第18章
俺がただご飯を食べて寝て起きて、部屋にこもりがちな生活をやめたことを、両親も喜んでいる様子だった。リビングで話しているのが聞こえたのだ。
そして、この会話で俺がどれだけ塞いでいたか、そしてそこまで塞ぐほどに美湖の存在が大きくなっていたことを再確認した。
「来年に、言うんだから」とつぶやきながら、前のように描くようになった絵の続きを描きに2階へ上がる。
絵に手をつける前に、何気なく前に描いた絵をめくっていくと天使の絵が目に入り、俺は思わず微笑んだ。今見れば、本当に美湖そっくりな奴だ。今のところで、俺の中で一番のお気に入りで、一番大切な絵になっている。
そんな感じで、前よりも人物画が少し増えたこと以外は、前と何ら変わらない生活だ。
ただ、綺麗な景色などを見るたびに「美湖が見たら喜ぶかな」などと思いつつ絵に描くのは言うまでもない。しかし、学校行事の時などは絵の道具を持ってくるわけにもいかず、先生に隠してカメラ持参は常だ。「うわぁー、そのまま描きたい」と歯軋りしながらシャッターを押す俺に、「俺も描きたいから現像して頂戴」と尚平が呑気に声をかけてくる。
「えー、カメラを隠し通す労働力的にさ、タダではあげれないよ、多分」
と冗談交じりに言った俺に、「ケチな奴」と呆れた顔で言った。
「あ、本気にした?」
と笑うと、「そんな振りしてみただけ」と跳ね返された。
尚平の方が、いろんな意味で1枚上手だ。
瞬にも同じことを言われて、同じ様に言うと「冗談だろ」と返ってくる。
「うん、冗談。尚平は呆れた顔しといてさ、俺が冗談だって笑ったら本気にした振りしてみたとか言うから」
と言うと、瞬は笑って言った。
「多分、途中までは本気にしてたって。冗談って分かった瞬間に『振りしただけ』って言っただけだろ」
さっきの「尚平は1枚上手」というのは撤回する。
「中学の時はさ、俺が光に納得させられる側だったのに─────最近、逆じゃないか」
と、瞬が苦笑いして言った。微妙に悔しくなった気がしたが、自分でも事実だと思ったのでうなずく。
「あーあ、今もこれに納得させられた」
と口を尖らせると、「なんでだろうな」と瞬が言った。
「高校の事とか、瞬の方が知ってるからかな」
と言うと、「入学したの一緒なのに」と言う。
「・・・・・・いろいろと、迷惑かけまして」
と今更ながら────────と言ってもまだ言っていなかった────────「お礼」的なことを言うと、
「本当、そうだよな」
顔を歪めて言い返される。しかし、フッと表情を緩ませて瞬は続けた。
「でも、何があっても光が戻ってよかったよ」
こんな俺らを見て、美湖は何と言うだろう──────
その答えは、次の初夏にすんなり出てきた。