介してくれた」と言うと、『いい人』と笑っていた。部活のことで瞬のことも話題に出すと、『さすが、幼なじみモドキ』と言う。表現が俺と同じだったことに少々驚きつつも、2人で笑っていた。

 あの池の絵を見て、今年も行こうと言う事で、俺は着替えて、外に出て自転車にまたがる。まだ冷たい空気の中を「飛ぶ」のと漕ぐので進んでいくと、今回は特に懐かしくもないような景色が見えてきた。

『変わらないね、ここも』

とつぶやいた美湖は、池のほとりに花が咲いてるのを気付き、『ちょっとだけ、変わったか』と言い直す。

「特に誰が植えたわけでもないと思うけどさ、すごいよな、勝手に栄養もらって勝手に育つんだから」

と俺が言うと、美湖が少しだけ怪訝な顔をして言った。

『なんか、迷惑がってるみたいな言い方』

「いや、別にそんなわけじゃなくて。─────そう、「1人でに」って事だよ。その、なんていうの────────もう、「自然はすごい」って言いたかったのっ」

最終、やけくそにそう言うと、美湖が笑って『なんか、変わったね』と言う。

 そこで、俺が瞬に納得させられる、という話を思い出して言ってた。

『やっぱり、そうなんだ。中2・3の時は本当に冷静だったもん』

気付かないうちに、そうなっていたらしい。自分の変化に自分で気付く人も少ないだろう。

 俺の話をさんざんしたところで、次は美湖が「上の世界」の話をしてくれた。

 美湖曰く、一般的に「天国」という感じのところはあるらしい。ただ、みんな輪っかを頭に載せて、翼を背中に生やしていると言うのは全然違って、死んだ時の格好らしい。

『同年代の子たちもいるし、それなりに楽しいもんだよ』

と美湖は笑う。俺も一緒に笑ったが、『光も来る?』と言われた時は本気で恐ろしくなって出来るだけやんわりと断った。

 楽しい時間ほど、あっという間に過ぎるものだ。もう時間が来る。

今日は家に戻ることもなく、この池で別れることになった。

美湖はまた『またね』と微笑んで、手を振る。俺も振り返して、あわてて叫ぶように付け加えた。

「来年までに、また絵いっぱい描いとくから」

 その言葉を言い終わる頃には、美湖は完全に光のきらめきと化していて、届いたかは分からなかった。

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