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雛形破壊の美少女と書物旅行  作者: 藤沢淳史
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第十五巻 教室は人生の中でも限られた時間しか無い

 ふざけているのかと彼女を見るが、至って真面目であり揶揄う様子は微塵も感じられなかった。そのことがますます彼の頭を混乱に陥れる。


「え……何か……生徒ってことは、クラスの一員になるっているのか?」

「そうだね、僕らはモブ役として組み込んでみたよ。当然周りからも認知はされるけど、楽しむためには本人たちとの関ることが一番手っ取り早いと思ってね。それに高校のクラス内の体験は貴重だと思うけど」


 持っている資料を見せつけるかのように、大和に向け差し出す。

 そこには二人が生徒となるように改変されていた。


「確かに、これとない機会だが……この前と真逆のこと言っていないか? リスクが何とかって言ってなかったか?」


 前回時には物語の主軸な人物に関わることは避けた方が良いと明言したことが脳内で再生された。そもそも書き換えることが面倒くさいと言っていたのも思い出す。


「実体験した方が面白いだろう? それに空想も良いが、リアリティを出すためには執筆する方の身を持った経験が生きるとは思わないかい?」

「それはそうだが……まぁ、機会の所有者様が言うから平気なのだろ。俺としては経験出来るなら何でも良いが」


 若干、挑発じみた口調で了承の意を示す。

 体験できればそれで良いと思っている自分がいるのも確かであり、そちらの方が執筆の参考になりやすいと思っているからだ。


「ただ、あんたの意見がコロコロ変わってややこしいな。結局の所は面倒くさい方が良いのか、楽しい方が良いのか?」

「う~ん……僕の気分次第?」

「おい、せめて断定しとけよ」


 何とも曖昧な返答に睨みつけるような視線で訴えたが、裁判官が棄却するように彼女には何事がなかったかのように通じなかった。


「ちなみにだが今回の物語はウェブ上にて投稿されたものだ。ただ、あまり日の目を浴びることなく未完のまま更新が止まっている」


「人気が出なかったから捨てたのか、或いは身の回りの変化が起きたのか……いずれにせよ俺にも近々起きてもおかしくない事案だから他人事とは思えねぇーな」


 今は学生の身分のため社会人に比べてしまえば時間はある。

 だが数年後、仕事に就くことが決まった場合、執筆に割ける時間は減ることは間違いないだろう。そうなれば自身も執筆の事は二の次になってしまうのだろうか。

 一瞬、自身の将来に対し深い闇を感じていた。大学三年生の冬、これからの人生を左右する時期に自分の行動は正しいのかと。


「今、将来の心配をしたところで意味がないよ。今日ここに来た理由がなくなってしまうから、悩むのは後で良いと思うけどね」

「今……俺の心の中を読んだのか?」

「その変な顔に書いてあったからね。それに君の悩んでいそうな事は全てお見通しだよ」


 神のみぞ知る、という言葉の神の部分にでもなったかのように、大和の心情を読み通した。一瞬背筋が凍るような思いが駆け巡ったが、すぐさま自身の表情について文句を言われたことが癪に触った。

 そのことすら読んでいたのか彼女の表情は、大和をあざ笑うかのように微笑を浮かべていた。


「現場の雰囲気は壊すと、楽しさが減るから少し手を加えようと思う」

「雰囲気どころか、交友関係を壊している奴が何を言ってんだが」


 呆れかえって、棒のように突っ立っていた。

 妹に幼馴染と、主要なキャラを一目も見ることなく物語から抹消した人物は、資料に何かを付け足すように記述を行う。

 書き終えた彼女が高々と掲げた指を鳴らすと、目を疑う出来事が起こった。

 パチンッという音と同時に二人の服が、一瞬にして変化した。

 黒のブラウスに、白を基調とした上着の制服、ネクタイとズボンに身を包んでいた。


「これで、僕達も仲間入りってわけさ」


 ドヤ顔を披露した彼女は、膝丈のスカートに変更され、首元の小さなリボンと学校の紋章と見られる刺?が施されているハイソックスに着替えがなされていた


「何でもかんでも指を鳴らせば、どうにかなる気がするな」


 口にしてから、何度か指を鳴らしてみるが変わったことは起こらない。そもそも擦れる音しか鳴らすことが出来ない。

 音に鳴らすことに苦戦していた大和だったが、隣からの人を馬鹿にしたような顔が視界に入ったため、すぐさま取りやめることにした。

 門を潜り、校舎内に簡単に侵入することが成功。


「本当に生徒になった気分だ」


 物語の中心であり、主人公たちが在籍するクラスに向かっていた。

 通り過ぎるモブキャラ達からは、内容は聞き取れないが話し声が耳に届く。

 不可思議な視線は感じることなく、一般生徒として溶け込んでいることを実感する。


「先程、僕がそのように設定したからね。僕達を違和感なく生徒として溶け込むように書き換えたんだよ」


 得意げに話す彼女は、教室に着くまで終始ご満悦であった。

 廊下や階段を移動したのち、辿り着いたのは主要メンバーが在籍している二年生の教室。

 朝のホームルーム開始まで残り数分だが、会話が教室外に漏れ出るほど和気あいあいとした雰囲気であった。

 開いてある扉から臆することなく彼女は入り、その後ろから子分が付いていくように大和が続く。


「僕たちの席は丁度真ん中に設定しといたよ、君の後方に僕が座る形だ」

「マジで生徒になっているのか。用意周到に席なんて出てくる有様か」

「変わりに物語に関係しないモブ生徒二名を排除しているからね。そのまま僕たちを生徒として追加してしまったら席の数や生徒数に不備が生じる可能性もあるからね」


 本当に生徒として在籍しているかのように、疑いの目を向けられることなく所定の席に辿り着いた。


「しっかし……教室の中も忠実に再現されてるな。本当に高校時代に戻った気分だ」

 勢いよく椅子に凭れかかると、そのまま辺りを見回した。

 前方には若干の消し残りが残る黒板に、立て付けの悪い扉。年季の入った机と椅子、ゲームの掲示板のように貼り紙されている壁に、窓からは晴天の青空と街並みの一端を目視することが出来る。

 現実世界と何一つ変わらない世界がそこにはあった。


「それにしても……あんたが制服を着ていると、なんかコスプレにしか見えないんだが……それにどこかで見たことがあるような恰好だしな」


 所在を明らかにしていないが顔つきや見た目等から、大和は若干の年上の女性と決めつけているため、制服を着ている姿がコスプレイヤーにしか見えなくなっていた。


「――それは少し心外だな、素性を明かしていないのに勝手に決めつけるのは。もしかしたらこれが本来の姿かもしれないだろ?」

「じゃあ、あんたは高校生ってことでいいんだな?」

「それはどうだろうね、ご想像に任せるよ」

「なんで、そんな頑なに拒むんだよ」


 断定をすれば否定をし、問えば答えを逸らす。まるで意図的に答えに辿り着かせないよう思えてしまう。ただ何となくの答えは醸し出されているし、答えを知ったところで何か変わることは無いため深追いはする必要がないと判断した。

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