花畑に現実を
学園に入学するまであと数年、サリエルは確実に令嬢達の勢いにブルーベリータルトのように飛ばされるマユリカと脳内花畑の令嬢の突撃に遭う自分の為に、自分付きの侍従に下位貴族の令嬢中心に花畑候補のリストアップを指示。そうすると思った以上の候補が上がってきて慄く。
そもそも王族との婚姻は他国の王族か高位貴族が主。
マナーや他国の言語など幅広い知識を幼い頃から教育されている高位貴族と違い、下位貴族は学園に入る程度の教育しかされないからだ。
マナーに到っては下位貴族は最低限、高位貴族とでは所作や作法も違うので下位貴族が王子妃になるにはかなりの努力を強いられる事になる。高位貴族の令嬢が10年以上かけてするものを数年でマスターしないといけないのだ。
それを頭に花を咲かせている令嬢達は分かっていない。
王子妃になればドレスや宝石を買い漁り綺羅びやかな夜会で踊ったり、茶会で紅茶を飲みホホホと笑って優雅に生活できると思っているのだろうが、実際はブラック企業ばりの仕事が待っているし、茶会は情報交換の場にして頭脳戦を繰り広げ、笑顔で蹴落し合いをする所。実態を見たらなりたいなど思わないだろう。
その実情を知らないのと、流行りのロマンス小説の影響で花畑が咲き誇る令嬢がワラワラと増殖しているとリストアップしたものにメモが添えられていた。なんとも優秀な侍従である。
「さて、どうしたものか・・・・・・」
花畑を令嬢ごと燃やしてしまいたいが、人数が多すぎる。
少人数ならするのかと言えばやりたいのは山々だけどさすがに王族でも隠蔽は難しいだろう。
「・・・・・・いっそのこと全員修道院にブチ込むか?」
「人数が多すぎて無理かと。それにご令嬢達はまだ何もなさってはおりません」
「ちぇーっ」
人数の多さもそうだが修道院へ送致するような事をしていない令嬢を「お前んとこの娘無謀な夢見てるから修道院に送るわ」などの横暴は王族だからといって許されるわけではない。
後に止めなければサリエル王子は行動に移していただろうと侍従は語る。
仕方ないのでサリエルは兄王子のティリエルとその婚約者のミレーヌに相談する事に。
「ほほう、花畑令嬢を前もって殲滅したいと」
「ティリエル様言葉が過ぎますわよ」
「いやミレーヌ、アレは燃やしてしまった方が世のためだぞ」
「せめて正座をさせて足の上に重い石を乗せるくらいにして下さいませ」
2人に時間を取ってもらい花畑リストを見せるとさすが兄弟、同じ事を言い出し後ろに控えていた侍従は身震いをする。ミレーヌの全く軽くない「せめて」にも花畑令嬢に対する静かな怒りが伺え、余程腹に据えかねているのが分かる。
「数人なら圧力をかけて入学を遅らせる事も出来るんですが・・・・・・このままだとマユリカが物理的にペッとされてしまいます」
「確かにあの手の令嬢の押し退ける力は強いからな」
「あの子見た目と違っておっとりぽやぽやしてますものね」
「体幹を鍛えさせるか」
「王宮で護身術を習っていますので体幹には問題ございませんわ」
結局現実的に行こうという事で下位貴族へ向け王宮から第二王子は侯爵家へ臣籍降婿し、婚姻と同時に王位継承権を放棄すると公示をした。
これで大半の令嬢の脳内に咲いていた花畑は枯れ、まだ少し希望を持つ者はいるものの皆ゆっくりとだが現実を見るようになっていく。
ただ数人現実を見ず夢から帰って来ない令嬢に関してはこれはマズいと感じた家が自主的に花畑令嬢預かり所、通称『花園』と呼ばれる修道院へ入れたという報告を侍従から聞き、サリエルはひとまず様子見をする事に。
花畑候補の話が落ち着いた頃、マユリカにこっそり付けている影からマユリカが平民の娘を調査し、監視していると報告を受けるのだった。




