第6話 画集
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店内には客はおらず、美夜は静かに店内を歩いた。木板の床にあたる靴の音が、静かに響く。
美夜は、すぐにあることに気がついた。
本屋内に置かれた商品は、日本の書籍ではなく、海外の写真集ばかりが置かれている。建築物やガーデニング、フード関係、インテリアといった書籍が、所狭しと置かれている。
店内はさほど大きいわけではなかったが、中二階があり、階段を上ると、そこには画集が置かれていた。
食い入るように、ゆっくり目を移動させ、書籍を見て歩く。
ふと、ある一つのタイトルに目を留めた。
海外の本ばかりの中に、一冊だけ日本語のタイトルがあった。
そっと手を伸ばすと、画集を手に取り開く。本独特の、古くなった紙の匂いが鼻を掠める。
美夜の手は、微かに震えた。
子どもの頃、ある本の表紙でみた絵。両親に連れられて行った美術館で、美月と一緒に彼女の絵に引き込まれた。画集を欲しがったが、子供には高すぎると言って、買ってはもらえなかった。どうせ、すぐにぼろぼろにするだろう、と。それから、大人になった今でも、彼女の画集を探していた。色々画集はあるものの、美夜と美月の心を捕らえ、離さなかった絵が、どれにも載っていなかった。あの絵は、幻だったのだろうか、勝手に作り出した思い出なのか、と思って諦めていた。しかし、その絵が、今、手にしている画集に載っていた。
「夢じゃ、なかったんだ……」
画集をそっと閉じると、金額を見た。「VINTAGE」と書かれた値札に、「¥17,000」と印が押されている。
現在、無職の身としては、かなり痛手の金額ではあったが、今を逃すと、きっと一生出会えない、と思い、買うことにした。きっと美月も喜んでくれる。そう思うと、この本に出会えた嬉しさが倍増し、高額である事への後ろめたさを掻き消す。
美夜は本を抱え階段を下り、レジへ向かった。レジには店員が居ないため、店内を見回したが、美夜以外、誰も居ない。美夜はレジを振り返り、カウンターの上を見た。カウンターの上には、ベルが置かれていた。ベル脇に「ご用の方、ベルを鳴らして下さい 店主」と書かれた札が、カウンターに貼られていた。
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