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雛形破壊の美少女と書物旅行  作者: 藤沢淳史
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第十一巻 犬のセリフは同じな事が多い


「うわぁ……如何にも周りを見下してそうな見た目してるな」

「そのように再現されているということは、この辺の表現力は定評がありそうだね。キャラは物語の命だからね」

「どんなところに定評があるんだよ。主人公にもっと情熱を捧げろよ」

「異世界系統が増えてから、皆同じように主人公のスキンが類似しているからね。モヒカンやアフロまでにしろとは思わないけど、かきあげたりヘアバンドを着けたりしてもいいとおもんだよね。似たり寄ったりの見た目が多くて印象に残りにくいね、君と同じで」

「おい、さりげなく侮辱してないか?」


 棘のある言葉は大和の心に軽く突き刺さる。それでもさりげなく前髪を整えたのは思うところがあったらしい。隣で満足そうにニヤリ顔を披露していたことは彼の腸を少し刺激させた。


 十字に開けた場所で、しゃがんで薬草を集めている低レベルのパーティーと、ジュンから見て左側からやってきた高レベルのパーティーが鉢合わせになった。


「おいおい、そんな所に突っ立てちゃ、俺たちの邪魔だろ!」 

「そうよ、草むしりなら他の所でやってくれない? 変な奴らがいると向こうも現れないでしょ! 仕事にならないの!」


 リーダー格で目つきが悪い男性と、眩しいくらいに派手な服装の女性が喧嘩腰に言い放つ。

 勝ち誇った態度で挑発し、周りのメンバーも毒を吐くように言葉を投げつける。レベルが高い事を良いように扱い、自分たちの尊厳と威厳を知らしめる。


「な、なんなんだ、あんたたち」

「俺達はパンサーズだ。あんたらと違って雑草集めなんてクソみたいなことはやらないグループなんだよ!」


 胸を張り、見下すように威張り散らす小太りの男性。

 そして、その場で呆然と立ち尽くしていたジュンも目を付けられる。


「それに、そこのお前。なんだ、その変な服装は? どっかの金持ちのボンボンか? ここはお子様が来ていい場所じゃねぇーんだよ、さっさと帰れ」


 手首のスナップを利かせ箒でゴミをはくように二回ほど振る。ジュンを見ている目もゴミと同じ扱いであった。

 突然の絡みに反応できずに立ち尽くすだけのジュン。

 対して低レベルパーティーのリーダー格の男性が立ちあがる。


「僕達が何をしてようが勝手だろ。あんた達には関係の無い事だろ」

「目障りなんだよ、そんな所で草むしりされると、こっちの士気が下がるんだよ」


 がんを飛ばすように近づき食って掛かる。残りのパーティーメンバーがリーダー格の男の言葉に同調するように野次を飛ばしていた。


「だから何も迷惑はかけてないだろ。それに、近づいて来たのはそっちじゃないか」

「あ? 俺達とやりあうってのか? 別にそれでもいいけどよ」


 互いのリーダー二人が喧嘩腰の口調になる。

 だが詰め寄られてと、低レベルパーティーの方が一歩後退させられる。それを好機と捉えて腰に携えていた鞘に手を掛け脅しを強めた。


「も、もういいよ、リーダー……」

「僕らが……どけばいい話だから……」


 見かねた低レベルパーティーの仲間が口を挟んだ。地面に視線を向けながら絞り出すような声で静止に入った。

 その反応に反論を上げようとするが、仲間の声に冷静になったのか握りこぶしに力を込め視線を地面に落とした。言い争いの降伏を受け入れた瞬間だった。


「それで良いんだよ、せいぜい雑務クエスト頑張りな。俺達は向こうに行くから近づくんじゃねぇーぞ」

「もしあんたらの所に獲物が来たら助けてあげるわ。殺されてなければの話だけどね」


 侮蔑と挑発が混じった言葉を投げつけるだけ投げつけ、反論の隙を与える間もなくさっそうとその場から足を運んでいった。リーダーの高笑いに続けとばかりに、メンバーも嘲笑いながら不快感を浴びさせるように去って行った。


「くそっ……」


 奥歯を噛み締め悔しがる面々が、愉快な笑い声と共に小さくなる背中を見ていた。嫌味を言うだけ言って去っていった高レベルのパーティーからの侮蔑が、低レベルパーティーの雰囲気を壊し重苦しい空気が流れていた。目線は地面に向くほど俯き、表情を曇らせていた。


 この世界は弱肉強食。強者の尊厳が高いのはごく普通の事、最も威張り散らす輩は少ないが。

 意気消沈するパーティーに対して、出来事をあまり理解できていないジュンが声をかけ、会話が始まる。


「取り敢えずは、ひと段落したらしいな」

「会話は聞こえなかったが、内容は資料に書いてある通りのはずだ」


 物陰に隠れ、一部始終のやり取りを傍観していた異世界人の二人は、資料に目を通す。

 数十メートル離れていたため、その姿は確認できていても会話の内容までは聞き取ることはできなかった。最も台本のような資料は、一言一句正確なため会話を耳に入れる必要は無い。


「噛ませ犬って所かな。ただあのようなキャラクターが登場するのは定番だと思うし、このあとの展開も自ずと決まっているかのように同様な作品が多く占めているから、僕としては何か転換が欲しい場面でもあるね」

「でも文章を見ただけでも腹正しいなぁ。無性にぶん殴りたくなってきた」


 彼の表情そのものには変わりがないが、明らかに右手の拳には力が入っており、まるでボクシングの試合中かのように、両手を構え軽くパンチを打つ動作をしていた。


「……あんな安い言葉で踊らされるとは。君への個人的な評価は改める必要があるかもしれないね」


 わかりやすい挑発に乗らされる彼を見て、呆れ果てて二の句をつぐことさえ忘れる。


「――だけど、物語に大きな変化があったようだね」


 目を軽く見開いた。

 傍らで盗み聞きするように見守っていたが、その場からパーティーが動き出したと同時に驚嘆を表していた。


「え? そうなの?」

「元々は先程の会話中に街中で助けた少女もいる設定だったのは覚えているかい?」

「あぁ、一緒に採集するんだっけ」

「そうだね。先程のグループ対立の場面で脅迫される場面があるんだが、そこで彼女の出番が訪れる。記述を要約すると『武力で脅しをしていたが、彼女はジュンの方が強いと理解していたから、怖くないと一蹴する』だそうだ。そして流れから高レベルパーティーのリーダーとジュンが勝負することになる」


 主人公であるジュンの能力を見抜いていた彼女がいることで起こる出来事。

 物語の内容を削除したことで、今この場に彼女が存在しないので消されたイベントになる。


「初めての戦闘のためジュンは多少苦戦するが、転生によって授けられた高いステータスと能力の差で、一撃で泡を吹かせるそうだ」


「所謂、転生特典でチート能力を貰った、ってやつか?」

「何もやってこなかった人間が、別世界に行くだけで好待遇を得られているわけだから、不公平極まりないと思うけどね」


 恐ろしい憂鬱が頭にかぶさっているのを感じるように不満を吐き出した。

 見下すような表所は人に見せることが出来ないほど冷酷なものであり、それを見た大和は足が一歩後退するほどドン引きしていた。


「……転生前の人生論は置いといて、物語はどうなっているんだ?」


 彼の声に反応するように、一度咳払いをして元の表情に戻る。


「本来は、ジュンとの戦闘に負けた高レベルのパーティーは、その場を後にする。ジュンたちは採集クエストを行っている最中に獣人と出会う。そのまま町に連れて帰るが、根に持った高レベルパーティーが獣人に対する嘘の噂を流す。そこから罵詈雑言の嵐、連れてきた低レベルのパーティーにまで被害が及ぶ。そこから先は前に言った通りの裏切り展開になるが……やっぱり新鮮味がないね」


 資料を見比べながら変化以前の展開を記憶に収めるが、相変わらず眉間に皺を寄せていた。


「途中の経過はどうであれ、結局の所は連れ帰った獣人の事を知った奴らが、噂を立てて風評被害を受け裏切るって話か」

「そうだね、大筋の流れはそんな所だ。現時点の話では採集クエストを真っ只中だ」


 二人が物語の展開について話をしている最中も、クエストを完了させるため地道に薬草を集めていた。

 その際に互いの自己紹介を兼ねて能力の披露をしており、ジュンが魔法の使い方を学んでいた。さらにこの世界の常識や現状を教えてもらう事象があったことを資料から読み取った。


「そろそろ、この近辺で罠にかかっている獣人の子を発見する出来事が起こる予定になっているのだが――」

「なんか、若干行動が慌ただしいように見えるが……もしかして発見したのか?」


 採集をしながら森の奥へと進んでいく一向に、バレないようにしゃがみながら付いていく二名。

 目先にいる団体が慌ただしく、叫び声をあげている様子が目に入った。


「どうやら発見したらしいね」

「みたいだけど……ちょっと待て、これじゃあ容姿を目視することが出来なくねぇーか? 獣人なんて、一番見ることが不可能な素材なのに」


 叫び声とパーティーの姿が僅かに確認できる距離に二人は隠れているため、当然のことながら獣人の姿をはっきりと視界に捉えることは難しい。


 楽しみにしていた一つでもあった獣人の姿を目視することが達成出来ない状況であると、認識した大和は、ガックリと肩を落とした。


「容姿を確認したいのなら、資料の方に一応は添付されてはいるが……」

「紙で見るのと、実物を見るのは違うんだよ」


 差し出された資料には、求めていた獣人の姿が描かれていた。


 犬のような耳に、触ればフワフワしていそうな尻尾。その他の個所は完全に五歳児の人間の子供と何ら変わりはない。

 重たそうな鉄製の首輪をつけ、服とは言えない布切れを纏った女性の獣人。


「やっぱり、紙だと虚しいわ」

「それはそうだが、僕たちは生憎だが彼らと合流する予定はない。残念だが、あきらめてもらうしかないね」

「俺が、ここに来ている理由が無くなっていくんだが……」


 わかりやすく気持ちが萎えしぼむ。

 その様子を見て意地悪そうに笑みを浮かべていた。

 理不尽な展開に涙を流し、遠目からでもその姿を一目見ようと視線を向けた。


 だがそこに先程まで存在していた団体は消えていた。


「あれ? 急に消えたけど何が起こったんだ?」


 一体どこへ行ったのか。


 辺りを見回してみるが、周辺には人が誰も存在していない。

 まるで瞬間移動でも使ったかのように目の前からパーティーが消えていた。

 突然の出来事に動揺したのか、隠れていた場所から立ち上がり先ほどまで作業していた場所で再び辺りを見回した。


 採集していた跡はしっかりと残っており、罠とみられる装置も置かれている。

 状況からみても、形跡がはっきりと残っている。


「これは物語の急激な場面展開に起こる現象だよ。ボスを倒した後に瞬間移動したかのように場所や場面が変わる時はこのようになる。原稿に置き換えるなら、一行の空白や話数が新しくなる時だね」


 その場から駆けて現場に向かった大和とは対照的に、遅れての到着と同時に解説が入る。


「すまん、全然状況がわかんないんだが。つまり今はどういう状態だ?」


 話の内容が全くと言っていいほど理解できず頭を傾げる。


「そうだね、実際の文と変更されているが、この物語で例えよう。『彼らは獣人を助けると同時に採集を終えると、そのまま町に戻っていった』との文で第一話が終了した展開だと思われる。ここから実物のラノベを想像してほしい。一話が終わった時、二話目が始まる時は次のページから始まる。例外もあるが物語が一区切りして、新たな話が始まる時は別のページから始まるはずだ」

「まぁ、そういうもんだろ」

「この時の次ページまでの物語、今回二話の始まりは町中になる。一話の終了時、現在の森から二話開始時の町中、その間の帰路の部分は記述がない。空白の部分はどうすることも出来ないから、このように消えてしまうんだ。先程までの彼らは既に町中にいると思われるよ」


 一話目と二話目の切目。

 記述されている事が生成される本の中のため、それ以外は省略される。

 長文の説明によって心の内側に立っていた小さな波は収まり、頭の理解が追いついていく。


「場面展開の記述がなく、次の場面がここじゃない所から始まるから、その場所へ移動したって理解であっているか?」


 正解を示す相槌がされる。

 登山番組で上る場面だけ流され、下山は一切に放送されない原理と似ている現象だと大和の頭は整理された。


「ちなみにここで第一話が終了となるけど……追記体験するかい?」

「いや、ここで終わらせてくれ。なんか疲れがどっと襲ってきた」


 一段落着いたところで、今まで歩いてきた分の披露が襲い掛かって来る。多く蓄積されていたのか今すぐにでも座りたい気持ちが溢れ、全身に重りを乗せられたように重たくなっていた。


「わかった。なら戻るとしよう」


 彼の言葉を聞き入れると、高々と上げられた指から音が鳴らされた。

 響き渡る音と同時に、周囲が吸い込まれるように急激に景色が一掃される。

 ほんの数秒の間に景色も空気も感覚も変化された。

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