最終話(200話) 光の或る方へ
最終話です。
読んで頂き、ありがとうございます。
勢いよく玄関を出て行った里々衣を見送りながら、美月はため息を漏らした。
「ねえ、ハル」
「ん?」
「私、育て方を間違えたかな?」
「なんで?」
「だって。子供の頃は、ハルがあんなに可愛く育ててたじゃない。私も、高校までは綺麗に、可愛くさせてきたつもりよ?でも、大学入った途端、突然、バッサリ髪を短くするわ、パンツスタイルばっかり……。なんだか、百合さんに申し訳ないよ……」
ハルは小さく笑うと「昔のお前そっくりになってきたよなあ」と、美月の頭を抱き寄せる。
「大丈夫。百合が育てても、きっとあんな感じに育ったよ」
「そう?」
美月はどこか不安そうに栄を見上げた。
昔短かった髪は、今は肩まで伸ばし、ロングのタイトスカートを綺麗に着こなしている。今では美夜と一卵性の双子の様に見え、美月もその格好がよく似合っていると、栄は思っていた。
栄は優しく美月の頭を撫で、「多分」と答える。
「まあ、俺としては、パパ嫌いになることは予定外だったけどなあ」
美月は声を立てて笑う。栄は愛おしそうに妻の顔を見て微笑んだ。
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「光さん、私のトランクに何か入れた?」
美夜はトランクを引っ張りながら光に訊いた。
「何だか、荷造りした時より重たく感じるのよ」
美夜は眉を顰め、自分のスーツケースを見た。
「疲れも出てるんだろう。それに、子供達にお土産って言って、自分で色々買ってただろう?」
光は、大会に出ている間、美夜の実家に預けている、十歳になる双子の息子達を思いながら答えた。
「それにしても、飛行機乗る前より、何だか重い気がするのよねえ」
美夜は腑に落ちない様子で口を尖らせ、ぶつぶつと言っている。
光はにっこりと口角をあげると、「気のせいでしょ」とだけ言った。
美夜は光の笑った顔を見て「あ」と低い声を出した。
「その笑いは!もしかして、またグラス買ったんでしょう!?」
美夜は怒りながらも、頬は緩んでいる。
「バレたか」
「バレます!当然!」
「いいじゃん、自分へのご褒美なんだから」
「私へのご褒美は?二人で取った賞でしょう!」
「二人とも気に入る硝子細工だよ。あとで見たら絶対、美夜も喜ぶって。だから、大事に運んでよ?」
美夜はその言葉を聞くと、若干、物言いたげな表情ではあるが、黙った。
光がそう言って買った過去の硝子細工達は、全て美夜が気に入る物ばかりだったのは、事実だからだ。
「なんですか?その何か言いたそうな顔は」光が横目で美夜を見る。
「……たまには、私も一緒に選びたかったなぁって思っただけ」
その言葉に光は軽く笑い、美夜の頭を撫でた。
「またいつでも機会はある。今度からは、ちゃんと誘うよ。さあ、もうすぐでLisに着く。これで、店の名が上がるな」
光は不適な笑い声を上げた。
「うわあ、何か悪そう」
美夜は苦笑しながら光の横顔を見上げる。
綺麗に整った顔は、昔のような張り艶はないが、それでも美夜にとっては眩しい光を持った大好きな顔だ。
その顔が美夜を見て微笑んだ。
相変わらず、光を射したように、光の周りだけ眩しく輝いて見える。
光は隣で微笑む美夜の手を掴んだ。美夜はそっと光の手を握り替えし、昔と変わらない、花が咲いたような柔らかな笑顔を見せる。
その笑顔を、光は愛おしそうに見つめた。
そして、ふと、初めて長いトンネルの暗闇から見た、光が溢れる明るい場所を見つけた日の事を思い出した。
あの日、トンネルを抜けたら、君がいたんだ。花が咲く様な笑顔で、迎えてくれたんだ。光溢れる場所で。
みんなで光の或る方へ足を踏み入れたら、丸い光の粒が溢れ出した。
その粒は、一つ一つ、愛情が沢山詰まっていて、自分一人じゃ抱えきれなくて。周りにいる大事な人と、自分の菓子を好きだと言ってくれる人達にも、この光の粒を分けて、感謝の気持ちを伝えたい。
あなたが居てくれたから、今こうして、ここにいられる。
あなたがくれた愛情が、俺の背中を押してくれたんだ。
あなたがくれた無償の愛を、今度は俺が手渡したくて。
ただ、ありがとうという言葉を伝えたくて。
その気持ちを、伝え続けていくために。
俺たちは今日も、光の或る方へと歩き続ける。
〈終わり〉
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
心から感謝致します。
皆さんの心の片隅にでも、何か残るものがあったなら幸いです。
読んでくださった皆さまの今後が、光の或る方へ導かれることを、心から願っております。
ありがとうございました。
星野木 佐ノ




