第11話 常連客
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美夜が店内の音楽と画集に集中していると、ドアに付いた呼び鈴が店内に鳴り響き、一人の中年の男が大きな声を出して入ってきた。
「ハルちゃん、まだ大丈夫かい?いつもの、まだあったらお願いできる?」
「いらっしゃい、タケさん。大丈夫ですよ。まだあります。ちょっと待ってて下さい」
ギャルソンはにこやかに言うと、タケさんと呼ばれた中年男は、さっと店内を見渡し、美夜に目をとめた。
「珍しいな、この時間にお客さんとは」
そういうと、タケさんはカウンターの席に座った。
「失礼なこと言わないでくださいよ。まるでお客が来ない店みたいじゃないですか」
ギャルソンは苦笑しながら言った。
「タケさんこそ、今日は遅いおでましで……」
ギャルソンはタケさんと談笑しながら、美夜の注文の用意をした。
美夜は聞いていない振りをしながら、黙って画集に目を向けて集中する。すると、頭上に「失礼します」と心地のよい声が降ってきた。美夜は慌てて画集を袋に仕舞うと、ギャルソンは滑らかな動きでテーブルの上に紅茶のポットとカップを静かに置き、ケーキを乗せたプレートを置いた。
「うわぁ、可愛い……」
チーズケーキが乗ったプレートは、綺麗に盛りつけをされてる。ケーキの周りを薄いピンク色のソースが点々と囲み、フランボワーズとブルーベリーが、バランス良く散らばっていた。プレートの脇には、グラスに入ったシャーベットが添えられており、白いシャーベットには、カラメルで作られた葉の形をした菓子が飾られている。
ギャルソンは小声で「本日はサービスです」と言った。美夜は驚いて顔を上げ、ギャルソンを見ると、彼はおどけた顔をして見せた。
「なんだ、お嬢さん、チーズケーキ選んだのかい」
タケさんはカウンターの椅子を回転させ、美夜に向かって声をかけた。
人の良さそうな笑顔を向けて、嬉しそうに話を続ける。
「ここのは旨いぞお。ここの食ったら、他のは食えなくなるぞ」
ギャルソンは笑いながらタケさんを振り返る。
「タケさん、うちの大事なお客様にちょっかい出さないでよ」
そう言うと、すぐに美夜に顔を向け「すみません。悪い人では無いんですよ」と言い、カウンターへ戻っていった。
ギャルソンがタケさんにコーヒーとチーズケーキを出すと、タケさんは黙って食べるのに集中した。
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