第7話 風変わりな青年
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謎の青年登場。
美夜はべルを二回鳴らした。
暫くして人の来る気配がし、様子を伺う。レジ裏には青と水色の薄手の生地で出来た、格子模様の長い暖簾が掛かっている。暖簾下から、黒いズボンを履いた足が見えた。暖簾を潜ってやって来たのは、薄茶色の髪色をした、細く、背の高い青年だった。グレー色の半袖Tシャツを着ており、Tシャツには、何か英文がプリントされていたが、何と書いてあるかは分からなかった。青年は長い前髪を退かすこともなく、無愛想に「いらっしゃいませ」と、覇気のない声で言う。目元は前髪で良く見えないが、一見外国人かとも思える、随分と整った顔立ちだ。
美夜は青年をちらりと見ながら、「お願いします」と、本を差し出した。
青年は本を手にすると、美夜の顔を前髪の隙間からじっと見つめた。鋭い視線に、美夜はたじろぎながらも「お願いします」と、もう一度言う。
青年は美夜から目を逸らすと、レジに鍵を挿し込みながら「この作家、好きなの?」と訊いてきた。唐突な質問に「え?」と聞き返すと、青年は「たまたま手に取っただけか……」と、溜め息混じりに言った。そして、顔を上げて真正面から美夜を見て、はっきりした声を出した。
「悪いけど。それじゃあ、これは売れな……」
「好きな作家なんです!」
美夜は青年が言おうとしている言葉をすぐに察し、青年の言葉を遮り、慌てて答えた。
「好きな作家さんで、ずっと探していたんです」
青年は気のない返事で「ふうん」と言うだけで、本を包もうともしない。美夜は戸惑いながらも、どうしても欲しいと言う思いを伝えなければ、と、必死になり始めた。
「子どもの頃、この人の作品を見たことがあって……。家族で、どこか忘れたけど、美術館へ行って。私と姉は、この人の画集が欲しいと言ったけど、でも、その時、画集は子供には高すぎるって、買ってもらえなくて……」
そう答えると、青年は再び前髪の隙間から美夜を一瞥した。その瞳に、美夜ははっと息を呑む。微かに笑ったように見えた。レジに金額を打ち込むと、青年は「七千円で良いよ」と言った。
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