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雛形破壊の美少女と書物旅行  作者: 藤沢淳史
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第七巻 異世界転生について物申す


「えっ……なにそれ? 言っている意味がわからんが」

「都合の良いラノベ主人公みたいに一回で理解してくれないかな? 一度でもネット上にアップした全ての作品は、削除しても見ることが出来る。そう話したんだ」


 理解していない大和に、少しイラついた口調で簡潔に内容を話した。腕を組み、目は細く睨みつけるように。彼の処理能力が追い付いていないことに対しての抗議の表れ。

 だが彼女の態度よりも言い放たれた言葉が頭から離れない。


「ちょっと待て、全てって今言わなかったか? もしかしてネット上に投稿された作品は全部見ることが出来るなんて言わないよな?」

「その通りと言っているじゃないか。既に削除された作品や文字数が百字に満たない物までも含まれる。ネット上に投稿された物語、賞に応募するためにネットを経由した作品は閲覧することができる。……なんなら君が過去にアップした物でも二人で今度見てみるかい?」

「そ、そいつは勘弁してくれ」


 冗談交じりの言葉は、彼の抱える闇の中にクリーンヒットした。


 今でこそまともな物語を創作できるようになったが、ライトノベルを執筆しだした当初は欲望全開のストーリーを展開させていた。見られたらこの世の終わりとまでも言えるような羞恥の作品があることは、作成した本人が一番よく知っている。


 創作の暗黒面が表情にも現れる。思い出したくないパンドラの箱を開けてしまったようで、血の気が軽く引いていた。

 そんな様相を、まるで成熟したワインのように堪能する。彼女にとっては美酒と変わらない物であり、満面の笑みを浮かべていた。


「まぁ君の暗黒部分は後に僕が満喫するとして本題に戻ろうか」


 たっぷりと味を占めた後、まだ箱の暗き部分から抜け出させずにいる大和を置いといて、資料から情報を収集し始める。


「初期設定は魔法が使える中世のヨーロッパを舞台にしたファンタジーだ。ありがちなゲームのシステムを丸パクリした作りになっている。主人公だけに表示されるステータス、スキル要素、モンスターを倒すことで報酬が貰える冒険者システム等々――、まぁこの先の町、冒険者の町に到着すればわかることが多いようだ。……ってそろそろ戻って来てくれないと話が進まないんだが」

「あ……あぁすまん、長旅から戻って来たわ」


 背中を叩かれ、暗黒の世界から意識が回復する。一度思い出した途端に記憶が鮮明に甦り、かつて熱中した世界に浸かってしまっていた。


「旅はこれから始まるんだけどね……まぁ過去を振り返ることは悪い事じゃないし、むしろ今後の糧にするには生かした方が得策だと思うけどね。何せ自身の経験が潤沢に存在していると僕は思っているよ」

「そう……だな、あんな恥ずかしい作品を書かないよう気をつけるわ」


 集中砲火された羞恥の思いを何とか振り落とそうと、顔を数回横に振った。さらに気を紛らわすために資料の情報を食いつくように目に入れる。


 資料に書かれているのは原作と思われる原文に加え、キャラクターの相関図、事細かに記された詳細や独自の世界観についての解説のページが大半を占めていた。

 そのためパッと見ただけではサッパリ理解できず頭を捻った。そんな大和に合わせることなくページを捲り読み進める。


「そもそも何故トラックなんだろうね、軽自動車でもいいと思わないかい? あの小さい車に轢かれて転生した主人公とか惨めで面白そうだと思うけど」

「いきなり何の話だ?」


 首を傾け困惑の表所を浮かべる。


「異世界転生の作品の最初は必ず主人公が亡くなることから始まる。特に多いのが病気か事故の二つになるが、事故での死因でトラックに惹かれる確率が高いと思ってな。当作品も死因はトラックによる事故死らしい」


 異世界へ誘う作品は、現実世界から別世界へと移動する。その際に主人公が移動するにあたり死亡してから異世界へ向かうことになるが、その死亡要因にご不満があるらしい。細かすぎる指摘に一瞬?然とし、開いた口が閉じなかった。


「トラックが重いからじゃね? さっき言ってた軽自動車なら、トラックに比べて軽いから重傷になるだけで、死ぬ可能性は低いんじゃないか?」


「なるほど……その考察力は尊敬に値するよ。僕の疑問が一つ晴れた。重量が関係するなら、今度からバスにしよう。いや電車に轢かれて即死でも面白そうだね」


 苦し紛れ出した回答に、目を丸くしながら手をポンと叩いた。発想の残忍差に思わず鳥肌が立つほどのドン引きをするが、相も変わらずどこか楽天的であった。そして資料に何かをメモするように書き足していた。


(死亡事故の種類なんて関係あるか? つかそんなことどうでもよくないか?)


 疑念が渦巻くが言葉にすることは無い。彼女の考え方に同情するのは不可能だと思ったからだ。


「つか、こいつ……さっきから動いてないのは何でだ? 最初に見た時は明らかに困り果てたような顔をしてたが、今じゃ瞬きすらしてないぞ?」


 二人のすぐ近くにいた物語の主人公のジュン。話に夢中になり、その存在を忘れていた。

 まるで銅像のように毛先の一本も硬直して揺れていない。顔の前で数回手を振ってみるも反応はない。それどこか先程まで感じ取ることが出来ていた体感がまるで感受されない。嗅覚も優しい草木の香りは今では無臭になっていた。


「あぁ、今は時間軸の動きを封じ込めている。物語の順序として、この主人公は僕たちと同じように別世界からやってきて、都合よく転生したことに気づき、都合よくスキルを使用できることがわかり、都合よく町に向かっている途中だ」


 あくまでも都合よく気づいたことに不服であることは口述から容易に認識できるが、それよりも重要な部分が冒頭に説明されている。


「時間軸を封じ込めるって……じゃあ今、この世界は時が止まっているのか?」

「あぁそうだよ。主人公に出会ってしまったら、物語は直ぐに別の方向に行ってしまうから、せめてもの情けで、最初だけは原作通りに進めさせてあげようと思っている。先程指を鳴らしただろう。あの行為で止めることができるんだ」

「もう何でもありだな……理解しようとする方が無理だな」

「簡単に言えば僕らはこの世界に干渉することができるし、極論を言えば結末だって変えられることができる」

「けっ……結末を変えることができる!?」


 思いがけない発言に大声が辺り一面に響き渡った。


「そんなに驚く事かな? 元々存在していない個体なのだから、異分子が混ざれば化学反応は起こることだ。物語に僕らが干渉すれば登場人物として出演することになるのは当たり前だろう。干渉すればするほどストーリーが変化するのは当然のことだ。その都度、原理はわからんが資料に記載されている物が変わる仕様になっている」


 淡々と説明する彼女に対して、聞き手である彼の頭に衝撃が走っていた。

 すでに論理的な思考は放棄していたが、それでも衝撃を吸収しきれない。


「じゃあ登場人物も、文章も、この世界そのものも改変出来るってか?」

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