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雛形破壊の美少女と書物旅行  作者: 藤沢淳史
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第十八巻 三度目の訪問


「……意外と執筆が進むな」


 リズムを刻むように軽快なキーボードを打つ音が留まることは無い。

 これまでの停滞が嘘のように文字の羅列が作り出されていく。


「実際に見ただけでこんなに変わるとは……な」


 脳内にどや顔を浮かべる姿がちらつく。

 認めたくはないが、ここ数日は執筆活動に精が出ていたことは事実であった。

 暫くは就活の事を脳内から排除すると決め、迷いを払ったのは二回目の機械を使用した後の帰宅時だった。何だか書けそうな気がすると一時のテンションに身を任せることにした。

 それから四日が過ぎていたが、彼の活動の勢いは留まることをしらない。殺虫剤をまかれた巣から飛び出る蜂のようにアイデアや文言が出てきていた。

 他の事は一切に考える暇がない程に、執筆作業はスムーズに行われていた。


「あれー……捨てちゃったっけ?」


 ただし何か一つの切っ掛けで止まることも珍しくは無い。

 参考資料として残していた昔のノートが見つからずにいた。

 書き記してから五年以上経過しているノート。自身で暗黒期と定め、人には見せられない内容だが、当時の流行りについて書かれている。

 題材にしようと棚や引き出しを探っていたが、姿を見せることはない。


「昔は青が好きだったから、青っぽいノートばっかりに書いてたよな」


 物入れの奥深くから発見したのは、埃が多少かぶっていたノートの束。

 まだノートパソコンやスマホで執筆していなかった頃に、原稿やメモ代わりに使っていた物。

 折れ目や汚れ、落書きが散見され、表紙は色褪せていた。

 当時ノートを使っていた頃の自分が青色が好きだったことを記憶の片隅から引っ張り出した。

 しかし目当てのノートは迷子のままである。


(無いとなると……似ているようなラノベを参考にするために買うか? いや、電子の方はチャージしてないし届くのがいつになるのかわからない、買いに行くには近くに本屋がないし……面倒だな)


 思い通りにいかず頭を掻いた。

 あると見越して物が発見できず、代替品が自宅に存在しないことは理解していた。

 本屋は隣町、ネット注文は翌日以降、タブレット端末を不所持なため電子は見にくい。選択肢の最適解を模索していた時、ある景色が頭に思い浮かんだ。


「そういや、あいつの部屋にはラノベが沢山あったな……」


 記憶に蘇る景色の一部、その中の出てきたのはラノベ専用図書館と言って遜色のない場所であった。

 二度ほど訪れているが、目的が別であったのであまり触れてはいないが、数えきれないほどの量と種類が置いてあることは認識していた。


「流石に貸してはくれるよなぁ……」


 一瞬だけ変な要求や、躊躇う姿も想像が出来たが、手段が他にないため準備を整え目的地へと足を運ばせた。

 口から吐き出した息は白く、風が吹けば身を縮こまってしまうほどの気温に文句を言いながら道中を歩く。

 三度目となれば慣れも生まれてくる。最初に訪れた時の躊躇さは既に無くなり、迷わず扉をノックする。

 だが扉が移動することは無い。今度は音が周囲に少し漏れる程度でノックをするも返答は無い。


「おーい、いないのかぁー?」


 次は声を挙げて存在をアピールしてみるが、これも失敗する。

 扉の前で立ち尽くしながら、席を外していることが頭に過るものの、大和自身も資料となりそうな本を借りるという要件があるため、諦めきれずにダメもとで扉を押した。

 すると扉に重さはなく、いとも簡単に開いてしまった。


「無防備だな……まぁこんな所に人が来ることはなさそうだし、盗めそうな物もないからなぁ」


 扉が開いたことに驚きはあったが、自身で直ぐに思いついた理由が思いのほか腑に落ち、遠慮することなく部屋の中に入った。


「入るぞぉー」


 相も変わらず圧倒される量。大和の期待と想像を超えた部屋で、彼の心が躍らないはずがない。

 キレイに並ばれた棚に目を配る一方で、住民がいないことが気がかりになっていた。


「何だよ、重要な時にいねぇのかよ。無断で借りるのは……流石に気が引けるなぁ」


 頭の後ろを掻きながら、そんな風に思っていると、ある個所を発見し視線を向ける。

 訪ねた時には必ず入った部屋、すなわち理解不能な機械がある場所。

 最初に大和がこの小屋に訪問した時、彼女はこの扉の先から出てきたことを思い出し扉を開けると同時に、


「なぁ、ラノベを何冊か借りたいんだが――」


 大和の言葉は空を切った。

 そこには誰も存在せず、大きな機会が面積を埋めている。

 整理整頓された部屋の中で


「ってこれ、もしかして……」


 僅かな音を発する機械。

 ノートパソコンもスキャナーのような機械も起動しているようで、電源のランプが点灯していた。


「あいつ……ひょっとしたら中に入ってるんじゃないか?」


 一つの可能性が頭に過った。

 他に部屋があることは聞いたことがなく、そもそもいないことを考慮しないのであれば可能性が一番高い。


「……面倒くせぇーが、さっさと見つけて借りるとするか」


 どんな物語を旅しているのかがわからないが、そんなことよりも自身の作品の為にと、入り込むことの覚悟を決めた。


「このボタンを押していた気がするが……」


 記憶を頼りに明るく光っていた青いボタンを、恐る恐る押してみた。

 すると、今までと同じように光が大和を包み込むと、一瞬にて部屋から姿が消えた。

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