第19話 過去
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『Memory lane 記憶の旅』更新中!
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三年前まで、栄はエリートサラリーマンだった。良い大学を出て、すぐに父親の経営する会社に入社し、将来を有望視されていた。
一方、光は高校を卒業後、フランス旅行をすると言って、家を飛び出した。受かっていた大学を蹴って、父親から勘当され、それでも自分のやりたいことを選び、一人、旅だった。
後に、旅行ではなく、菓子作りの修行に行ったと知った。それを栄に教えたのは、百合だった。
そんな事実を知らなかった頃、栄は、自由奔放に見えていた弟が、ずっと羨ましかった。
自分には、こう、と決められた道が、子どもの頃からあった。それに比べ、弟には、どんな時も、いくつもの道が開かれていた。ように見えていた。しかし、実際はそうではなかった。
光は、栄以上に、栄の知らないところで、家の柵に苛まれていたのだ。
優秀な兄、その兄の片腕と成る可く弟として、兄以上に優秀でなければいけない。
光は、そのプレッシャーの中で、ついに切れてしまった。中学受験を終え、中学へ上がると、不良の輪に入り、何度か警察に補導される事も。
元々、頭の回転が速い光は、良い事にも悪い事にも、その頭脳を生かした。そして、面倒見も良い事もあり、不良仲間は光に一目置いていた。気がつけば、光の部屋はいつの間にか不良仲間の溜まり場になっていた。
光がそこで何をしていたのかは、その当時、栄は知らなかったが、後に、毎日、勉強会をしていたのだという事を知った。
高校へ行きたい。
誰もがそう思って、光に勉強を教わりに来ていたのだ。エスカレーター式の学校とはいえ、試験の結果が悪ければ進級できない。
だが、その事実を知らない栄は、心底驚かされた事があった。栄には勉強をしている素振りを一切見せていなかった光が、有名進学校に合格した事だ。皮肉なことに、栄が行った高校よりも優秀な学校だった。
その時、栄は少なからず、弟に嫉妬心を持ったのは確かだ。
自分は毎日、必死で勉強して受かった学校を、光は、毎日不良仲間と遊び呆けていたのに受かったことが、不公平に思えたのだ。
その事を、後に光に言うと、光はいつもの輝く笑顔でこう言った。
「そりゃ、隠れてやってたさ。それはもう、必死ってどころじゃなかったよ。ハル兄が、俺に気がついてくれるならって、思ってたから」
六歳年の離れた兄弟で、家がそれなりの金持ち。将来、会社を継ぐように道を作られているとなると、どんなに血の繋がった兄弟でも、年を取るにつれて、ぎすぎすして来るものだと、栄は思っていた。
しかし、光は違った。子どもの頃から、いつも同じだった。何も変わらない。兄と遊ぶのが好きで、兄に負ける事が嫌いで、それでも毎回負ける。その度に、輝く笑顔で「やっぱ、ハル兄は、すごい」と言った。
しかし、その言葉を、いつからか素直に受け入れられなくなっていた。
「どうせ、そう言って、腹の底では笑って俺を馬鹿にしているんだろう。今だって、今までだって、ずっと」
そう思っていた。それでも、そんな事を微塵も見せず、光の好きな「理解ある、優秀な兄」を演じ続けた。それで良い関係がいつまでも続くなら、それでいいと思っていた。いつまでも騙された振りをしてやるさ、そう思っていた。
でも、それは全部、間違っていた。
その間違いを、栄の捻くれた心を、優しく、いとも簡単に解したのは、百合だった。
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