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雛形破壊の美少女と書物旅行  作者: 藤沢淳史
19/22

第十九巻 最初の町が円形なのはご愛敬


「やっぱり……変な物語に入ってたらしいな」


 ただ操作をしただけなので、入り込む物語を大和は選んでいない。にもかかわらず世界が形成されているということは、何者かが大和の前に物語を選択しているということになる。その人物はもちろん一人しかいない。

 到着と同時に現れたのは、視界一面の木。辿り着いた場所は森の中らしい。

 整備されていない足元、天からの光は葉っぱで遮断されており薄暗く、若干の肌寒さに加え、何か出てもおかしくない雰囲気を醸し出している。


「第一話がこの場所になるのか……何か物騒だな」


 最初に訪れた場所は過去二回の経験から物語の始まりからスタートしていた。そのため現在、大和がいる森の中が物語のスタート位置になっていると考えていた。


「俺の手元に無いってことは、誰かが持っているから無いという認識でいいのか? だとすれば、何処かにいるはずだ」


 訪れた際に必ず手元にあった資料はない。

 すなわち他の人物が持っていることを表していることを示している。そんな人物など彼の知る限りでは一人だけである。

 いつもなら資料を手に持ち、好き勝手に改変する案内人がいるところだが本日は不在。まるで言語がわからない国で旅行をするほどの不安はあった。

 見知らぬ土地での第一歩は、落とし穴を確認するかのように何度か地面を足で触り、周囲に警戒しながら踏み出した。

 どんなタイトルで、どんな物語なのかも知るすべがないので、理不尽な出来事が起きてもおかしくは無いことに気付き、歩くだけでも慎重になっていた。

 だが足場の凸凹や、整地されていない箇所もあったものの、数十分後には視線の先に街並みが映ることになっていた。


「意外と……終わりは早いみたいだな」


 何事も無かったことに胸をなでおろす。

 大和が森の中を抜けて辿り着いたのは、立派な城壁で周囲を囲んでいた城塞都市。ファンタジーの世界で見られそうで、冒険心をくすぐられそうな作りであった。


(こういう建物ってことは異世界系か? なんにせよ中に入らなきゃ話になんないよな)


 城壁に沿いながら大和は頭を働かせていた。

 何も覚えていない未知なる世界において情報は重要と位置付けている。

 長年のゲーム感覚から町での情報収集が大事である事は認識済み。


(そういや前に入った物語の世界では検問してたよな。あの時は書き換えて何とかなったが、今回は回避の手段が無くねぇーか?) 


 少し前かがみにした歩き方で、頭の中では疑念が過っていた。

 初めて入った物語の世界、『異世界最強能力者 ~最弱と思われ裏切られたが、隠しステータスによって最強になったので魔王を倒す』の最初の部分で都市に入る際に、検問がされていたことを思い出した。

 別の世界ではあるが可能性がないわけではない。ただ存在した場合にどのように対処するのかが問題になる。恰好や身分を証明するもの、誤魔化すことができる手法も持ち合わせていないのだから。

 出入りが禁じられた場合は路頭に迷う事も考えられる。

 どうにか良い解決策はないかと、顎に手をあてながら歩いていた。

 だがそれは杞憂に終わることとなる。

 歩いた先で見つけたのは行き交う人々。壁に楕円の大きな穴があけてあり、そこが出入り口となっているようだ。

 どうやら出入り自由で、誰かが監視しているわけでもない。


「検問や関所みたいなシステムはないのか……ということは戦いの類は無しか? だとしたら壁でわざわざ囲む必要性もないが……」


 外部から守るための壁であるということを考えるならば、入国審査は厳しいものになるはず。物語の製作者の知識が乏しいのか、あるいは先に進んでいるであろう人物が既に改変しているのか。もしくは敵は人類ではなく巨大な魔物になるのか。

 様々な憶測が大和の頭を駆け巡る中、若干の不安を隠しながら何食わぬ顔で他の方々に交じり通過した。

 問題が起こることなく町への侵入が成功したことで心に安息が設けられた。

 一息ついてから辺りを見回す。


「栄えているな、大都市だからか? 物語序盤の町はかなり重要な立ち位置になっていると思うが」


 整備された石畳、賑わいを見せる街中には商人の声が響く。

 往来が激しい街中を見渡すように歩を動かす。景観を記憶に残すことにも抜かりはない。


(物語が進行しているのであれば、主人公がこの町にいる確率は無いと捉えてもいい。もしいるとするならば、あいつも近くにいることになる)


 先で物語の改変を楽しんでいる人物は、主人公や周辺の仲間たちを対象としている。物語が進んでいれば、主人公達も別の町へと移動する可能性が高いため、この町には姿は見せないと考えた。


(先行している物語に俺が追いつけばいい。……って、何で本を借りる為に、こんな事になってんだが)


 メモでも書いて置いとけば良かったと、別の方法を見いだせなかったことに深いため息を漏らした。

 どこか効率良く情報収集できる場所がないかと目を配らせながら歩いていると、一際目立つ建物が目に入った。距離もここからそう遠くなさそうだ。


「冒険者ギルドみたいなところか? だとしたらそこで情報収集をした方がよさそうだな」


 一番人が集まり、尚且つ情報が容易く手に入りそうな建物。

 想像以上に大きさがでかいことが、周りの建物より高いことで想像がついていた。


「いたぞ、センリ・ヤマト!」

「えっ――」

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