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元魔法使いの最期の願い

 神殿で祈りを捧げた瞬間、以前見た光景と同じ場所にいた。


 青い空に輝く太陽、椅子が二つ置かれただけの広い草原。

 片方の椅子に少女は座っていた。声をかけるのも億劫という表情をしていたので、今度は自主的に椅子に座った。

 少女【はぁ…】とため息を漏らす。


【私があなたに力を与えたのはね、あなたならやり遂げると思ったからなのよ。その結果がこれ?期待外れもいいとこよ】


 私が少女に失望されていることは理解している。期待に応えられなかったのだから。それでも尚、他の選択肢が思い付かなかったのだ。


【まあでもあなたは努力はしたし、決意は汲み取ってあげる。面倒ではあるけど、今回は私の失策でもあるし。でもいいの?あなたは全てを失うのよ】


 私は即座に頷いた。勇者の為ならばこの程度の代償は厭わない。


【私はあなたの望みを叶えるけれど、同時に罰も与えるわ。精々苦しみなさいな】




 勇者はアリスティア神聖国に凱旋した。騎士と聖女と魔法使いと共に。

 だが凱旋よりも前にとある噂も広まっていた。勇者を妬んだ魔女が、神母アリスより授かりし神聖な力を失わせたというものだった。

 神母アリスはアリスティア神聖国における絶対神、たかが一人の魔女によって失うようなものでは無いはずなのだ。

 アリスティアの王は噂を即座には信じなかった。なので王家に仕える騎士団長と一対一の決闘を行わせることにした。結果は勇者の惨敗。

 騎士団長の剣の一撃で大怪我を負い、毒瓶を飲ませれば血を吐き倒れ、呪いを掛ければ苦しむ始末。聖女の回復魔法も効き目が悪く、騎士ですらこれ以上勇者を傷付けないでくださいと懇願してくる。


 もはや勇者に神聖な力が無いのは一目瞭然であった。


 勇者の力の喪失は大々的に公表され、手のひら返しをするように、勇者には憐憫の目が向けられるようになった。


 無能となった勇者は聖女の勧めにより、神殿で下働きをして生活費を稼ぐようになった。


 勇者が力を失ったという噂を広めたのは、元魔法使いの女性であった。正確には元魔法使いの祈りを受けた神母アリスであったが。


 では何故神母が元魔法使いの祈りを受け入れたのか。


 それは彼女がその時持っていた全ての能力と寿命を神母に捧げたからだ。

 もう彼女はこの世にはいない。死んだのだ。無縁墓地に名も無き墓が置かれただけで、そこに遺体すら入っていない。

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