第1話 上京
新作です。
ファンタジー要素ゼロの恋愛小説です。
よろしくお願いします。
東京の空気は重い。
中西美夜が東京に持った第一印象は、それだった。深呼吸をして、身体の中を駆けめぐる空気は、田舎の空気に比べ重く、ゆったりとしている。そんな気がした。
東京に到着して、四日目の朝。引っ越しの荷ほどきを終えた段ボールを玄関先で纏め終え、空を見てそう思った。
双子の姉と一緒に上京したものの、初めての東京。初めて親と離れて暮らすという事に緊張し、周りを見ている余裕すらなく、気がつけば四日も経っていた。
美夜が東京の狭い空を仰いでいると、玄関のドアが開くのと同時に「美夜、この段ボールもお願い」と、アルトの声が響く。
振り向くと、双子の姉の中西美月が顔を出し、一枚の段ボールを差し出している。
「あ、纏め終えてたか。ごめん、じゃあ、いいや。また今度にする」
美月は美夜の足元にある、紐で纏められた段ボールを見て部屋の中に引き返そうとしたが、美夜は「いいよ、大丈夫」と言って、美月の持っていた段ボールを手に取る。美月はにこりと少年のような笑みを見せ、「サンキュー」と礼を言い、ドアの向こうに姿を消した。
双子と言っても、二卵性のせいか、外見や性格、趣味は似ていない。
姉の美月は、常に髪を短くし、運動好きで活発に動き回る。一見、大雑把のようにも見えるが、静かに細かい絵を描くことも好きだ。一方、妹の美夜は、綺麗なストレートの黒髪を肩の下まで伸ばし、おっとりした性格で、料理好き。読書や音楽、絵画鑑賞といった、静かな時間を過ごす事が好きだ。間逆にも見える二人だが、共通している点はいくつかある。好奇心が旺盛であること、美術館巡りをすること、そして、多少頑固なところが有ること。
美夜は段ボールを纏め直し、ゴミ捨て場に置きに行くと、アパートの管理人がにこやかに挨拶をしてきた。
「どう?荷ほどきは進んでる?何か困ったことがあったら、いつでも言ってちょうだいね」
美夜は礼を言うと、早々に部屋へ戻った。
都心から少し離れた場所にあるアパートの一室。2LDK、風呂、トイレ別のこの部屋は、多少、値が張ったが、二人が納得したお気に入りの物件だった。
三日前まで段ボールだらけで、本当に住める状態になるのだろうかと不安だったが、二人は三日間、食事をする以外の外出はせず、朝から晩までマーキングでもするかのように、カーペットや家具、小物類を好きなように配置し、効率よく片付けをしていった。そして、三日目の夜。ようやく自分たちらしい部屋になり、ここで暮らすという事実を実感した。
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