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?回目

 もう何回目になるだろうか。私はやり直し続けている。


 力には記憶を引き継ぐという利点があるが、同時に欠点にもなった。どれほど記憶を引き継ごうとも、その記憶を思い出すのにかかる時間は短くはならないのだ。つまり私は記憶を遡るために多大な時間を必要とするようになっていた。

 それと失われた能力の影響も明確になり始めていた。最初は大したことの無い、初歩的な攻撃魔法だった。小さな火矢を放つだけの、簡単な魔法。

 次に失ったのは認識能力。知人の姿を見てもそれが誰だか一瞬分からないことがある。幸い勇者と騎士と聖女のことはすぐにわかる。だから魔王討伐の旅に影響は無かった。

 その次に失ったのは私自身の顔。回数を重ねる度に、肌荒れが治らず、顔のパーツも歪み始めていた。

 勇者パーティーは人間国家の希望。ある程度容姿の良さも求められる。それに勇者の心象を良くする為にも、出来れば美人が望ましいとされていた。


 初歩的な魔法も使えず、人の容姿も認識出来ず、醜悪な顔つきの女。

 私が勇者パーティーの魔法使いとして認められるには、多大な努力と評価が求められるようになっていった。


 私はいつしか勇者パーティーのお荷物になっていた。

 勇者は変わらず私にも優しい。ただ騎士と聖女が私を見る目は厳しいものになりつつあった。強大な魔法が使えるだけの醜女。

 私は能力だけでなく、心も削られていった。


 また勇者が死んだ。死因は不明。少し目を離した隙に、何故か死んでいる。いつからかそんなことが続いていた。


 この絶望の日々はいつ終わりを迎えるのか。本当に勇者を救えるのか。

 私は期限が迫っていることをひしひしと感じるようになっていた。


 私はついに勇者パーティーを解雇された。理由は明白で、私が本来持っていたはずの強大な魔力を失ったからだ。多分だけど、私は自身の魔力を失うより先に、自身の持つ魔力量を測る能力を失っていたのだ。だから魔力を失い続けていることに気付けなかった。


 私は【勇者パーティーの一員】ですらなくなった。勇者と、騎士と聖女とも顔を合わせることすら出来なくなった。私の代わりに他の魔法使いが充てがわれた。私は限界を感じていた。


 それでも何か、勇者の為にできることはないかと模索していた。一回目に得た知識はまだ失っていなかった。勇者パーティーが旅をしている最中、私は知識を存分に使い、顔と身分を隠し周辺国の有力者と話をつけようと努力した。でも成果は得られなかった。魔王が倒されるまでの間は周辺国とて魔物への対処で精一杯だった。


 神母に力を授かった時、諦めることは無いと決意したはずだった。なのに最近の私の心の大半は諦観が占めるようになっていた。

 勇者に会えないことも、勇者の役に立てないことも、私の心をガリガリと削っていった。



 唐突に、前触れも無く、私は気付いた。

 勇者を殺しているのは【世界の総意】なのではないかと。

 神話の一説にあった一文。魔力は無限の可能性。神母アリスは膨大な魔力によってこの世界を創生した。

 魔力は無限の可能性ならば、世界中の人間にも同じことが出来るのではないか?人間一人ひとりの魔力は少なくとも、それが同じ方向に向けば神母と似たようなことが出来るのではないか。

 勇者の強大な力に怯えるもの、勇者を妬むもの、勇者を疎むもの、人間を裏切り魔物の側に付くもの。

 それらの感情の集合体が強大な一つの魔力となり、勇者を排除しようとしていたら?もしかしたらそれは、神母の神聖な力すらも貫通するほどのものなんかもしれない。


 本当にそれが真実とは限らない。でも私には時間が無い。


 取れる手段は一つしか無いだろうと私は考えた。

 賭けにはなるが、これは現時点で最も高い確率の賭けだ。


 私は決意した。あとは行動するのみ。アリスティアの神殿に駆け込み、神母アリスの偶像の前で祈りを捧げた。

 

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