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私が恋におちた日々

 私は久遠真澄のことを忘れてはいなかった。

 大好きだった男の子。

 別に嫌いになったわけじゃない。

 ただ、もうどうしようもなく手遅れになっただけ。


(真澄、ごめんね。私がドジだったせいで……今だったら、真澄のラブストーリーも、ちゃんと書いてあげたかったのに!)


 真澄の名前は、もうノートに書いてしまっていた。

 もう、私のノートの力では恋させることができない。

 真澄自身が学校以外の場所で頑張らないと、灰色の高校生活を送ることになる。


(本当にごめん!) 



 私と紗良は、毎日のように腕を組んで登校し、終始ラブラブだった。

 お昼ご飯を一緒に食べたり、手を繋ぎながらおしゃべりをしたり……幸せだった。


 最初は、胸の奥が少し温かくなるような感覚だった。それが次第に広がって、私の意識や感情まで静かに変わっていくのを感じた。気にならなかった。むしろ、自分の愛が確かな形になっていくのが嬉しくて、怖いほど心地よかった。


 気づけば、あふれ出るほどの愛がルナの脳内を支配していた。


 他のカップルたちは、自分たちの未来が保証されているとは思っていない。

 だからこそ、“嫌われたくない”という意識的な警戒心だけでなく――言葉にせずとも誰もが持っている、人と人との距離を保つための、ごく自然な理性が、ちゃんと働いている。


 でも、ルナだけは、違っていた。ルナだけが、知っていた。


 どんなわがままを言っても、笑ってくれる。

 どんな愛を押し付けても、愛してくれる。

 そう、私と紗良の未来は、確定しているから。


 ──わたしだけが知ってる、永遠の両想い。


 私の中の“愛”は、止まらなくなっていた。



 そして気づけば、私たちは朝から晩まで、ずっと一緒だった。

 腕を組んで登校し、昼は身体を寄せてお弁当。授業中も彼女の息づかいが恋しくて、早く触れたくて仕方なかった。

 放課後は夜まで寄り添い、会話の合間に何度もキスをした。

 一日に三回じゃ足りなくなって、五回、十回と増えていった。


 足りない。全然足りなかった。もっと、もっと密度を上げたい。


 私は考えた。

 そして思いついた。


 ──最高の作戦を。


 完璧すぎて、笑いが止まらなかった。

 私はさっそく行動に移す。


「紗良。うちの親が“ちゃんとご挨拶したい”って言ってて……

 それで、できれば紗良のご両親とも一緒に、軽く食事でもどうかなって」


 そう言って、私は自然な形で食事の予定を組んだ。

 ついでに、両親のフルネームはさりげなく聞き出す。

 紗良は、私の言うことを何でも聞いてくれる。

 紗良の親も「娘がこんなに仲良くしているなら」とあっさり乗ってくれた。


 ──食事会の場で、私はノートに名前を書いた。


――――――――――――

白河涼子しらかわ・りょうこ』 『御門雄介みかど・ゆうすけ


娘の付き合いで顔を合わせた食事会の中、たまたま手作りのお弁当の話題で盛り上がる。 別れ際に交わした何気ない一言が不思議と心に残り、数日後、改めて連絡を取りたいという気持ちが芽生える。 相手の誠実さに惹かれ、配偶者に相談したうえで、前向きに想いを伝え合う流れに。

――――――――――――

御門恵美みかど・えみ』 『白河慎一しらかわ・しんいち


最初は互いにさほど関心もなかったが、紗良の話をきっかけに娘たちの恋愛観を語り合ううち、いつの間にか価値観が重なっていた。

食後、ふたりきりで台所に立ち、静かな時間を共有する中で、名残惜しさを感じるようになる。 「また話したいですね」とどちらからともなく言葉が出て、自然と連絡先を交換した──そうして、ゆっくりと恋が始まった。

――――――――――――


 これで二家族、全員で一緒に住もうと提案するのがルナの作戦。

 紗良には妹がいたが、ノートで恋に夢中にさせればいい。

 そうだ、妹さんにもとびきり可愛い彼女と甘い恋をさせてあげよう。


 ──紗良とずっと一緒にいられる完璧な未来。

 私は、すでにその未来しか見ていなかった。


 

 両親たちの恋はうまくいっているようだった。

 同棲するまでには、まだ時間がかかると思うけど心配はしていない。

 一度始まった恋はもう誰にも止められないのだ……神でさえ。


 ルナには、もう一つ、どうしても拭えない不満があった。

 紗良からの愛が、どうしても足りない。


 毎日一緒に登校して、手をつないで、キスをして。笑い合って、名前を呼び合って――それでも、足りなかった。

 私はこんなにも愛しているのに。溺れるほどに想いを注いでいるのに。

 どれだけ触れても、言葉を交わしても、返ってくる愛が足りない。

 どうすれば、もっと欲しがってもらえるのか。どうすれば、同じだけ求めてもらえるのか。


 そんなことを、ふたりで過ごす甘い時間の中でも、ずっと考えていた。


 それも単純なことで、あっさりと解決した。

 全てを受け入れてくれることに甘え、すぐには気づけなかったのだ。

 反省しないといけない。言葉にしないと伝わらないことだってある。


 そう、伝えればいい。あふれる愛を言葉にして、まっすぐに。

 紗良は、私を嫌ったりしない。

 だって私たちの未来は、もう決まっているのだから。


「紗良、ねえ……私のこと、愛してくれてるんでしょ? うれしいな。ありがとう。

 でも、それだけじゃ足りないの。もっとほしい。もっともっと、私のことだけ見ててほしい。 だって私、全部あげてるんだよ? こんなに好きなんだもん。

 だからね……遠慮しないで、もっとちょうだい?」


 紗良は目を見開き、顔を赤くして、こくんと頷いた。


「うん。ルナの気持ち、すごく伝わってる。でも……こわいの。嫌われちゃうかもって思うと……」


「そんなこと、絶対にない。紗良が何をしても、何を言っても、私は嫌いになんかならない。 命だって、なんだって賭けられる。だって私は、紗良を愛してるから」


 私は紗良をぎゅっと抱きしめ、そのまま強く口づけをした。


 次の日からは、少しずつ、私たちは理想に近づいていった。

 紗良もますます積極的になり、触れる回数は増え、視線は長く交わされ、言葉には濃い甘さがにじんでいた。


 これ以上ないくらい、一つになっていく感覚。


 ──最高だった。




 今では、紗良と仲良く暮らしている。望んだ通りにはならなかったけれど、結果的に私たちは隣同士に住むことになり、紗良は私の家で過ごしている。


 一緒に目を覚まし、同じ湯気の朝ごはんを分け合って、制服を着る。

 隣に並んで登校して、帰りは寄り道せずにふたりきり。

 湯船の中で指先をなぞりあい、夜はベッドで重なって眠る。

 着替えも食事も、眠気も排泄も、当たり前のように混ざり合っていた。

 夢と現実の境目なんて、とっくに曖昧だった。


 何もかも、すべてがふたりで。

 誰にも壊されず、疑われず、邪魔されることのない、永遠の生活。


 私の周りでは、みんな誰かを愛してる。そう、“そう書いたから”愛している。


 紗良の両親も、私の両親も、しっかりと互いに愛し合っている。

 最近では、どちらのカップルにも赤ちゃんができたみたい。

 みんな、幸せそうに笑ってた。

 お互いを見つめる視線には、他の誰も入る余地がないほどで見ていて、

 少し怖くなるくらい、完璧な愛。


 でも、それでいい。

 それくらい深く結びついていなければ、私と紗良のこの生活だって、

 簡単に壊れてしまうかもしれないから。



 本当に、素晴らしい世界だと思う。


 もう何も怖くない。


 愛があれば、ノートがあれば、きっとどうにでもなる。


 誰にも壊せないし、疑われることも、離れ離れになることもない。


 

 これは、完璧な愛。

 私だけの、世界で一番幸福な恋。

いかがでしたでしょうか?フッと思いついて出来上がりました。

ちなみにラブ神はいません。

感想とか意見とか投げてもらえると、とても嬉しいです。


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