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雛形破壊の美少女と書物旅行  作者: 藤沢淳史
12/22

第十二巻 終了時のお土産


「戻って来たのか……」


 今までの景色が全て消えうせ目の前に広がるのは、記憶に新しい小さな小屋の中。

 肌寒さと本の匂いが元に戻ってきたことを実感させる。あまりにも切り替わる場面に脳の処理が追い付かず、軽くめまいが起きる。


「こればかりは慣れが必要だから、致し方がない所だね」

「わりぃ。感覚的には酒で酔った感覚だ」

「おっと、そんなにかい?」


 ふらついた大和は、優しく体に凭れるように支えられた。その時に靡いた髪からフローラルな香りが鼻孔をくすぐる。鼓動が少し早くなり視線を行く末を何処に置くか迷う。

 一瞬の出来事のだが不慣れな体験の為熱が籠っていた。すぐさま体を起こそうとした時、旅路についていた視線があることを発見する。


「ちょ、ちょっと待て、この時計壊れてないか?」 

「……最初の言葉がそれかい? まぁ僕は別にどうでもいいけど」


 先の件での礼が無い事に少し不満の声調だったが、それどころではない心情であったので聞こえないふりをして凌ぐ。


「まぁ追記先での一日は現実世界の一時間ほど。半日くらいの体験だから実際に経過したのは三十分程度になるね。すごく濃密な時間を過ごしたと思ってくれて構わないよ」


 態勢を元に戻し、取り出したタブレットを見せ現在の時刻を伝える。


「疲れも三十分程だったら良かったのにな、なんか試合終了時の選手の感覚だわ」

「それは仕方がないよ。肉体や心はそのまま影響され引き継がれるからね」


 半日の間、ほとんど休むことなく歩き続けた足には疲労が蓄積されていた。また度重なる未知との遭遇によって高鳴っていたため、休むことなく働き続けていた代償が襲ってきた。結果的に肉体と精神の疲れが大和の身を纏っていた。


「それで……どうだったかな? 参考にはなりそうかな?」

「参考には……って横やりだったり、好みやらで目的が脱線していた部分もあった気がするわ。結局の所、あんたはあの作品――っていうかラノベになんか抵抗でもあんのか?」


 文句が多かった気がするな。


 振り返れば主人公が悲惨になっていくような道筋になっているように思えていた。

 仲間のイベントや魔法が使えるようになる強化イベントの削除の例を上げれば露骨な嫌がらせをしているようにしか思えなかった。まるで毛嫌いしているように。


「僕は別に異世界系統のラノベが大嫌いな訳じゃ無い。設定を駆使し、理論がちゃんとしている物語は僕も好んで読ませてもらっているよ。だけど最近はそれらを無視して単にありがちな設定をなぞり、主人公を持ち上げるだけ持ち上げて、その他のキャラも主人公の為の踏み台扱いで、胸がでかいだけで魅力の一つもないヒロインを用意させるだけのラノベもあるからね。まったくあんな脂肪の塊のどこが良いのか、物語の主人公の気持ちが全く理解できないよ」

「最後の方はあんたの個人的な怨みな気がするんだが……」


 むっつりとした表情に加え、凹凸の無い胸の前で腕組みをしていた。明らかに対抗心を燃やし、ここにいない架空の人物に対しての敵対心を抱いていた。


「まぁ、なんにせよ。この機会の実力はわかってもらえたかな?」

「確かに凄さはわかった。が、何で誇らしげなんだよ。凄いのは機械であって、あんたは遊んでいただろ」


 自慢するように笑みを浮かべていたのでツッコミを入れる。

 機械の実力は身を持って体験したので疑いの余地はない。

 ただ彼女についての見解は、彼の頭の中で悪い方へと変換された。


「これを糧にして頑張ってほしいところだ。生かすも殺すのも君次第だ」

 

 執筆上達や新たなストーリーを生み出す足掛かりになれば思い、行った物語の体験。

 他では味わえないこともあったことは間違いない。リアリティの有無について述べていた大和にとっては貴重な時間。その体験をどう創作に組み込むかも大和次第なのだから。


「ちなみに、僕からのアドバイスだ。今回の体験みたいに進むのもいいが、偶には何かを変えてみたり、自分の過去を振り返るのもいいかもしれないね」

「……その過去が振り返りたいものならな」


 口元に手を当てニヤリとした表情に言葉の真意を悟った、明らかに最後の一文は揶揄うために言っていると。


「さて、今僕が手にしているのは今日君と作った物語だ。今日体験した出来事が全て言語化されているから、これからの活動に参考になるんじゃないかな?」

「マジで改変したやつが出てくるんだな……」


 渡された紙の量と重さによってズシリと腕に響く。会社員なら逃げ出したくなるほどの量は、優に百枚を超えているのは確実だ。


「つか、あんまり参考になるような体験は出来なった気もするが」

「それは見当違いだよ。世界の空気や情勢に触れることが出来ただけでも、生かせると思うけどね。それとも君の執筆能力は長けているとでも言うのかな? なら今ここで君の作品を音読でも――」

「お邪魔しましたー!」


 彼女の声を打ち消すように大きな声で挨拶をし、過去を深堀される前に逃げ出すように外へと飛び出した。


 外が明るく肌寒いと感じたのは、あの小屋が外と相対的だからだろう。


(あいつ、絶対に面白がっているだろ。人の触れられたくはない部分をダイレクトに触ってきやがる)


 傷口に塩を塗るどころか、傷口を塩で塞ぐように直接的に攻撃を仕掛けてくる。

 そしてそれを好み、あたかも苦渋の表情が好物と言わんばかりの表情を見せてくる。


「にしても……あんまり読む気にはなれねぇなぁ、これ」


 両手でしっかりと支えながら運んでいるのは、体験したために出来た副産物。

 他人の投稿作品が形として出され、一番上の紙には題名が書かれてあった。

 中をパラパラと流すように見れば、本文が書かれてあった。

 ただ中身を読むことは無く、多量の紙を抱え込むようにして帰路についた。

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