第1章
最近、サブタイトル考えるのが面倒でずっと「1章、2章」で通しっぱなしです(´・ω・`)
「今日、ななめ向かいに引っ越してきました、水野です」
ある11月の土曜日、親の留守中に水野と名乗る女の人が来た。───綺麗な人だ。
「どうも」
とりあえず会釈して、女の人の頭越しに「ななめ向かい」を見てみた。
多分、この地域では一番広い。玄関の横には細い木が立っているしゃれた家。
ここにこの人1人で住むのか─────
俺の心の内を見透かしたように、水野さんは言った。
「中2の娘もいるんですけど、具合が悪いというもので。主人も早々仕事なんです。ごめんなさい」
「いや、全然・・・・・・」
ものすごく申し訳なさそうな顔をされて、あわてて俺は首を振る。
「中2・・・・・・って俺、いや、僕と同い年ですね。よろしくお願いします」
そう言うと────あわてて、「俺」と言いかけたのを「僕」と言いなおし────、水野さんも笑って頭を下げた。・・・・・・かなり、深く頭を下げる人だ。
「こちらこそ、娘の学校のことなどでお世話になることもあるかと思いますがお願いします。あとこれ」
そう言って差し出されたのは、洗剤らしき包み。
「つまらないものですが。では、お家の方にもよろしくお願いします」
また水野さんは頭を下げて、家へと戻って行く。
「あの」
ふいに、俺は声をかけた。驚いたように水野さんが振り返る。
「学校は、いつから」
水野さんがフッと笑って言った。
「月曜からです。よろしくお願いします」
ここでもまたお辞儀。そんなにペコぺコしなくても、と思うが、別に嫌いには・・・・・・むしろ、好意を持った方だと思う。
「あんた、迎えにいってあげなさいよ」
母さんが帰ってきて、水野さんのことを話すと母さんが言った。
思わず、飲みかけの炭酸を吹きかけて、むせかえりながら俺は声を上げた。
「な、なんで俺が」
誰を迎えに行くかといえば、もちろん「水野さん家の娘さん」である。
「なんでって、その方がなんでよ?」
きょとんとした顔は本意なのか、わざとなのか分からないが母さんが聞いてくる。
「なんでって・・・・・・そりゃだって、なんでよ」
またも同じ言葉で聞き返す俺に、母さんは苦笑交じりに言った。
「だって、このあたりで中学生ってあんただけだし。しかも同学年ときたら、あんたが行かないと他に誰が行くの」
─────誰も行かない
その言葉を呑みこんで、俺は不本意な顔・・・・・・をした、つもり。
そんな俺を完全に無視して、母さんはぽそっと呟いた。
「途中、こける定番のところとか、凶暴な犬とかいるみたいだし」
・・・・・・完全に、俺の負けである。
しかたなく、俺はうなずいた。
まぁいい。母さんの言いつけを無視する、という手もあるのだ。
こんなことを言っておきながらなんだが、その少女が気になったと言っても過言ではない。
一体、どんな少女なのか─────
・・・・・・念のために言うが、迎えに行く気になったというわけではない。