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【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
9 百合と沖田兄弟の過去

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第178話 塩ラーメン

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 昼過ぎ、光は携帯電話の音で目を覚ました。

「アロー」と寝ぼけた声を出すと、同僚のニルスの声が聞こえてきた。


『アロー、コウ。なんだ、まだ寝てたのか?兄さん、来てるんだろ?もしかして、もう帰っちゃったのか?』


『ニルス……?いや、まだ居るよ……。ところで、どうしたの?何かあった?』


『ああ。コウ、昨日ケーキ作ったの、持って帰るの忘れてたろ。兄さんに食わせるって言ってたろ?冷蔵庫に仕舞ってあるから、取りに来いよ』


 光は『そうだった!』と大きな声を出し、起き上がる。待ち合わせの時間に遅れていることに気がつき、大慌てで店を出たことを思い出した。


『忘れてた。ありがとう。後で行くよ』


『ああ、じゃあ、後でな』


 電話を切ると、壁時計に目を向ける。午後一時を指そうとしていた。


「ハル兄、起きて。もう昼の一時だ」


 光に揺すり起こされ、栄は唸りながら寝返りを打ち、再び寝た。光は軽く息を吐き出すと再度、兄の肩を揺する。


「……昼ご飯、用意するから、出来たら起きて」


 栄の呻き声のような返事を聞きながら、光はキッチンへ向かった。


 キッチンの簡易テーブルの上に、百合からのメモ書きが残されていた。メモには、インスタントラーメンを一袋食べたという事、午後五時までには帰るという事が書かれていた。

 光は鍋に水を入れ、火をかけると、棚を開けて数種類あるインスタントラーメンの中から、塩味を二つ取りだし、袋を開けた。ラーメンが入った棚の隣の扉を開け、コーンの缶詰を取り出し、缶切りで蓋を開ける。

 湯が沸き始め、乾燥麺を二つ放り込むと火を弱め、キッチンを出た。

 バスルームへ行き、顔を洗い、歯を磨く。髭は剃ったが、寝癖の付いた髪はそのままに、再びキッチンへ戻る。麺が解れ、丁度良い塩梅だ。スープの素を入れ、軽くかき混ぜ、火を止めて丼を用意した。

 麺を取り分け、スプーンでコーンをどっさりと入れる。冷蔵庫からバターを取り出し、適当な大きさをコーンの上に落とす。トレーに丼と箸を乗せ、リビングに戻り、栄を起こした。

 栄は美味しそうな香りに目を覚まし、起き上がる。目の前に置かれた光特製コーン塩ラーメンを、寝ぼけ眼でじっと見つめ、「大胆だな」と、ぽつりと言った。

 ラーメンは普通に美味しかった。二人は黙って食べ進めていると、不意に栄が「毎日、こんな感じか?」と訊ねる。

 光は「まあ、大体はこんな感じ」と返す。


「ちゃんと食え。たまにはさ」


 そう言うと、麺をすすった。


「食べてるよ。昨日行った和食屋とか。たまに店の総菜もらって帰ったりして」


「自炊しろよ。自炊。安月給なんだから」 


「ん」

 

 光は気のない返事をしつつ丼を持ち上げ、スープを飲んだ。


「今はまだ、若いから良いんだ。でも、今のままだと、必ずガタが来る。年取ったとき腹に来るぞ」


 半ば恨めしげに言う。


 丼を降ろした光は、「それは、実体験?やっぱ二十六辺りになると、来るもん?」と、しれっと言う。

 栄は益々恨めしげに顔をしかめ、光を黙って睨み付けた。

 光はそれを見て見ぬ振りをして、「ごちそうさま」と言いながら立ち上がると、バスルームへ向かった。

 栄は下に沈んだコーンを食べ終えると、食器を洗った。

 暫くして、光が頭を拭きながらバスルームから出てきた。石けんの香りを漂わせながら室内を歩き、「三時になったら、店に一緒に行こう」と独り言のように言う。


「ん?なんて言った?」


「あとで、一緒に店に行こう。大事な物、忘れてきたんだ。それに、シェフも会いたがってたし、今日ならオーナーも居る」


 そう言いながら、「じいちゃんのライバル、見たくない?」と、いたずらっ子のように微笑んだ。

 栄は了解すると、まだ少し残った酔いを覚ますため、シャワーを浴びにバスルームへ向かった。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


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