第161話 揺れる気持ち
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美夜は服に着替えながら、深い溜め息をついた。
「なあに?若いのに、そんな年寄りみたいに深い溜め息なんかついて」
雪は美夜の後ろで着替えながら笑った。
「ああ……いえ……」
美夜は小さく微笑むと、また溜め息をついた。
雪は苦笑すると「何があったの?」と、美夜に訊いた。
美夜は振り返り雪を見ると、迷うように視線をふらつかせ「雪さん」と、視線を雪に定めた。雪は「ん?」と眉を上げ、穏やかな表情で美夜を見つめる。美夜は目を伏せ、息を吐き出すと「あの……」と、しどろもどろ話しを始めた。
話しを聞き終えた雪は、やっぱり、と思いつつも、「そう」と小さく微笑んだ。
「それで、あなた自身は、コウくんをどう思っているの?」
雪は優しく訊ねた。美夜は困ったように小さく頭を左右に振ると「わかりません」と答えた。
「わからない、か。本当にそうかな?」
「え?」
美夜は顔を上げて雪を見た。雪はにっこり微笑み「いい?美夜ちゃん」と言った。
「本当に分からないなら、あたなは一体、今何に悩んでいるの?選択肢は二つ。好きか、嫌いか。付き合う、付き合わないはひとまず置いといて、あなたはコウくんを好き?嫌い?」
美夜は小さな声で「好き、です」と答えた。
雪は顎を引くと、どこが好きなのかと訊ねた。
「どこが……ですか?」
「美夜ちゃんさあ、前、ハル君のこと、好きだったでしょう?」
雪は頬を赤く染めた美夜を見て、にっこり微笑んだ。
美夜は雪から顔を背けると、自分の足元に視線を落とす。
「なんだか、自分が嫌になります」
「あら、どうして?」
雪は驚いた顔で訊いた。
「だって……。去年の夏頃までハルさんを好きだったんですよ。なのに、コウさんに好きって言われて、揺れてる自分が居て……。なんか、自分が醜いです……」
その答えを聞き、雪は声を立てて笑った。
美夜は雪を見る。なぜ笑うのかと小首を傾げる美夜に、雪は言った。
「あなた、答え出てるじゃない」
「え?」
「コウくんに惹かれてるって。揺れてるって今言ったじゃない」
「……はい」
雪は小さく息をつくと、「私もね、昔そう言う事あったわ」と、懐かしむように話をはじめる。
「失恋して、参ってたとき。仲良かった男友達が、いつも側にいてくれたの。彼の優しさが沁みてね。彼に惹かれ始めた。その時、私も自分がいやらしい人間に思えたわ。でもね、その時、考えたの。最近まで好きだった人と、今、好きな人。一体、私は彼等の何に惹かれたんだろうって。そう考えたとき、最初に好きだった人は、“憧れ” だったって事に気がついたのよ。そういえば、私、彼の前では本当の自分らしくなかったなって。今、好きな男友達とは、すごく安心できたし、自然体で居られるって」
雪は美夜に優しく微笑んだ。
「あなたも、自分の心に聞いてみなさい。どうしてコウくんを好きになったのか。前好きだった人、今好きな人、どっちが自分らしく居られるか」
美夜は雪の言葉を心の中で呟き、「はい」と頷いた。
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