オカン王子爆誕
マユリカが婚約者の最有力と言ってもまだ選定段階。
なので他の婚約者候補ともお茶会のみの交流を続けているが、アダントン伯爵令嬢は自分の話ばかり。もう1人のミルキー伯爵令嬢は「将来お菓子の家に住みたいの~」などお花畑全開な発言でサリエルの精神をゴリゴリ削っていた。
それと比べるのも申し訳ないくらいマユリカとのお茶会は和やかだった。
「良い天気ですね~」
「そうだね」
王宮の庭園にあるガゼボで紅茶を飲みながらまったりな時間を2人で過ごす。王族とお茶をするのだからもう少し緊張するものなのでは?という気もするがマユリカは肝が座っているのかリラックスムードである。
ただし、マユリカが緊張する場面がある。
「今日もマユリカが好きなタルトを用意したよ」
「・・・・・・ありがとうございます」
お礼を言いつつ好物のブルーベリータルトとにらめっこをするマユリカ。
「大丈夫、僕が食べさせてあげるよ」
「・・・・・・ありがとうございます」
そう言ってマユリカの隣に移動しフォークで一口大に切り口元に持っていくと、少し照れながらパクリ。
「ふふっ、いっぱい食べてね」
口を手でおさえもぐもぐしながらコクコクと頷くマユリカにサリエルは笑みをこぼし、給仕をする侍女や護衛の騎士はにこにこと見守っている。
何故こういうやり取りになったのかの経緯は、初めてのお茶会の時に遡る。
その日も色んな菓子がテーブルに置かれ、好みを聞いていた王宮の料理人がマユリカの大好物だというブルーベリータルトをホールで出してくれ、それを侍女が切り分けサーブした。
しかし好物だと聞いていたのに見つめるだけで食べようとしないマユリカにサリエルが食べるよう勧めると、意を決したマユリカがタルトに食べやすいようフォークを切り入れた途端、小さく切ったタルトが勢いよく飛んでいったのだ。それはもうテーブルを飛び越えて。
「・・・・・・」
「あっ、すみません!たまたまですっ、たまたまてすからっ」
唖然としている周りに焦り、言い訳をしてもう一度フォークを切り入れるとまたしても飛んでいくタルト。
「たったまたまですっ」
ぽーん
飛んでいくタルト。
「たまたま・・・」
ぽーん
飛んでいくタルト。
最後は涙声になりながら言い訳し切り、飛んでいくタルト。
最終的に一口大になってしまい絶望の顔をするマユリカに、サリエルはじめ周りの侍女や護衛の腹筋が限界だった。
「ぶはっ」
悪いと思いながらも耐えきれなくなったサリエルは腹を抱えて笑ってしまった。
「ごめんごめん、真剣に切っているのに笑ってしまってすまない」
「・・・・・・いいえ。家族にも笑われますので」
しゅんとするマユリカに聞くと、どうやっても切ると飛んでいくので家では一口サイズで出てくるようになったんだとか。
「分かった、僕が食べさせてあげるよ」
「えっ」
「ほら」
そう言うとマユリカの隣に椅子を移動させてタルトを切り口元に持っていくと、戸惑いながらも食べるマユリカ。
それから何度も口へ運びパクパク食べるのを見てサリエルは楽しくなってくる。
「美味しい?今度から食べさせてあげるからね」
コクコクと素直に頷くマユリカに満足気に笑う。
こうしてサリエルの給餌は成長して学園に入っても続くのである。
そしてマユリカは知らない。サリエルが給餌したいが為に一口大のケーキが王宮では出されない事に。