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【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
1 はじまり

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20/201

第19話 過去

いつも読んで頂き、ありがとうございます。


同時進行でミステリー系ヒューマンドラマ

『Memory lane 記憶の旅』更新中!

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こちらも、宜しくお願いします!


 三年前まで、栄はエリートサラリーマンだった。良い大学を出て、すぐに父親の経営する会社に入社し、将来を有望視されていた。

 一方、光は高校を卒業後、フランス旅行をすると言って、家を飛び出した。受かっていた大学を蹴って、父親から勘当され、それでも自分のやりたいことを選び、一人、旅だった。

 後に、旅行ではなく、菓子作りの修行に行ったと知った。それを栄に教えたのは、百合だった。

 そんな事実を知らなかった頃、栄は、自由奔放に見えていた弟が、ずっと羨ましかった。

 自分には、こう、と決められた道が、子どもの頃からあった。それに比べ、弟には、どんな時も、いくつもの道が開かれていた。ように見えていた。しかし、実際はそうではなかった。

 光は、栄以上に、栄の知らないところで、家の柵に苛まれていたのだ。

 優秀な兄、その兄の片腕と成る可く弟として、兄以上に優秀でなければいけない。

 光は、そのプレッシャーの中で、ついに切れてしまった。中学受験を終え、中学へ上がると、不良の輪に入り、何度か警察に補導される事も。

 元々、頭の回転が速い光は、良い事にも悪い事にも、その頭脳を生かした。そして、面倒見も良い事もあり、不良仲間は光に一目置いていた。気がつけば、光の部屋はいつの間にか不良仲間の溜まり場になっていた。

 光がそこで何をしていたのかは、その当時、栄は知らなかったが、後に、毎日、勉強会をしていたのだという事を知った。

 高校へ行きたい。

 誰もがそう思って、光に勉強を教わりに来ていたのだ。エスカレーター式の学校とはいえ、試験の結果が悪ければ進級できない。

 だが、その事実を知らない栄は、心底驚かされた事があった。栄には勉強をしている素振りを一切見せていなかった光が、有名進学校に合格した事だ。皮肉なことに、栄が行った高校よりも優秀な学校だった。

 その時、栄は少なからず、弟に嫉妬心を持ったのは確かだ。

 自分は毎日、必死で勉強して受かった学校を、光は、毎日不良仲間と遊び呆けていたのに受かったことが、不公平に思えたのだ。

 その事を、後に光に言うと、光はいつもの輝く笑顔でこう言った。


「そりゃ、隠れてやってたさ。それはもう、必死ってどころじゃなかったよ。ハル兄が、俺に気がついてくれるならって、思ってたから」


 六歳年の離れた兄弟で、家がそれなりの金持ち。将来、会社を継ぐように道を作られているとなると、どんなに血の繋がった兄弟でも、年を取るにつれて、ぎすぎすして来るものだと、栄は思っていた。

 しかし、光は違った。子どもの頃から、いつも同じだった。何も変わらない。兄と遊ぶのが好きで、兄に負ける事が嫌いで、それでも毎回負ける。その度に、輝く笑顔で「やっぱ、ハル兄は、すごい」と言った。

 しかし、その言葉を、いつからか素直に受け入れられなくなっていた。


「どうせ、そう言って、腹の底では笑って俺を馬鹿にしているんだろう。今だって、今までだって、ずっと」


 そう思っていた。それでも、そんな事を微塵も見せず、光の好きな「理解ある、優秀な兄」を演じ続けた。それで良い関係がいつまでも続くなら、それでいいと思っていた。いつまでも騙された振りをしてやるさ、そう思っていた。   

 でも、それは全部、間違っていた。

 その間違いを、栄の捻くれた心を、優しく、いとも簡単に解したのは、百合だった。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] 光と栄の兄弟、やはりお金持ちの子供ということでギスギスしていたのですね…なんでお金持ちの息子ってギスギスするんでしょうね…。
2022/09/23 09:34 退会済み
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