第十六巻 転校生で遊ぼう
着席の鐘がなると同時に教室内に入って来た担任の先生は、鮮やかなピンク色のショートカットで資料によると後の話に関連するストーリーがあるらしい。そのためスリーサイズまで事細かく記述がされていた。
「今日は皆さんにお知らせがあります。なんとこのクラスに転校生がやって来ます」
新人教師の甲高い声が教室内に響き渡ると、一斉にクラス内がざわめき始めた。
皆が期待に胸を膨らませ一種のお祭り騒ぎまで発展していった。
「転校生が来るパターンも聊か不自然だと思わないかい? 小学校や中学校ならまだ理解できるが高校に参入する生徒なんて本来起こりえないのでないか? しかも入学テストの点数はギリギリで合格できる奴とか訳が分からないね。そんな自身の能力に対して傲慢じゃないか? 僕なら少しレベル落として確実に入れる所にするね。もし不合格になった場合はどうするのだろうね? それらのリスク管理が出来てないと思うよ」
疑問の嵐が口から次々と飛び出される。人差し指を頬の近くで立て別の腕で肘を支えながら。如何にも脳内で模索しているような素振りであった。
「不合格になったら別の所に受験すんじゃね? 制度は知らんけど」
「まだ一般人だから百歩譲って納得することはできるが、これが過去や未来からやって来た人物や、人類と酷似した別世界からやってきた使者や宇宙人だったするのは、流石に現実離れしていると思わないかい?」
「実際じゃあり得ないからこそ、現実離れした設定や世界観が喜ばれるんじゃないのか? 単に取柄もない日常を文字に書かれたところで面白みは無いと思うんだけどな。現実味が無いのもラノベの特徴じゃないのか?」
拒否反応に対し自身の価値観を語る。少し熱が籠っており口調も今までとは違い強いものであった。それでも驚く様子は無くいつも通りの涼しい顔で自説を展開した。
「君の意見は的を射ているのは十分に承知しているよ。だが、あまりにも似たような展開が露見されているから、僕個人としては現実離れしていない方が好ましいよ」
間接的に現実的な作品が少ないから書いてほしいと、大和に訴えるように。
その間に教師が必死に動物園化となった教室を統制させようと必死に声を出しているが、そんな事お構いなしに、性別や外見、容姿や性格の予想の議論が白熱する。
「転校生の正体がわかっていると、何か楽しみがねぇーな」
「まぁ、それは僕らの特権だからね。先の展開がわかり、尚且つ変更することが出来る。それは、あちらも同じようだね」
含みを持たせた言い方に、大和は首を傾げた。
彼の理解できていない反応を見て、腕を組むように机に肘をつきながら口元の近くで指を指し示した。
刺された先には、一人の男子生徒が教室内で唯一、転校生に興味を示さずボーっとするように窓の外を眺めている。
窓側の一番後ろの席にて物思いに沈んでいるのが主人公の板橋葵だ。転校生に興味が無いから頬杖をつきながら外の景色を眺めているよ。その辺のリアクションも他のラノベ作品には見られる行為も、君なら予見するまでも無く想像できたのではないかい?」
「多少は、そんな気がしてたわ。こういう反応は良く見るからな過去に出会っていて運命的な再会か全くの無関心、または数分前に出会っている、とかの展開が多数を占めていると思う。……なぁ少し前に戻っての改変はできないのか? 出来れば最初からで、あいつの事を根掘り葉掘り変えて見たい」
肘を机につきながら主人公に視線を向けた。
どちらも転校生に全く興味がないのか、周りのクラスのお祭りモードから一歩引いている。
「残念だけどそれは厳しいね。あの機械は最新ではないから進んだ後に戻ることはできないよ。どうしても過去を改変したいのなら一度この世界から出てもう一度入り直すか、回想シーンを追加するしかないよ」
こちらも周囲の盛り上がりに合わせることはないが、声や態度からは何を考えているのか想像することは容易ではない。
「それでも、少し意外だね。前回時は改変に協力的ではなかった君から、提案をされるとは。心境の変化でもあったのかい?」
「プロ作家じゃない人の物語だしな。展開が読めたなら面白味は薄れてると思うし」
「なるほど、既に君はこの物語に愛想をつかしたわけだね」
「間違ってはいないが、言い方を何とかしろ。愛想なんて言葉を使うと別の意味に聞こえるんだよ」
傍から見れば、仲良しの二人組が会話をしているようにしか思えないが、その内容は些か物騒な会話である。
クラスの異様な盛り上がりによって、二人の会話が外部に漏れることはない。それどころか担任教師が大声をあげて火を沈下させようとするも、勢いは弱まることはない。
手が付けられない状態に顔を赤くして叫んでいる姿は、教師という職業の大変さを大和に痛感させることとなった。
「今から教室に呼び入れますから、お願いだから静かにしてください!」
涙目になりながら訴える教師は、お祭り状態の教室の収拾を諦める。
廊下で待つ転校生に、入室の許可する合図を送り、一歩教室に踏み入れた途端、これまでの騒ぎが嘘のように教室が静寂に包まれた。
その奇抜な見た目に度肝を抜かれたからだ。
「きょ、今日から皆さんのクラスメイトになる金田美紀さんです」
「どうもー」
制服の上着のポケットに手を忍ばせながら、少しかったるそうな口調で挨拶をする。
資料に書いてある通りの容姿が、そこにはあった。
「予想通りだな」
「予想通りだね」
転校生に目線を向けながら、本来は異物である二人の会話は成立していた。
「都会というよりかは地方にいそうな大人しい感じのタイプなのか」
「君がギャルに対してのイメージがどのようなものなのかは理解できないが……そうだね、こんな感じはどうかな?」
勢いよく資料に書き込むと、まるでリモコンをテレビに向けるように、新たに書き込んだ資料を転校生に向けた。
まるで魔法少女に変身するように、一瞬にして容姿や外見が変化した。
ピンク色の髪に、紫色のリボンでアクセントを加えた。上部のブラウスのボタンは閉まっておらず、覗き込めそうな谷間が相見える。鋭い目つき、麗しい唇。手にはマニュキュアや指輪といった細かなオシャレの気配りがされている。
エネルギッシュなオーラが溢れ、はじける笑顔が特徴のギャルが完成された。
「アニメでよく見る姿に改変してみたよ。君の想像していたのも、こんな感じなのではないのかな?」
「ゲームみたいにサクッとやるよな。イラストとかでよく見る姿にはなってるけどよ」
光の速さで変貌したことへの驚きがないわけではないが、心のどこかで慣れが生まれてきているのも確かであることを自覚していた。
それと同時に一つの疑問が大和の中で生じた。
「つか、周りの連中は何一つ変わったことに関しての声を上げてないんだが?」
文章が改変されたことで容姿が劇的に変化した転校生。
二人と同じく間近で見ていた生徒達からは登場したことへの歓声だけで、一瞬にして変化したことへの疑問や驚きを発言する人は、誰一人としていなかった。
「改変したことで、元々の姿は存在していないことになっているのだから、そのことについて知っているのは、僕と君だけなのだから声を上げないのは当然じゃないか。生徒達の時間軸では、転校生の金田美紀は最初から、あの姿であることが認識として刻み込まれているよ。ただし、その後のストーリーや展開には影響はあるけどね」
容姿や外見の変化は、改変前の姿での認識が消えるため、そのことについて問う人物は現れない事を示唆した。
ただし、直接的にストーリーに姿が関連する箇所には、改変前とは変化が生まれている。
「性格も、改変前は少し気だるく怖そうで近づけない性格の印象を受けるようだったが、明るいオーラ全開のキャラに衣替えしたからね。性格についてのエピソードには記述の変化が見ることが出来るはずだ」
「勝手に変えてくれるのは便利だな。現実にも、そんな機能つけてほしいわ」
叶うことは当分先である願望は、やけくそ気味に口から発せられる。
また教師も同じく、統制が取れなくなった教室で投げやりの感情で話を進めていた。
転校生の金田美紀の席は主人公の板橋葵の隣で、早速簡単な交流が始まっていた。ただし板橋葵に女子生徒と話ことへの耐久の無さから会話のキャッチボールが成り立っているとは到底言えるものではない。
転校初日で教科書がないため席をくっつけて見ようとする金田美紀に対し、近すぎるがゆえに制服の隙間から女性の部分が垣間見えたことで、頬が真っ赤になり戸惑っていた。
そんな端にいる二人を見ていた大和に一つの懸念が生まれる。
「つか、こんなど真ん中の席じゃ端にいるあいつらの言動がわかんなくね? なんでこんな位置にしたんだよ」
教室の中央に位置する席からは、教室の端の二人の言葉は耳に届かない。辛うじて体の動きを確認することが出来るくらい。
「一時的なものだからね。直ぐに他のヒロインとのフラグが立って席替えすることになるし、第一に君は授業を受けるというのかい? それに金田美紀はこの後の展開にて授業にほとんど顔を出さないようになるし、前にも言ったが改変について知られると面倒だから、安全な位置にしたってわけだ」
次々と発射される言葉の羅列は、懸念材料が消し飛ぶほどの至極真っ当な回答であった。
「それに第一話は彼らの関わりは、これだけになっている。金田美紀は睡眠とサボりで主人公との会話はない。それにこの後は何か起こるわけでもなく、主人公の板橋葵の日常が紹介されるだけだからね」
「そうなると、もう見ごたえ無い感じなのか?」
「そうだね、そもそも第一話なんて世界観や状況説明が主な目的だと僕は思っているよ。前回の異世界転生の話は直ぐに冒険が始まったから実感は無いと思うけど」
「この物語は確かネットから拾って来たんだっけか? ならわからなくもねぇーな、日常が変化する物語なら、まずは変化前を見せとかないと読者も理解できないからな」
「勿論このまま流れを続けることは出来る。ただ『僕は悪魔の隣で葛藤しながら授業を受けることになるのは初めてだ』との記述があるから、実際に授業を受ける事にはなるけどね」
該当している個所を大和に見せると、まるで苦虫を?みつぶしたような苦悶な表情を浮かべた。
「流石に授業を受けるのは勘弁だわ」
「強欲というか怠惰というか、学生の本業は勉学だと思うけどね。まぁ僕も授業を受けたからと言って恩恵があるわけでもないから、ここは二話目の重要な場面まで飛ばすことにするよ」
言葉が途切れるやいなや、すぐさま指を鳴らした。




