第21話 うわの空
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美夜がCafe・Lisに行ってから、一週間が経っていた。
あれからも、色々歩いては見たが、Lisに勝る感動の味には出会えていない。
Lisで働きたいとは思ったが、店員募集の張り紙もなかったし、インターネットでもLisのサイトは無かった。直接行って、訊いてみようかとも思ったが、募集していないのに訊いても、同じ結果なのは確実だ。
美夜はベランダに出て、ぼんやりと空を眺めた。動いているのかいないのか分からない雲をじっと見ていると、美月が声が聞こえ、振り向く。
「美夜、今日の夕飯何が良い?今日は私が作る。リクエストあれば作るよ」
「え、いいよ、私が作る」
美夜が、ぼんやりした声で言うと、美月は腰に手を当て、短く息を吐き出した。
「ここ数日、ずっとその調子じゃん。東京出て来たものの、良い店が見つからなくて落ち込んでてさあ。いいよ?別に、いつまでも落ち込んでてもさあ。でも、やっぱ、流石の私でも、黒焦げの魚とか、黒焦げの煮物とか、黒焦げのホットケーキとか。いい加減、胃袋限界かなって思うんだよね」
「ごめん……」
美夜は本当に済まなそうに言った。美月は困ったように微笑むと、「いいけど」と言い、美夜の腕をとり、部屋の中に引っ張る。
「今日、私バイト休みなんだ。この前、美夜が買ってきてくれたケーキのお店、連れてってよ。そこのケーキ食べてさ、元気だしなよ。ね?ついでに、商店街で夕飯の買い物してさ。どう?」
美夜は美月の提案に、小さく頷いた。それを見た美月は「じゃあ、早速出かける準備!」と言い、部屋着のままの美夜に着替えを手渡した。
外は天気が良く、まだ遅咲きの桜が綺麗に咲いていたので、商店街まで歩くことにした。
気持ちの良い柔らかい日差しが、昼寝を誘うようだ。ベランダに立っていたときから、少しうとうとしていたが、こうして日差しの中を歩くと、益々、眠たくなる気がした。
桜並木がある通りに来ると、美夜の目には何もかもが薄ピンク色に見えた気がした。
散った花びらが通りをピンク色に染め、上を見上げると、まだ咲いている桜の花が、風に揺れている。
このまま、不思議の国へ行けそうな気がした。ぼんやりとした眠い頭、綺麗な輝かしいピンク色の世界。今から行く先に、幸運が待っている、そんな気にすらなった。
商店街に着くと、美月は帰りに何を買うかチェックしながら歩いた。焼鳥屋の前を通ると、美月が「今晩、これでもいい?」と、涎を垂らさんばかりの表情で言うので、美夜は笑いながら頷いた。
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