人の話は最後まで聞け
「ねえサクラ、相談があるんだけど…」
夕日が差し込む放課後の教室で、いつもより少し緊張しているようなコユキが口を開いた。
「どうしたの?」
「私、コタローに告白したいんだよね」
「は?」
一瞬、コユキが何を言っているのかわからなかった。
私たちは親友だ。自分でこんなことを言うのも変かもしれないけれど、誰が見ても明らかな親友だと思う。
その私が、既にコタローとコユキは付き合っているものだと思っていたのだ。
「待って、まだ告白してなかったの!?」
「うん」
「部活同じなのに?」
「うん」
「遊園地行ってたのに?」
「うん」
「旅行してたのに?」
「うん」
思わずため息が溢れた。じゃあ2人で一体何をしていたというのか。カップルの一般的な行動をなぞっているようにしか見えない。
「コタロー…ヒモじゃないよね」
「まさか!いつもちゃんとそれぞれで払ってるよ」
そうじゃないなら別にいい。とりあえずコユキは楽しそうだし文句もない。
「あのね、サクラに話してなかったんだけど、私達共通の趣味があって」
「へ~、どんなの?」
「これなんだけど…」
コユキが一枚の紙を差し出してきた。
「え、なにこれ…『どすこい!すもう研究所』…?」
「相撲の『どすこい』って言葉について研究するところ」
初めて聞いた。コユキにそんなイメージは全くなかった。
「ほら、サクラもびっくりしてるでしょ?こんな趣味共有できるの、コタローしかいなくて。…もう、コタローしか考えられないの」
「じゃあ素直に告ればいいじゃん」
「それができないから困ってるの!」
コユキがそっと目を伏せた。
「コタロー、自信ないんだって。彼氏なんて、そんなことできないって言うの。私はありのままのコタローが好きなのに」
甘酸っぱすぎて正直胸やけしてしまう。コユキにこんな顔させるなんて、コタロー…
「本人がそう言うってことは、それなりの理由があるんじゃないの?なんか、重大な欠点みたいな」
「え?そんなの…強いて言うなら、話を最後まで聞かないことくらい?いつもちょっと食い気味で。でも私は全然気にしてないよ」
かなり大きいと思うけど、とそんな無粋なことは言わない。
ん?ちょっと待てよ、それなら告白できるんじゃないか…?
「ねえコユキ、それって、告白の時もそうなの?」
「うん。ちょっと食い気味に断られるからちょっと傷つく」
一つの妙案が、私の脳に降ってきた。
◆
「コタローくん、私、貴方のことが…」
「ごめん。無理」
「嫌いです、付き合わないでください!」
今では仲良し夫婦である。