序章
昔から語り継がれてきた物語の中でも特に人気を集めてきた物語があった。
それは小さい頃に読み聞かせをされたことのある子供たちも多い、記憶の中に色づく一つの物語。
大きくなったらこうなりたい。と、将来を夢見る子供たちの心に強く残る物語の中には、人には扱えない”魔法”を使うことのできる能力を持った少女が、その力を使い王国の人々を助け、仲間と共にいくつも待ち受ける困難に立ち向かいながら成長をしていく夢の物語が輝かんばかりに彩られていた。
作中で名前の書かれていないその少女を、人々は挿絵に描かれた金色の髪と少女の周りを妖精たちが舞う様子から”妖精姫”と呼ぶようになっていった。
「今日のお話はここまでにしましょう。続きはまた明日。ね?」
「まだ眠くないよー、続き読んでよママ。」
「眠くなくても目を瞑るの。電気を消すから、ほら、手をしまって。」
「はぁい。」
我が子の顔元まで布団をあげ、顔を埋めて見せたその姿に満足そうに微笑んだ母親は枕元に置いた蝋燭の火を消そうとそっと近づいて。
「・・・あら?」
その火がふわっと、母親が息を吹きかけようとした寸前で消えた。
月明かりがうっすらと入り込んでくる窓の辺りに視線を向けてみても、そこにはただ閉められた窓が一つあるだけだった。
「ママ?」
「ううん、おやすみなさい。」
蝋燭の周りをぐるぐると回り、楽しそうに笑い合って駆けていくその姿は誰にも見えない。
妖精たちは、私たちのすぐそこにいるというのに。