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雛形破壊の美少女と書物旅行  作者: 藤沢淳史
9/22

第九巻 誰もが想像しやすい場所


「……?」 

「すまない、少しノスタルジーに浸っていただけだから」


 一度瞼を閉じると、瞬時の内に心の持ちようが移り変わる。一瞬だけ見せた悲哀は消えうせ楽観的なオーラを醸し出していた。

 

 不可解な出来事に眉間に皺を寄せたが真偽の意図がわからないため、そのまま次なる事象に向けて歩を動かす選択をする。


「本来なら、この後どうなっているんだ?」


 散りばめられた負の感情を追い払うかのように話題を復元させる。


「そうだね、助けた女の子によってこの世界の情報を知り得ることになるわけだ。後に恋愛に発展するわけだが、そのルートは切り捨てられた事になる。それからは簡単な採集クエストを受けたことで森へ向かうみたいだ」

「人の恋沙汰を完全にぶちのめしたな」


 少女との出会いのパートが無くなったため、元の原作のルートから逸脱し始めていた。最早、物語を潰滅させることが目的になってしまっているのではないかと内心思い始めていた。


「彼は今、何とか現世のゲームの知識を生かして情報収集をしているらしい。コミュニケーションが苦手だと記載されているから、少し時間は掛かると思われる」


 資料を何度も見直しながら口を出す。

 少しオドオドした態度で何とか収集のために話をしている様子を見ることが出来た。


「ようやく、そこから物語が始まるってところだな」


 冒険者ギルドと呼ばれている建物に到着し、そこで転生した世界の情報を聞き入れる事に成功する。そこで初めてクエストいうものがあることを理解し受注することになる。

 資料に書き記された通りにジュンはギルド内に恐る恐る入っていった。


「書き換えても支障が無い所は、そのままで進行するんだな」

「直接的な関与があれば大いに変更されるが、多少の影響であれば原作通りに忠実に進行していくはずだよ。さて、僕らも入ろう」


 扉を開けば、待っていたのは大和の想像通りの世界だった。だからといって感動していない訳ではない。目を輝かせ、口を丸くし、今すぐにでも建物内を探検したいと体が申しているようにうずいていた。


 入口付近には鎧を身に纏う人々、剣や弓、杖を携えている人々がたむろしている。薄暗い建物の中と対照的に活気に溢れかえっていた。

 クエストを受注するための受付、現在受付中のクエストが張り出されている看板は建物内の横幅全てを使用されているほど大きさ。これらは全て一階の部分に置かれている。

 武器や防具、またクエストに欠かせないアイテム等々が売られている店は二階の半分ほどを占めており、残りは休憩場として椅子と机が置かれている。多少の飲食店も併用されていた。

 最上階の三階は関係者以外立ち入ることが出来ない、プライベートな空間になっている。主に重大や機密の話がある時に使われている。


「主人公のジュンが世界や冒険者の説明を受けている時間がある。記述では数行だが、体験では数十分掛かる」

「じゃあ、その間、周りを見て来てもいいか?」

「君の学ぶために来ているのだから、僕に拒否権はないよ」

「いや……忘れていただろ、目的を」


 静かなツッコミは、彼女の目線を逸らさせ口笛を吹かさせた。

 暇つぶしがてらに建物内を散策する。

 大和は何事も無いように装っていたが、資料を片手に建物内を説明する彼女の話を、脳内に叩き込むように聞いていた。


 常に見る物全てに目を輝かせ、我が物せんと瞳孔を開かせていた。


「ちなみにだが、この本には冒険者ギルドの説明も無ければ、冒険者や魔法の説明も一切記述がしていない。読者が知り得ている前提で物語が進められている。君も執筆側だから僕が説明しなくても、冒険者のシステムは理解できているよね?」

「あぁ、敵を倒してお金を貰い、一定の経験値を得ることでレベルを上げ強くなっていくシステムだろ」

「僕の手間が減ったから助かったよ。オリジナルティが全く感じられないシステムになってしまっているが、大雑把でもある程度のクオリティは創作出来ることは理解したよ」


 軽く軋む階段を上っていく。

 その先にあるのは誰も使用していない為、空いている椅子と机。


「椅子についての記述はされているが、『単に椅子が置いてある』の一言のみだ。それによって椅子の種類や形、材質も違うみたいだね」

「あっ……本当だ。手前の二つは木で出来ているが、奥の二つはコンクリートか? それに大きさもバラバラだな」

「これで少しは執筆の参考になっただろう。読者によっては気にも止めないかもしれないが、少しでも拘りがあれば書いといた方が良さそうだね。受け取り方は人それぞれって事だが、少なくとも機械は、細かい部分にまで作用する」


 顎に手を当て、大和は納得するような表情を浮かべた。

 椅子に使われている素材で連想されるのは様々であるが、その詳細が記述されていなければランダムに形成されていた。


「彼が動き始めたから僕たちも行動を開始しよう」


 一部が吹き抜けの為、一階部分が場所によって一望できる。そこから話をしながら目を光らせていた。他方は別の所に目を光らせ己の作品の参考にしていた途中だったため、外に出ることを命じられた時には腹の底から残念そうにしていた。ただそんな様子に構う暇は彼女には無かった。


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